今回ご紹介するのは、コミック・カウンシル(大阪・泉南市)の上田 匡志さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……上田 匡志(うえだ・ただし)さん

上田 匡志さんは毎朝電車に乗り、ものすごくゆっくりな足取りでコミック・カウンシルにやってきます。絵を描くことは上田 匡志さんにとって生活の一部であると同時に、お仕事という位置づけでもあり、作品を販売して稼いだお金で達成する「野望」をいつも抱いています。今の「野望」はオーストラリアに行くこと。2年前には「イギリスに行って2階建てバスに乗りたい」という長年の「野望」を遂に達成したのです。僕が出会った12年前から今もなお、成し遂げるたびに入れ替わる「野望」が彼のモチベーションになっていることは変わっていません。

「野望」があるかぎり、上田 匡志さんの創作はつづいていくでしょう。(コミック・カウンシル代表 日垣 雄一)

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

「上田 匡志 日々のやり取りから生まれるアート」

上田 匡志は大阪在住、一般社団法人Abigailの『コミック・カウンシル』に所属するアーティストだ。自閉症という特性がある。特別支援学校時代に描いた絵日記は彼の制作の原点だ。自立心旺盛で、いつかロンドンで2階建てバスに乗ることが夢だった上田は、絵を売って稼いだお金を貯めて見事に達成してしまった。今の夢はオーストラリアに行くことだそう。

彼は大の映画好きだ。年間200本くらいは見るという。「きのうはどんな映画見たん?」スタッフに聞かれてやり取りするうちに手が動き出す。画材はアクリル絵具やポスターカラーが多いが、こだわりはなく、好きな色がある画材を使う。

もののカタチや生き物の表情などを、シンプルに抽象化してとらえる。フラットな画面はポップでキュート。一見イラストレーション風、だけど自由でスケールが大きい。そしてなぜかクスっとオモロイのだ。

あのデヴィッド・ボウイが亡くなった時、別の施設に在籍していた上田は、スタッフの日垣 雄一(現在コミック・カウンシル代表)に、「ボウイを描いて欲しい」とお願いされたそうだ。それがきっかけで“ロックスターシリーズ”が始まった。昭和アニメのキャラクターのような“カート・コバーン”や“クラフトワーク”や“ビートルズ”や“マーク・ボラン”、往年のロックスター達が勢ぞろいだ。

その後、独立して施設を立ち上げた日垣を慕って、上田もコミック・カウンシルにやって来る。慣れ親しんだ場所を離れ、それまでとは違う環境で、自ら選んだ場所で、彼は日々制作に取り組んでいる。前よりも塗り込みを重ねたり、1点1点にかける時間も長くなるなど、画面には変化の兆しも見える。

上田は欲しいものを絵で表現する。スタッフにこれが必要だとアピールするらしい。食卓にソースがないときはソースの絵が登場したりする。そんなエピソードがいくつもある。彼の絵はスタッフとの親密なコミュニケーションの中から生まれているのだ。障害があるアーティストにとって、スタッフとのコミュケーションや信頼関係を含む制作環境は、表現活動のクオリティに大きく影響する。それは美術の知識や技法などよりもずっと重要な要素なのだ。

「カメラ」

※今回の掲載作品は上田さんが以前利用していた施設(イエロー)在籍時に創作されたものです。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。

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