2016年10月2日(日)、東京都港区、政策研究大学院大学の想海樓ホールで、NHKハートフォーラム「摂食障害 100人100色の『回復』」を開催しました。

当事業団では摂食障害をテーマとしたフォーラムは初めてのことです。講師には内科医・臨床心理士・摂食障害本人や自助グループの方など、普段は一堂に会することのないメンバーが勢揃い。摂食障害の本人やその家族を中心とする226人の来場者を前に、摂食障害のさまざまな回復のあり方について話し合いました。

第一部では
鈴木眞理さん(内科医・政策研究院大学院大学教授)
信田さよ子さん(臨床心理士・原宿カウンセリングセンター所長) が講演。
第二部では摂食障害本人2人による体験談の後、専門家によるパネルディスカッション。荻上チキさんが司会をつとめ、鈴木眞理さん、信田さよ子さんに鶴田桃エさん(自助グループ「NABA」代表)を加えたメンバーで行いました。

鈴木眞理さん「ストレスとの付き合い方が大切」

内科医の鈴木眞理さんは、医学的な観点から見た摂食障害の概説に加え、昨年設立された摂食障害治療支援センター・今年法人化した日本摂食障害協会の活動について解説しました。

摂食障害はストレスをためこんで解消しにくい「人生障害」であり、「100点じゃないといけない」といった極端な考え方を、「60点でもいいんだ」という、ストレスを大きくしない方へ変えていくことが大切だと語りました。

また「当事者・家族が気軽に相談に行ける摂食障害治療支援センターが全国10か所に設立されようとしていますが、現在資金面などの問題から設立は3か所に留まっています」と話し、参加者へも署名活動などへの協力を呼び掛けました。

信田さよ子さん「摂食障害のメリットも認識して」

信田さんが強調するのは、アディクション(嗜癖)の視点から摂食障害を見ること。
摂食障害の症状には身体面でデメリットがある半面、心理的な鎮痛効果により、現実のつらさから目を背けられるというメリットがあるという事実も認識することが必要だといいます。
時折冗談を交えながら話し、「カウンセリングでも、一度は笑いあってほっとできるような時間を持ってもらえたらと思っています」と話しました。

二人の講演後には、東京近郊から摂食障害の自助グループや家族会、合わせて9グループが集まり、檀上でグループの紹介をしました。フォーラムの休憩時間・終了後にはそれぞれのブースで参加者の方に直接活動の紹介をしたり、体験を語ったりと、活発に交流しました。

本人2人の体験談

第二部のはじめには摂食障害の本人2人が、それぞれどのように摂食障害と向き合ってきたか、体験談を話しました。

10か所もの病院を回った結果、親身になってくれる先生と出会うことができ、命をつなぎとめながら、友人との旅行をきっかけに、希望を持ちはじめるまでを明るく話した、あやさん。

自助グループに通い、自分と似た思いを持つ仲間との交流の中で、自分自身を受け入れられるようになってきたことを、時に息を詰まらせながら話したナオキさん。

2人の率直な言葉が会場全体に伝わりました。

パネルディスカッション「それぞれの『成長』への道」

その後は鈴木眞理さん、自助グループ「NABA」代表の鶴田桃エさんが加わりパネルディスカッション。それぞれの立場から、摂食障害の「回復」とは何か、またどういったアプローチでそれを目指しているのか意見交換しました。

鈴木眞理さんは「私達医師は体重を正常な値まで戻したり、症状を抑えるように指導することで、体を健康にすることを第一に行動している。ただ私は、本来はそれ以上にまず本人が今後社会の中でどう生きていきたいのかを考え、落ち着きどころを決めていくべきだと思っています。」と、本人の気持ちに寄り添った治療の必要性を訴えました。

信田さんは「カウンセリングは『より早く確実に健康に』、という考えではありません。『回復』と言えるようになるのは10年以上かかるかもしれませんが、私はその中身を見てほしいと思っています。グループやカウンセリングも結構楽しいんですよ。ただ困っていることを相談するのではなく、そこで何か得るもの、楽しいことがあって、『気づいたら10年たっていた』そんな風でいてほしい」と話しました。

鶴田さんは「NABAでは『回復のゴール』みたいなものを設定することはしていません。ただ自助には安心感があります。元気な振りをするんじゃなく、具合の悪いままでも一緒にいられる。仲間の顔を見て、一人じゃないと思えたり、何よりホッとできるっていうことが自助グループならではの素晴らしさだと思います。自助グループっていうと自分が何を話すかが大事だと誤解されがちですけど、まず大事なのは、話すよりも聞くこと。自分には厳しくても、仲間の話に共感することで、仲間の体を借りながら自分に共感し、自分を肯定できるようになっていくんです」と話しました。

3人の話を受け、荻上さんは「人それぞれの状況に合わせていろいろな支援を利用しながら、本人が普段抱えている辛さを降ろせる場所を確保できれば、『人生障害』を緩和していけるかもしれません」とまとめました。

質問コーナーでは、「拒食の娘に対して、母親としてパワーをいつどういう風に出したらいいですか?」という質問に、信田さんが「母親の存在自体がすごいパワーです。ただそこにいるだけでもよく、あえてパワーを出す必要はありません」と答え、鈴木さんも「子どもの方からこれをしてほしい、という時だけ、一生懸命手伝ってあげて欲しい」と無理のない支援を呼びかけました。鶴田さんも「『監視』ではなく暖かい『関心』を」と補足し、多くの参加者がメモを取っている様子がうかがえました。

最後には、鈴木さん、信田さん、鶴田さんが「こうした異なる立場の専門家が集まる機会を定期的に持ちたい」と話し、会場から大きな拍手があがりました。

アンケートから

「病気になったことが恥ずかしいと思っていたけど、お話を聞いて、自分がダメで悪いからなったんじゃないと思った。体験者の話もきいて、何かキッカケがあったらよくなっていけそうだって思う。自分のこと受け入れられるようになりたい。」(20代女性・当事者)

「白か黒かを求めがちだが、グレーでもいいんだという話が参考になった。母である私と夫と娘の、ちょうどいい関係をさぐってみようと思った。」(50代女性・家族)

本人やご家族から、今後の希望を見出せたという声を沢山いただきました。

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