160906_wakaba1 福島県南部に位置する鮫川村の「あぶくまエヌエスネット」は、阿武隈高地の豊かな自然を活用した里山生活体験を提供しています。東日本大震災後の2013年から障害のある子どもの支援をしている団体とともに、毎年夏に福島県に暮らす知的障害や発達障害のある子どもを対象にした宿泊体験にも取り組んでいます。
第28回わかば基金の支援金を活用して、今年も7月30日から4泊5日の日程で開催。今回は小学3年生から中学3年生までの15人が参加しました。

新しい友だちができた!

 取材に訪れたのは宿泊体験3日目となる8月1日。この日の午前中は川遊びの予定。けれども、不安定な天候のために、急きょ村営のプールに変更。川遊びを楽しみにしていた子どもたちはちょっと残念だったようです。
でも、子どもたちはプールに入れば元気いっぱい。ビーチボールで遊んだり、水をかけ合ったり、ボランティアにしがみついては水中に放り投げられるのを喜んだり、みんなでキャッキャキャッキャとおおはしゃぎです。

 午後はプールの隣にある体育館に移動して、「ティーボール」を楽しみました。「ティーボール」は野球のような競技で、違う点は止まっているボールを打つこと。そのため誰でも参加しやすい競技です。子どもたちはボールを打っては全速力でベースを回り、守備では点数を取られまいと飛んできたボールにすばやく駆け寄り、汗を流していました。

 初めて宿泊体験に参加した中学1年生の男の子は、誰よりも楽しんでいる様子でした。自分のチームに点数が入るたびに「やったー」と万歳。守備でファインプレーを見せたボランティアには、「すごい」といって抱きつき大喜び。この男の子は普段は外で遊ぶことがほとんどなく、学校から帰るとパソコンで調べものをしたり、ゲームをしながら過ごしているそうです。キャンプの感想を聞くと、「みんなと友だちになれたし、思っていたより楽しい」と満面の笑みで答えてくれました。

制度からこぼれ落ちてしまう子どもに居場所を

 20年以上前から子どもや大人に里山生活体験の場を提供していた代表の進士 徹(しんし とおる)さんが、障害のある子どもたちだけの宿泊体験プログラムに取り組み始めたのは、東日本大震災での原発事故がきっかけでした。

 進士さんは震災から1週間ほどたったときに、郡山市やいわき市、白河市などで暮らす宿泊体験のある親子60組ほどにアンケートをしました。そこには、「兄弟げんかが増えた」、「上の子が下の子をいじめる」、「眉毛を抜くなどの自傷行為が止まらない」といった子どもの変化を心配する声がたくさんあったそうです。特に障害のある子どもの親の声は深刻でした。
『子どもたちのストレスを減らしたい。でもどうすればいいのか・・・』。障害者支援の専門家ではない進士さんは悩んだといいます。その時に協力したのが、以前からの知り合いだった石井 英行(いしい ひでゆき)さんでした。石井さんは神奈川県で発達障害のある子どもの支援をしている「歩人(ほびっと)クラブ」を主宰しており、福島で暮らす障害のある子どもたちの状況を危惧していました。

 石井さんは、「比較的、障害が軽いとみられる子どもたちは、地域の小中学校では周囲の子どもからは取り残されてしまいがちです。かといって特別支援学校では、“できる子”としてみられ、支援が手薄になってしまうんです。制度のはざまにいて、居場所がないんです。震災でますます居場所がなくなってしまった。だからこそ、すくい上げなくてはならないんです」と力を込めます。 そして、進士さんは石井さんとともに、2013年から障害のある子どもたちが親と離れて参加する宿泊体験プログラムを始めたのです。

安心できる場所だから楽しめる・成長できる

 『多様な体験をたくさんしてほしい』という思いから、宿泊体験では生活に関わることはできるだけ自分たちでします。食事作りはスタッフやボランティアが行いますが、野菜の収穫や食事の配膳・食器洗いなどは子どもたちの役割。

 初めて参加した小学3年生の男の子は、食事の時の「いただきます」や「ごちそうさま」の音頭を取ったり、歌のリクエストをしたり、とても積極的に参加しています。でも2日目まではまったく違ったそうです。親と離ればなれで、しかも慣れない環境。泣きっぱなしで、遊ぶこともほとんどできなかったそうです。しかし3日目にはみんなと一緒になって遊び、積極的になれたそうです。

 石井さんはいいます。「4泊5日って、少しがまんできれば、ちょっと変わることができるちょうどいい日程。周囲の様子を見て、自分を受け入れてくれる場所だと分かると、子どもたちは安心できて、リラックスできるようになるんです。そうすると、いろいろなことをやってみたいという意欲が出てきて、成長につながるんですよ」。

これからも厳しい状況にいる子どもたちを支えたい

 震災以降、福島の子どもたちに放射線の影響のない自然の中で遊んでもらう保養プログラムがたくさん生まれました。しかし、障害のある子どもたちだけを対象にしたものはほとんどありません。そのため、「あぶくまエヌエスネット」には、子どもを参加させたいという問い合わせが多くあるそうです。しかし、母子家庭や経済的に厳しいという家庭もあり、参加費がネックとなって参加に至らない家庭も多いそうです。『なるべく参加者の負担を減らして開催できないか』と考えていたときに「わかば基金」を知り、今回の開催につながりました。

 保護者からは、「夏休みになっても行かせてあげられるところがなくて、子どもにはかわいそうな思いをさせているんだと思います。宿泊体験から生き生きとした表情で帰ってきて、『楽しかったんだろうな』とうれしくなりました」、「子どもが宿泊体験に参加するたびに成長して帰ってきて、その度合いの大きさにびっくりします」といった喜びの声が寄せられているそうです。
(2016年8月12日記)

「NPO法人あぶくまエヌエスネット」は、第28回(平成28年度)東日本大震災復興支援部門の支援グループです。 連絡先や活動内容については、あぶくまエヌエスネットをご覧ください。