6月2日(土曜日)に福祉ビデオシリーズ『優しい認知症ケア ユマニチュード』の完成を記念したフォーラムを福岡市役所・講堂で開催しました。361人が参加し、会場は超満員。遠くは愛媛、長崎、鹿児島、横浜から参加した人もいました。

第1部はイヴ・ジネストさんの特別講演:《家族のためのユマニチュード》

ユマニチュード考案者のイヴ・ジネストさんが、NHK厚生文化事業団が制作した福祉ビデオシリーズ『優しい認知症ケア ユマニチュード』の映像を交えて、講演を行いました。映像では80歳の妻(アルツハイマー型認知症・要介護2)を介護する同い年の夫・和夫さんと娘ひろみさんの家族のケースを紹介しました。認知症になってから、「いま何時?」「今日は何日なの?」と毎日同じ質問を繰り返えす妻に和夫さんは腹が立ち、怒鳴ってしまうこともあると言います。仕事と介護を両立しているひろみさんも、忙しいと母親に対して、つい強い口調になってしまうと悩んでいます。

イヴさんは家族の悩みを伝える映像をもとに「認知症の人の記憶の特徴」について解説しました。認知症になると1分前に聞いたことを忘れてしまうこともあるが、「”嬉しい”、”悲しい”、”嫌だ”などの感情の記憶は最後まで残り続ける」と話します。また、認知症の人が同じ質問を繰り返すのは、不安からくるもの。例えば「いま何時?」と同じ質問を繰り返す時には「さっき聞いたでしょう!」と怒る代わりに本人の目をきちんと見て優しい口調で応じ、「時間を教えてくれてありがとう。お茶の支度をしましょう」と”本人の好きなこと”を提案するなど気持ちを逸らしてあげることも一つの技術だと伝えました。

また、イヴさんが和夫さんの家族を訪問し、ユマニチュードの特別講義を行った映像も上映されました。イヴさんが、娘のひろみさんにユマニチュードの基本の柱《見る》の技術を使って真正面から近い距離で見つめると、張りつめていたひろみさんの瞳に涙が浮かびます。イヴさんはひろみさんに「この病気に一番効くのは視線を向けてあげること。お母さんにとっては”あなたの存在自体”がお薬だと思ってみて。(腹が立って)『あぁ、もう無理かな』と思った時ほど『おかあさん!』と言って抱き締めてあげて下さい」と語りかけました。ひろみさんが母親に触れ、目をしっかりと見つめて「お母さん。好きだよ」と伝えると母親は笑顔になりました。また、イヴさんは会場の参加者に向けて、ユマニチュードの基本の柱《見る》《話す》《触れる》《立つ》について実演を交えて伝えました。

第2部はトークセッション:《イヴさんと考える“認知症に優しいまち”》

トークセッションに登壇したのは、次の皆さんです。

★イヴ・ジネストさん(ユマニチュード考案者)
★大熊 由紀子さん(ジャーナリスト / 国際医療福祉大学大学院・教授)
★下島 康則さん(介護家族 / 福祉ビデオに出演)
★本田 美和子さん(東京医療センター・総合内科医長)
★内田 直樹さん(たろうクリニック・院長 / 精神科医)
☆内藤 裕子さん(司会 / フリーアナウンサー)

ジャーナリストの大熊 由紀子さんは「海外に比べて、日本では人口千人当たりの精神科病院のベッド数が突出して多い。本来は地域で暮らすことができるはずの認知症の人が精神科病院に入院しているケースが少なくない」と日本の認知症医療の現実に警鐘を鳴らしました。また、福祉ビデオのパッケージの絵を描いたのが、認知症当事者・佐藤 雅彦さんであることを紹介し、「当事者の声を福岡市の”認知症に優しいまち”作りやユマニチュードに活かしてほしい」と提言しました。

福祉ビデオに出演した下島 康則さんは、前頭側頭型認知症の妻・節子さん(要介護5)を介護しています。病気の進行のため、言葉を発することができなくなった妻にユマニチュードの基本の技術を使って関わることで、「妻の気持ちが分かるようになった」と語りました。また、「自分のように介護に悩んでいる人を助けるため、ユマニチュードを学んだ家族で『集いの会』を立ち上げ、福岡市や地域の人と共にユマニチュードを広めていくことができないか」と提言しました。イヴ・ジネストさんは下島さんの提言に対して、「”ユマニチュード・オレンジファミリー”のようなものを福岡で作ることができないか」と応じました。日本でユマニチュードの普及や研究で中心的役割を果たしている本田 美和子医師は「福岡市と相談をしながら、前向きに検討していきたい」と語りました。

福岡市内にクリニックを構えている内田 直樹医師は、「訪問診療」を受けながら住み慣れた地域で生き生きと暮らし続けている認知症の人とその家族の例を紹介しました。病院に行くことを嫌がる人も、医師が自宅を訪ねてくれる「訪問診療」なら受け入れてくれることが多いと言います。病気を正しく診断し、薬を調整したりすることで認知症の行動・心理症状(BPSD)が改善するケースも多いそうです。「疲弊している介護者のサポートも医師の役割。また、医師や看護師などの専門職やご近所の人たちが支えることで、”一人暮らし”の認知症の人でも自宅で暮らし続けることができるケースもある」と話しました。


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