今回ご紹介するのは、「希望の園」(三重・松阪市)の ほんま まい さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……ほんま まい

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

ほんま まい《孔雀の散歩》
2019年にGet in touchとスターバックスコーヒーがコラボした「まぜこぜアートプロジェクト*」のつながりで「希望の園」を訪れたときに、たまたま畳のアトリエの壁に立てかけてあった絵が目に入った。テレピン油の匂いがする描きかけの絵 。“これは・・・。どんな人が描いたのだろう” 。ドキリとしたその印象が記憶に刻まれたまま、アトリエを後にした。
それから4年後、「BiG-i×Bunkamuraアートプロジェクト」公募展の審査会場で、あの時のあの絵の作者である、ほんま まい の作品に再会した。

それが今回紹介する《孔雀の散歩》。ストロークの力強さ、画面に納まりきらないパワフルなエネルギー。クジャクの歩く姿を描いたこの絵は姿かたちの優美さを超えて、生きている存在そのものの力を伝えてくる。対象に心を動かされた感動や驚きを写実的に説明的に描くのではなく、色彩やかたちでそれを表現する。モチーフから跳躍し描くことの本質的根源にたどりついている絵画だ。なんども厚く塗り重ねた色彩は、少しだけ白が混ざることで油絵具特有の物質感がより増している。タッチは一筆一筆の動きの跡がくっきりと鮮明で、作者の手がどのように動いたのか想像することができる。

制作している時のほんまの集中力はすさまじい。言葉はいっさい無くなり、よだれが垂れようがなにしようがかまうことなく没入してしまう。全神経、全感覚、すべてのエネルギーを傾け使い果たさんばかり。あまりに集中し過ぎて止まらなくなると、スタッフがストップをかけることもあるという。身体の負担が大きく消耗が激しい油彩画の制作は一日おきに、あいまに色鉛筆などのドローイングを描く。筆圧の強さも特徴的だ。そのせいで筆の劣化も早いし、鉛筆だとキャンバスを突き破ってしまうこともある。腕の力をうまくコントロールできない不随意運動による障害特性も関係しているだろうが、自身をコントロールできなくなるところまで描き続けるほんまの表現にかける強い感情の表れでもある。

「希望の園」に通い始めて21年、日々描き続けてきた。花や動物を描いていたこともあったが最近のモチーフは「鳥」。送迎の車の中からもよく鳥を見ている。鳥の写真を参考に自分なりに色彩や構成を考え、S50号(1167×1167mm)サイズを2か月くらいかけて描く。

自分自身でありながら思う通りには動かない身体。その身体を通して表れてくるリアルな表現。不自由さが生む自由な線やタッチは生きている痕跡そのもの。「私」がここに存在し生きている、それをなによりもまず表現すること。「美術」を壊して再生させる、そんなパワーとエネルギーに満ちている。

《孔雀の散歩》が展示されます。
「BiG-i×Bunkamura アートプロジェクト 第1回受賞・入選作品展」

開催期間:2024年8月30日(金)~9月9日(月)
開館時間:11:00~20:00
会場:Bunkamura Gallery 8/ (渋谷ヒカリエ8F)  東京都渋谷区渋谷2-21-1
詳しくは「BiG-i×Bunkamura アートプロジェクト 第1回受賞・入選作品展」特設ページをご覧ください。(NHK HEARTSのサイトを離れます)

*「まぜこぜアートプロジェクト」
一般社団法人Get in touchが取り組んできた障害のあるアーティストと企業や社会をつなぐ活動。スターバックスコーヒージャパン株式会社とのコラボでは、全国各地44店舗のアートワークを障害のある作家たちと創造するプロジェクトを展開。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


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