吉澤 健 HEARTS & ARTS VOL.152
公開日:2026年8月26日

福祉とアート。
その関係性を、キュレーターの視点を通じて見つめる「HEARTS & ARTS」
今回ご紹介するのは、吉澤 健 (よしざわ たけし)さんの作品です。
キュレーターは小林 瑞恵さん(社会福祉法人愛成会 理事長、アートディレクター、キュレーター)です。
キュレーターより 《小林 瑞恵さん》
吉澤 健 よしざわ・たけし
1965年生まれ 東京都
吉澤健は、休日になると自作のノートをかばんに入れ、街へ出かけます。ノートを取り出すと、それまでの穏やかな表情がふっと変わり、街の中にある文字や看板へとじっくり目を向けます。そして、気になったものを一つひとつ、丁寧に書き留めていきます。
ノートの中を埋め尽くすのは、一見するとアラビア文字のようにも見える、途切れることなく連なる独特の文字です。そこに記されているのは、銀行や自動車メーカー、製薬会社などの企業名をはじめ、その日の行程や使ったお金など、吉澤が街で目にしたこと、経験したこと。何度も訪れている場所では、看板の位置や内容までよく覚えていて、その日に確かめたい文字が決まっているようにも見えます。繰り返し登場する文字を眺めていると、吉澤が街のどこに目を向け、何を心に留めているのかが、少しずつ浮かび上がってきます。
長い間、同行者がノートをのぞこうとすると「見たら駄目ね」と言い、その中身を人に見せることはありませんでした。どこか秘密の日記のようでもあるそのノートは、表紙や裏表紙にも雑誌や新聞、広告の切り抜きが幾重にも貼り重ねられています。時間をかけて書きつづられたノートそのものが、一つのコラージュ作品のような姿をしています。一冊を書き終えると、側面をセロハンテープでしっかりと留め、大切に閉じていきます。
休日には街を歩いて文字を記録し、平日の夕食後にはノートのコラージュをつくる。こうした制作を1980年代半ばから、途切れることなく続けています。吉澤のノートに積み重ねられているのは、文字の記録であると同時に、彼のまなざしを通して残されてきた、街の記憶なのかもしれません。
プロフィール
小林 瑞恵(こばやし・みずえ)
社会福祉法人愛成会 理事長、アートディレクター、キュレーター。アール・ブリュット関連の展覧会をフランスやイギリス、オランダ等の海外や日本国内にて数多く手がける。2004年に障害の有無、年齢などに関わらず誰でも参加できる創作活動の場 「アトリエpangaea」(東京都)を立ち上げる。近年はアートや音楽、ダンスも入れたインクルーシブなワークショップを企画、開催している。2010年から東京・中野区で毎年開催されている「NAKANO街中まるごと美術館」の立ち上げから、現在も企画・運営等に携わる。
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