熊本市の「くまもとCSの会」は、芳香剤や柔軟剤などの人工的なニオイ(合成香料)や、合成洗剤、煙草の煙、建材などに含まれる揮発成分(※1)によって体調不良を起こし、仕事や外出ができなくなるなど生活が著しく困難になる化学物質過敏症(Chemical Sensitivity=CS、以下CS)当事者の会です。当事者同士の情報交換や交流会、また有識者や関心のある方を交えてCSについての学習会や啓発活動などを行っています。
 2016年4月に起きた熊本地震。会員の多くが被災しましたが、外出や人混みにいることが難しいため、ほとんどが避難所には行けませんでした。この経験から、災害時にニオイ等で苦しむ人が安全な場所で過ごせる設備の必要性を実感。周囲のニオイ等から身を守る簡易シェルターを作るため、「わかば基金」でテントや空気清浄機、空気中の有害物質測定機などを購入しました。

(※1 ニオイのあるものだけではなく、無臭の化学物質にも反応する化学物質過敏症当事者も多くいます。ここでは体調不良を起こす有臭無臭の成分を総称し“ニオイ等”としています)

覚悟して挑んだイベント出展

 取材で訪問したのは2017年11月中旬。熊本市の男女共同参画センターで行われたフェスタの会場です。子育てや女性の生活支援などに取り組む様々な市民団体が出展して活動を広める、年に1度のフェスタ。その中に「くまもとCSの会」のコーナーがありました。建物の1室を使って、香料無添加の石けんやシャンプーなどの展示、農薬や化学肥料なしで育てられた野菜や米などの販売をしていました。

 部屋の壁にはCSについての解説とともに、「香料自粛のお願い」と書かれた紙も貼ってあります。くまもとCSの会は2015年4月に発足したのですが、イベントなどに出展するのはこの日が初めて。人が集まる場所は洗剤や柔軟剤などのニオイ等にさらされるため、外部での活動は控えてきたからです。しかし今回出展を決めたのは、「CSについて少しでも知ってもらいたい」という会員皆さんの強い思いがあったからでした。

大人も子どもも誰もが発症する可能性

 CSとは、芳香剤や柔軟剤、化粧品、アロマオイルなどに含まれる香料やたばこの煙、合成洗剤、建材や塗料、食品添加物や残留農薬などに含まれる化学物質に身体が過剰に反応し、様々な症状を引き起こすものです。症状として、めまいや吐気、頭痛、だるさ、発疹、かゆみ、集中力の欠如、呼吸困難など様々で、多くの当事者は複数の症状に悩まされています。
 発症の原因は、大量の化学物質にさらされたり、または微量であっても日常の中で身体に取り込まれる化学物質が許容量を超えることで起こると考えられており、誰もが発症する可能性があります。2000年に行われた調査によると、日本ではおよそ100万人の当事者が存在するという報告もあります。しかし専門医が少なく、世間でもあまり知られていないこともあり、体調不良の原因が分からないまま数年過ごす当事者が多いそうです。周囲に伝えても「気持ちの問題」と理解されず苦しみます。そのうちに仕事や学校にも行けなくなり、冠婚葬祭すらも出られなくなります。家族や友人との関係が遮断され、孤立。身体だけでなく精神的にもたいへんな苦痛をかかえることになります。

孤立から生まれた交流会

 「同じ苦しみをもつ当事者同士、手を取り合えたら」という思いで、くまもとCSの会が発足しました。以来、毎月1回交流会を開いています。交流会には毎回10~20人ほどが参加し、「この製品はよかった」、「この場所なら行けた」などの情報や生活上の工夫などを共有しているそうです。交流会の感想を聞くと、「こんな苦しみは自分だけだと思っていたけど、たくさんいることにびっくり。でもすごく心強い」、「発症してから人と会うことができなかったけど、近くで顔を見て話せる人がいるのがうれしい」、「10年ぶりに笑えた場所」など、情報交換以上に精神的な苦痛を和らげる場所になっているようです。

避難できないCS当事者のためのシェルターを

 2016年4月に起きた熊本地震。たびたび起きる大きな揺れに危険を感じ、避難所や車中での避難生活を強いられる人が数多くいました。くまもとCSの会の皆さんも多くが被災しました。しかし、人が多く集まる場所やニオイ等のある場所はもちろん、車にも乗れない人も多く、ほとんどの会員は自宅にとどまるしかありませんでした。自宅の壁の一部が崩れ、吹きさらしでも避難することができない会員もいたのです。「こんな状態はなんとかしなくてはいけない」。くまもとCSの会の皆さんは、災害などの緊急時でもニオイ等で苦しむ人が安全な場所で過ごせるシェルターが急務だと実感。そこでテントや空気清浄機を使って、どこにでも設置できる簡易シェルターを考案しました。しかし資金の課題があったため「わかば基金」に申請し、テントや空気清浄機、空気中の有害物質(=揮発性有機化合物)測定器などをそろえることができました。

被災地のCS当事者を救う手立てになれば

 幸い、簡易シェルターの出番はまだありませんが、会員の皆さんは「ひとまず安心しました」と声をそろえます。
 いつ、どこで起きてもおかしくない地震や台風、大雨などの自然災害。そのとき、簡易シェルターがCS当事者を救う1つの手立てになればと、くまもとCSの会の皆さんは願っています。
(2018年1月15日記)

 「くまもとCSの会」は、第29回(2017年度)支援金部門の支援グループです。詳しい活動内容や連絡先は、「くまもとCSの会」のホームページをご覧ください。