今回ご紹介するのは、大阪市のFumie Shimaoka(しまおか・ふみえ)さんの作品です。

キュレーターは、福祉実験ユニット・ヘラルボニーの松田文登さんです。

作者……Fumie Shimaokaさん

 

キュレーターより《松田 文登さん》

ゆっくりと繁殖していく小宇宙。

豊かな土壌に支えられた、Fumie Shimaokaの世界

花弁や細胞のようにも見える小さな図形の集積。細部の美しさに魅入っていると、視界の外側で世界が広がっていくような感覚に襲われる。作者は、大阪府に住むFumie Shimaoka(しまおかふみえ)さん。幼い頃から、机に向かい集中して手指を動かす作業が好きで、モンテッソーリ教室に通っていた。折り紙が得意なところを見込まれて、ホテルでナプキン等のリネンを畳む仕事に就き、余暇として習字やリリアン、編み物をしながら過ごしていた。そんな中、ある日突然急性水腫を発症し、一時は失明も危惧されたが奇跡的に回復。コンタクト治療によって視力を矯正できた後から、自ら手持ちの水性ペンで大胆に細やかな線画を描き始めた。

彼女の作品の特徴は、独特の色彩感覚でコツコツとちいさなマルやセルを繋げ、好きなモノや想いを描く。当初は、モノクロの作品を描いていたが、次第にたくさんの色を持ち、形を変え、欠片は増殖していき徐々に現在の作風が確立されていった。現在は、作業所に通いながら、家族と夕食を囲んだ後のテーブルで、のんびりと創作活動を楽しむ毎日を過ごす。

Shimaokaさんの作品は、基本的に支持体を埋め尽くすことがない。余白があるから収まりがいいのだ。作品自体も大きくはない。それなのに、とてつもなく「大きい世界」を感じさせる。その世界観を支えている作品の密度感は、日々の着実な制作に裏打ちされたものだった。

そしてもう一つ、ご家族の支援にも秘密があった。Shimaokaさんのお母さんは、作品を全てファイルにまとめて保管しているのだという。Shimaokaさん自身、作品を見返していて『まだまだ書きたらんな』『まだ足さなあかん』と言うこともあるそうだ。作品がどこで終わるのかは、本人にしかわからない。それを寛容に受け止め、きちんと記録していくことが、アーティストの世界を跳躍させる土台になるのだろう。

毎日小さなビッグバンを起こして、いつまでも完結しない宇宙を描き出す。

「完結しない」ということは、簡単に終わらせて手軽に成果を得ようとすることより、実は大事なことだったりする。小さく緩やかな継続が、発想を無限に広げられる豊かさをくれるのだ。


プロフィール

松田 文登(まつだ・ふみと)

株式会社ヘラルボニー代表取締役副社長。チーフ・オペレーティング・オフィサー。大手ゼネコンで被災地の再建に従事、その後、双子の松田崇弥と共に、へラルボニー設立。自社事業の実行計画及び営業を統括するヘラルボニーのマネージメント担当。岩手在住。双子の兄。日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。日本オープンイノベーション大賞「環境大臣賞」受賞。

 


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