蛯子陽太《アメリカンショートヘアー》 HEARTS & ARTS VOL.118
公開日:2025年5月15日

今回ご紹介するのは、「studioBREMEN」(北海道・北見市)の蛯子 陽太(えびこ・ようた)さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。
作者紹介……蛯子 陽太(えびこ・ようた)
一緒に遊びたい・会いたい動物を描いています。犬猫はもちろんですが、現在はコロナ禍以降動物園に行けていないので、会いに行きたいアピールでたくさんの動物を描いています。(特にライオン、トラ、キリン)
キュレーターより 《中津川 浩章さん》
蛯子 陽太《アメリカンショートヘアー》
たしか2019年だった。私も参加する一般社団法人Get in touchでは、スターバックスコーヒージャパンと協働して「MAZEKOZEアート」というプロジェクトに取り組んでいた。その時にキュレーターとして訪れたのが、北海道北見市のstudio BREMEN/スタジオブレーメン。そこで初めて蛯子陽太の作品に遭遇した。その後も強く印象に残り続け、いつか自分がキュレーションする展覧会で展示したいとずっと思っていた。そして、念願かなって2025年、大阪・関西万博の会場で6月に開催される「Spread Our Common Sense/共通感覚を拡げて」という展覧会で、全国の障害がある作家たちの一人として蛯子陽太の作品が並ぶことになった。
彼の絵はとても魅力的であるがゆえに、作品を勝手に譲渡されてしまうなどして搾取されることがかつてはあったという。それを見て、現studio BREMEN代表の伊藤栄一が、これではいけないと作家の権利を守り創作活動をサポートするスタジオBREMENをつくった。スタジオができるきっかけになった作家だ。
6年ぶりにstudio BREMENで蛯子と作品たちに再会した。彩度は抑え目ながらも味わいのある豊かな色彩、大胆でユーモラスなフォルム。どことなく人懐っこく親しみをおぼえる不思議な動物たちの姿は相変わらずだ。
今回紹介するのは《アメリカンショートヘアー》。強い筆圧でオイルパステルをぐいぐいと動かしダイナミックに描いていく。出来上がりの絵がもうすでに見えているかのように迷いがない。色彩を自由に操る。色面は黒の絵の具が他の色と混ざり合って独特の生命感がある。ふだん絵の具なら40分、オイルパステルだと1時間くらい。とにかく完成まで短時間、だが単純ではない。
蛯子は33歳。自閉スペクトラム症がある。最初に会った時に一番印象的だったのは、蛯子が自分のことをヒトではなくアメリカンショートヘアーだと思っているという話だ。蛯子が興味を示すのは動物だけで、小動物のふれあいコーナーに行くと、まるで手のひらで語り合っているかのようにずっと触れている。猛獣もそばでずっと見つめていて飽きることがない。ある所で閉じ込められていた動物の檻のカギを外して逃がしてやったこともあるという。障害があるアーティストは動物をモチーフに描くことが多い。特に感受性が強い自閉スペクトラム症のアーティストは動物との特別な交信があるように以前から感じていたが、蛯子に出会ってその思いをさらに強くした。
*蛯子陽太の作品を見ることができます。
2025大阪・関西万博
BiG-i Art Project 展覧会
Spread Our Common Sense
/共通感覚を拡げて
開催日: 2025年6月2日(月)~4日(水)
時間: 11:00~20:00(最終日は14:00閉場)
主催: 国際障害者交流センター ビッグ・アイ/独立行政法人日本芸術文化振興会/文化庁
協力:Bunkamura/大阪府
会場:大阪 夢洲(ゆめしま)ギャラリーWEST
詳しくは国際障害者交流センター ビッグ・アイのサイトをご覧ください。(NHK HEARTSのサイトを離れます)
プロフィール
中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)
記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。
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