NHK HEARTSには、地域に根ざした福祉活動をしているグループに支援金やリサイクルパソコンを贈呈、その活動を応援する「わかば基金」という支援事業があります。その支援団体を紹介するのが「わかばなかま」。
今回は、視覚障害当事者がコーヒー豆の焙煎や農作業などを行っている福祉事業所「領家グリーンゲイブルズ」をご紹介します。
※「グリーンゲイブルズ」の由来は『赤毛のアン』の原題『Anne of Green Gables(アン・オブ・グリーンゲイブルズ)』からきています。グリーンゲイブルズは「緑の切妻屋根」という意味で、切妻屋根とは家屋でよく見られる正面から山形に見える屋根の形状のことです。アンが住んでいた家がグリーンゲイブルズと呼ばれ、赤毛のアンが大好きな利用者の保護者が名付けたということです。 

※わかば基金とは・・・
「わかば基金」は、地域に根ざした福祉活動を進めているグループを支援し、その活動を支えています。今年度の受け付けは終了しました。申請受け付けは2月~3月頃に行っています。詳しくはこちらをご覧ください。

可能性を閉ざさない

埼玉県上尾市の郊外、荒川の川岸にある草地が広がる地域に、「NPO法人みのり」が運営する「領家グリーンゲイブルズ」はあります。最寄り駅からは車で20分ほど、徒歩だと1時間以上かかる場所です。そのため、利用者は駅からバスでやってきます。視覚障害当事者が通ってくる福祉事業所としてはあまり考えられない立地条件なのだそうです。

 

施設長の加藤木 貢児さんは「たまたま寄付してくださった土地がここだったのですが、今ではこの場所で良かったと思っています。」と教えてくれました。

「視覚障害は情報と移動の障害と言われます。そのため当事者が通う福祉事業所や施設は、移動が複雑にならないように駅から近い場所にあることが多いのです。それをあえて遠い場所にすることは、行きにくい場所にも行けたという成功体験につながりますし、移動の練習にもなる。移動の時間が長ければ、それだけ地域の人たちとの接点も増えると考えたんです」。

視覚障害当事者に対して、周囲は「見えないからできないんじゃいか」、「危ないからやらせられない」と思いがちです。しかし「グリーンゲイブルズ」では、“可能性を閉ざさない”“楽しく暮らす”をモットーにしており、どんなことでもタブー視せずに挑戦することを大切にしています。作業やレクリエーションなどやってみたいことは利用者と職員が話し合って決め、どうすればできるのか、どうやれば楽しめるのかアイデアを出し合っているそうです。

移動もそのひとつ。遠いから通えないとあきらめないでほしいという願いが込められているのです。

音に繊細なみんなならできる!

コーヒー豆の焙煎は新たな挑戦につながった作業です。グリーンゲイブルズは2020年4月に設立され、その2か月後にはコーヒー豆の焙煎が始まりました。当初は全自動の機械を導入。コーヒーに詳しい人の意見も取り入れるために、市内にある喫茶店の店長をしていた松本 昌江さんにも協力を仰ぎました。
しかし、ちょっとした問題がありました。機械が全自動のため、利用者の作業は豆を入れてボタンを押すくらい。難しい作業ではない分、正直、楽しいとは言えなかったそうです。

それを打破したのが、松本さんの一言でした。
「ここにいるみんななら、豆のはじける音で焙煎できるはず」。

松本さんは利用者と過ごす中で、彼らが音の感覚に優れていることを感じ取っていました。「だって、車の車種を音だけで当てられるんですよ。ちょっとした音の違いが分かるみんななら、焙煎で重要な豆のはじける音を逃さないはず。絶対にできると確信していました」。

そして、耳で焙煎するコーヒー作りへの挑戦が始まったのです。

ところがさらに新たな問題が出てきました。
焙煎作業は事業所内の一角を利用して行っていたため、別の作業をしている人たちの声や音が交じり、豆のはじける音を聞き逃してしまうという問題が発生したのです。特に、太鼓を使ったレクリエーションのときには、まったく音が聞こえなくなってしまいました。太鼓のレクリエーションは利用者の皆さんが楽しみにしていて、やめることはできません。かといって焙煎をあきらめることもできません。

