今回ご紹介するのは、社会福祉法人ふたかみ福祉会が運営する福祉事業所HAPIBAR(ハピバール/大阪・羽曳野市)の山本 真子(やまもと・まこ)さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……山本 真子さん

いつも明るく、気遣い上手でみんなを笑わせてくれるムードメーカー。
フリーハンドで大胆に描く絵もポップで可愛い。
聞くと「何も考えんと描いてる!」とのこと。
描いていくうちに描きたい物が出てきて、よく出てくるプールは「大好き!」だそう。
遊園地は「デートしたい!ジェットコースター乗った事ないから乗りたいけど怖そう。もし乗るんやったら、好きな人と乗りたい♡」などなど、いろんな想いが巡って出来上がっている作品たちです。(ハピバール・大西雅子)

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

山本真子
《みんなのぷうる ほてるだよ♡ うんどうかい♡ ゆうえんち いちごのおみせ》

山本真子の絵からはリズミカルなポップスが聴こえてくるようだ。フリーハンドで大胆に描かれたカラフルな画面。点と面と線の基本要素で構成された抽象画かと思いきや、見ればそこには人がいて、道路や建物や遊園地のアトラクションみたいなものも登場する。楽しかった思い出。遊園地、川、海、ホテル。運動会や仕事のこと。そして時には大好きな支援員Sさんとの架空のデート。これは山本の絵日記であり物語であり記憶と想像の世界地図なのだ。

《みんなのぷうる ほてるだよ♡ うんどうかい♡ ゆうえんち いちごのおみせ》は軽快なリズムで綿密に描かれた作品。黒の使い方とたくさん並んだドットが印象的だ。ドットは並んで歩く人の姿のようだったり、聞こえてくる音の一つひとつのようだったり。ドットたちは置かれた場所でそれぞれの意味を含みながら現れている。そこにさまざまな物語が幾重にも重なって大きな世界に見えてくる。街から聞こえてくる音楽のように豊かで美しいこの世界は山本真子のナラティブな語りだ。

アボリジナルアートではドットは時間を表し、自分たちの土地の神話や水源や食料のありかを示す地図のように絵画を制作したと言われている。山本真子の絵画は個人的な強い想いに導かれ、自らの生きる世界をアボリジナルアートのように独自の夢見・ドリーミングによって生きた神話のように表現している。

山本真子は39歳。知的障害がある。ハピバールに来て本格的に絵を描き始め6年になる。絵の印象からずいぶん洗練されたポップな人かと思っていたが、はじめて会って話をしたとき、丸めた紙の筒を拡声器にして急に「S○○○ー!スキだあー!!」と叫んだのには驚いた。山本真子はエネルギーの塊のような人だった。作品にはその時の感情や状態があらわれている。胃が悪くなったり眠れなかったり調子が悪いときは1日ですぐ描き終えるが、絵も雑でスカスカになる。調子がいいと3~4日描き続ける。

いやなことがあっても不満は口にしない。絵画制作ではそれがポジティブなエネルギーになって表現として流れ出てくる。
基本的に使う画材はポスターカラーのペン。近頃は他のメンバーに触発されて色鉛筆を使ったり、ダンボールや雑誌の切り抜きコラージュも始めた。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


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