横山 涼 《俺の世界》 HEARTS & ARTS VOL.136
公開日:2026年1月15日

今回ご紹介するのは、「工房集」(埼玉・川口市)の横山 涼さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。
作者紹介……横山 涼(よこやま りょう)
キュレーターより 《中津川 浩章さん》
横山 涼《俺の世界》
横山涼と出会ってから15年以上になるだろうか。はじめて会ったのは埼玉のみぬま福祉会「太陽の家」だった。黙々と制作しているところに近づいて話しかけようとしたとき、顔を上げた彼は言った。
「オレに近づくな、オレは悪魔だ」。
驚いた。そして彼の作品をすべて見て、その言葉の意味が少しだけわかった気がした。作品は彼が生きてきた壮絶な軌跡そのもの、彼のセルフポートレートだったのだ。
その頃作っていたのは「箱」。当時、横山の作品について、こんなふうに書いている。
〈ある日、横山涼の表現行為は箱作りから始まった。鉄の板で覆われた「箱」はまるで鎧のごとく固く閉じ、見る者を拒絶している。また別な「箱」はネジのとがった先が外に向かって何本も突き出ていて、触ると刺さってしまいそうだ。そうして守られている箱の中には何があるのか。柔らかい大切な何かが入っているのか。彼にとって表現することは、彼と彼の生きてきた世界を結ぶことであり、その閉塞感を伴う暴力性は外部とのはげしいあつれきをうかがわせ、ひりひりした感覚を観る側に与える〉
それから彼の作品は「飛行機」の時代がしばらく続いた。まるで羽の生えた昆虫のような奇妙なリアリティをもつ飛行機。先端をナイフでゴリゴリ削ることで抵抗感のあるフォルムを作りだし、ホットボンドで接着することで粘液がまとわりついているようなねっとりした質感を生む。触覚的なアプローチを強く感じる。毒とどこかユーモラスなセンスと両方を持ち合わせた彼は、魅力的なオブジェを黙々と生み出していった。「箱」から「飛行機」への移行には、彼の世界に対する感情・感覚がリアルに反映されている。さらに時間を経ていくうちに、箱は「宝箱」に、また人の気配のする「家」や「城」のようなジオラマ風の作品が現れ変容していった。
近年、グラインダーやのこぎりなどの電動工具も手に入れた横山は、また表現の幅が広がった。「公園シリーズ」のジャングルジムやブランコ。「アンティークシリーズ」の家やテーブルやロッキングチェア。ハロウィンやクリスマスなど季節のアイテム。日用品、メガネや掃除機、鳥、スカイツリー。作りたいものを自由自在に作り続けている。そのすべてが《俺の世界》。世界を自分で定義し再構築する試みだ。すべてはともにいる仲間のため、そして支えてくれるスタッフに喜んでもらうため。閉ざされた“箱”から180度の変化だ。自分のためだけに表現してきた横山が、表現することによって評価され自己肯定し癒されている。ともに生きる仲間のために、他者のために表現するようになった心性の変化。ここに表現の秘密がある。
プロフィール
中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)
記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。
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