今回ご紹介するのは、熊本県在住の藤岡 祐機(ふじおか・ゆうき)さんの作品です。
キュレーターは小林 瑞恵さん(社会福祉法人愛成会 アートディレクター、キュレーター)です。

キュレーターより 《小林 瑞恵さん》

藤岡 祐機 ふじおか・ゆうき
1993年生まれ/熊本県在住

サー、サー、サー、パスン。サー、サー、サー、パスン。
リズミカルに、そして手際よく、1mmにも満たない感覚で紙がらせん状に切りぬかれていく。迷うこともない。紙が途中で切れてしまうこともない。1本1本確実にものすごい細かさで切り抜かれていく藤岡の創作は、神業とも言うべき作業の連続によって出来上がっていく。藤岡の作品は、上面を見ると紙だと認識できるのだが、下面を見ると糸かと思うほどに細く切られた紙が繊細に並んでいる。一瞬、紙であることを忘れ、紙であることにまた驚くといった具合に刺激的な作品である。この創作の手法にも驚かされるが、他に類を見ない表現手法を藤岡自身で発想し生み出していったことにも、人間の創造力の偉大さを改めて感じるところである。

藤岡の作品に出会ったのは、今から13年前、2011年のことである。熊本にある福祉施設を訪れた際、帰り間際に職員がある作品を見せてくれた。その作品は、施設に来た特別支援学校(当時の熊本養護学校)に通う障害のある実習生が制作し、美しかったので額に入れたのだという。あまりにも奇想天外な作品に魅せられ、作り手は誰なのかと捜索を行った。作り手探しは、実習生というだけで、名前は分からないというところからのはじまりであった。そして、出会うことができた思い出の人が藤岡祐機であった。

藤岡は自宅で制作を行っている。広告や展覧会のチラシ、折り紙などの紙を使い創作を行っている。全てではないが、たまに紙の片面または両面をクレヨンやマーカーペンで塗る。そのことによって、らせん状に切れた紙の表面と裏面とが双方に絡み合い、より立体的な躍動感が生まれる。藤岡の創作は必ず最後に斜めに切り込みを入れ完了する。それが意味するところは明確には分かっていないが、両親によると作品が完成した印または落款やサインの代わりではないかという。

また、理由は分からないが藤岡が切る紙の中でも、なぜか黄色の折り紙が一番細く切られるのだという。

藤岡は、幼少期からハサミで紙を切ることが好きで、抽象的なかたちの切り絵をつくっては家のいたるところに置いていたそうだ。現在のような制作が始まったのは12歳頃で、紙を切る幅も歳月をかけ少しずつ細くなっていき、より洗練されていっている。


藤岡も出展するベルギーでの展覧会が開幕する!
日本とベルギーの国際交流によるアウトサイダーアート(アール・ブリュット)展

Ikigai

会期:2024年4月27日(金)-9月8日(日)
会場:ギスラン博士博物館(ベルギー/ゲント)

本展では、日本とベルギーの両国で創作を行う、多様な背景を持つ作家が生み出す独創性あふれる作品を広く紹介する。本展のコンセプトは「Ikigai」。「生きがい」は、自分の人生における価値や喜び、幸福感を探求する概念であり、私たちが日々生きる上での大きな原動力となるものである。私たちは皆、自分の人生を見つめ、振り返ることがある。自分の人生において、本当に望んでいることは何かを知ることで、自身への理解を深め、より自分らしく生きるという選択を行っていく。本展を通じて多種多様な人々をつなぎ、互いの文化芸術や作家たちへの理解を深めるとともに、鑑賞者自身がそれぞれの人生や生きがいを見つめる機会になることを願う。

主催:
クンストハウス・イエロー・アート
ギスラン博士博物館
社会福祉法人愛成会

詳しくは、Ikigaiのサイトをご覧ください。(NHK HEARTSのサイトを離れます)


プロフィール

小林 瑞恵(こばやし・みずえ)
社会福祉法人愛成会 アートディレクター、キュレーター。アール・ブリュット関連の展覧会をフランスやイギリス、オランダ等の海外や日本国内にて数多く手がける。2004年に障害の有無、年齢などに関わらず誰でも参加できる創作活動の場 「アトリエpangaea」(東京都)を立ち上げる。近年はアートや音楽、ダンスも入れたインクルーシブなワークショップを企画、開催している。2010年から東京・中野区で毎年開催されている「NAKANO街中まるごと美術館」の立ち上げから、現在も企画・運営等に携わる。


これまでのHEARTS & ARTSは、こちらのページでご覧いただけます。

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