今回ご紹介するのは、「やまなみ工房」(滋賀・甲賀市)の吉田 楓馬さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……吉田 楓馬(よしだ・ふうま)

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

吉田楓馬《シリトリモンスター》
2021年12月に開催した展覧会「about me 5*」のキュレーターとして「やまなみ工房」を訪れ、久しぶりに吉田楓馬の作品を見ることができた。2017年に企画した展覧会「Passion & Vision」以来だ。平面から立体へ、作品は大きく進化を遂げていた。庭のあちこちに吉田が生み出した造形物たちが雨ざらしのまま置かれ、どれもこれも強烈なパワーを放っていた。

《シリトリモンスター》は「ハト」「トウガラシ」「シマウマ」「マンゴー」「ゴリラ」と、しりとりで連鎖するモチーフが合体して生まれた作品。素材は、石、木の枝、発泡スチロール、古着、ペンキ、針金、チェーン、じょうろ、植木鉢、使用済みのペン。まるで廃品回収だ。捨てられたガラクタ、ごみ同然だったものを組み合わせて新しい生命を吹き込む。吉田を通過してこの世に現れ出た、見たこともない生きものたち。いまにも動き出しそうな生命感と、存在感あり過ぎの不気味な気配。そしてどこかユーモラス。生きることの矛盾そのものの上に立つ表現だ。

作ることへの衝動は障害という不自由さの中でなおいっそう増幅され、その大きな熱量はあらゆる表現となって放出される。形態へのこだわり、つぎつぎと湧きあがるイマジネーション。塗ったり固めたり手を動かす、ミスしても気にしない、それはそれで活かして作品にする。直観も不具合も偶然もぜんぶ取り込んでいく創造性。制作中に湧き起こる怒りや悲しみ、さまざまな感情も作品に反映している。むき出しの情動がうごめく世界を日常的に生きている者は、やすやすとそれをかたちにしてしまう。吉田の作品を見ていると内にあるなにかが揺り動かされ、原始の感覚がうずき出すのを感じ「これでいいのだ」という肯定感に包まれる。

幼い頃から特撮ものの怪人に魅了されてきた吉田。そこからインスパイアされ生まれた異形のものたち。動物や昆虫と人間がブリコラージュされたハイブリッド様式は、精神に障害がある人の作品になぜかよく見受けられる。プリミティブアートやヴァナキュラー・アートにも通じる神話学や文化人類学的アプローチが、サブカルチャーを通して表象されるという現代性に思いを巡らせている。

*「about me 5」(主催/大阪府・実施/国際障害者交流センタービッグ・アイ)

「about me」について・・・

コンクールには入賞しないかもしれない、展覧会では展示されないかもしれない…
けれど、“心震える”ものを創り出す“表現者”がいます。
展覧会「about me」は、そんな表現者が生み出した作品を、表現者自身や表現者を取り巻く人々とのつながり、日々の暮らし、創作の過程などとともに多面的に紹介するアート企画展です。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


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