そんな悩みを抱えていたときに「わかば基金」を知り申請。焙煎用の作業小屋新設へとつながったのです。作業小屋ができたことで焙煎に集中することができ、本格的な焙煎に取り組めるようになったそうです。

難しい焙煎も仲間がいるから安心できる

コーヒー豆の焙煎は、利用者と職員あわせて6~7人ほどで取り組みます。
焙煎機に豆を入れて動き始めると、はじめはみんなでわいわいがやがやと雑談していて楽しそうな雰囲気です。時折、職員が時間の経過や温度の上昇などをみんなに伝えます。
数分後、「170度、そろそろかな。」という合図の後、話し声はピタリと止み、利用者の皆さんが焙煎機の音に集中し始めます。その数秒後、利用者の生田 健人さんが「はい!」と手を上げました。豆がはじけた瞬間です。取材者には音が小さすぎて分かりませんでした。

この一回目の音が重要で、最初の音が豆の取り出しまでの時間の基準になるのだそうです。その後、パチ、パチ、パチ、パチと豆のはじめる音が鳴り続け、その間も集中を切らしていません。数秒後、利用者の山仲 聡彰さんが「はい止めて!」と言った瞬間、豆が焙煎機から取り出されました。

取り出しのタイミングについて山仲さんは、「数秒早かったり遅かったりするだけで、味が変わってしまうんです。豆の種類によってもタイミングが違うので難しい面もあり、うまくいかなかったときはへこみます。お客さんに渡すものだから、おいしいものを届けたい。だから集中は欠かさないです」。

豆を取り出すと、場の緊張が一気にほぐれ、「うまくできたか楽しみ。」「今回はどうかな〜、どきどき。」など会話が戻ってきます。期待と不安の中、その場で挽いた豆をまず試飲。「軽い酸味がある。」「甘さも感じるね。」「おいしい!!」。作業場はみんなの笑顔で満たされました。

焙煎作業が始まったときから関わっている生田さんも今回の豆に満足の様子ですが、焙煎は難しいと言います。
「温度や湿度で変わるし、はじける音も豆によって分かるとき、分からないときがあるんです。このまま待っていても大丈夫なのか、止めたほうがいいのか、今でも不安になります」。

そのような不安は、仲間と取り組むことで消し去ることもできているとも言います。
「利用者や職員関係なく、仲間のみんなと取り組むことで、『今のタイミングでよかったかな』と確認できたり、感想を言い合えたりすると安心するんです。なにより楽しい!」。

山仲さんも生田さんも「焙煎の腕を上げたい!」と口をそろえます。将来的にはカフェを開くことができたらという夢も教えてくれました。

当事者同士の支え合いが、新たな展開を生む

グリーンゲイブルズでは今、ヨガ教室やスマートフォンやタブレットの使い方を学ぶサロンなど、当事者が発案し、計画、準備、実施までを行う取り組みが広がってきているそうです。

このような動きに加藤木さんは、「コーヒー焙煎だけではないですが、製品作りや農作業など、自分たちが主体的に取り組んでいると実感できることが、さらなるステップアップに必要です。その主体性を育むには、職員だけではなく当事者同士が互いに支え合える信頼関係がとても重要だと思います。信頼関係が築かれると、こんなことをしてみたい、という率直な意見も相談しやすくなりますし、そのアイデアの実現のために周囲も動いてくれます。可能性を閉ざさないようにしてきたことが実を結んでいるのかもしれないですね。」

最後に加藤木さんは、これからの挑戦を話してくれました。「私も山仲さんや生田さんと同じように、カフェもできたらと考えているんですよ。駅の近くで、コーヒーだけでなく、利用者が施すマッサージも受けられるカフェ。リラックスできそうでしょ。」


グリーンゲイブルズの皆さんが焙煎したコーヒーは、NPO法人みのりのホームページから注文できます。(※NHK厚生文化事業団のサイトを離れます)
コーヒー以外にも利用者の皆さんが作った革細工や点字印刷した用紙を再利用したポチ袋などもあります。ぜひご覧ください。

グリーンゲイブルズの皆さんからのメッセージです。
「お客さんの声がおいしいコーヒーづくりの原動力になります。僕たちが作ったコーヒーを飲んでくださった方々には、「おいしかった」でも「にがかった」でも、ぜひ正直な感想を寄せてもらえたらうれしいです」。


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