今回ご紹介するのは、アール・ド・ヴィーヴル(神奈川・小田原市)の野々村 聡眞(ののむら・そうま)さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……野々村 聡眞さん

鮮やかな色彩からモノトーンまで、目にも留まらぬ早さで絶妙な配色バランスを生み出す“色作りの魔術師”。スタッフや仲間の名前を誰よりも早く覚え、作業場をお休みの人に思いを馳せる心優しきサウスポー。

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

野々村 聡眞 《夏のくだもの》

野々村聡眞の絵は果物、花、海の生き物などさまざまなモチーフが画面の中でなんども繰り返される。ものや文字の形態は生きて動いているかのように小刻みに震え、ときには歌い踊っているようにも感じられる。左手に持った筆を立てるようにして描き進めるみずから編み出したユニークな筆使いはすばやくて描き迷うことがない。モチーフの多くは最近食べたもの、食べたいもの、欲しいもの、興味があるものなど。野々村自身が飼っていた鳥や魚。自分の畑で収穫した野菜も描く。

《夏のくだもの》はみずみずしい果物や野菜が豊かな色彩で画面いっぱいに描き込まれている。たっぷりと絵の具を含んだ筆を垂直に立てて絵の具が自然に垂れ落ちるように使うのが野々村独特のスタイル。そうして描いた線はまるで線自体が生命をもっているかのような動きのある画面を生み出す。さらに特筆すべきはその色彩感覚。自分で色を合わせて何種類もの色を作り出す。緑なら緑で10種類ほどの違う緑色を作っては厳密に使い分ける。微妙な色合いが織りなすハーモニーは独特なニュアンスを生み出している。

野々村が絵を描きだしたのは二歳くらいだったという。とくに「色」の好みは明快で好きだったのがチョコミントのグリーン。幼稚園の頃はいつも緑色のものを身に着け、まるで青虫のようだったという。自閉症という特性がある野々村にとって絵を描くことは言葉以上のコミュニケーションツールだった。通っていた放課後デイサービス「笑っこ」(神奈川県湯河原町)では「聡眞君に絵を描かせたい」というスタッフの理解に支えられ、子どものころから周りの環境や人にも恵まれ温かいまなざしのなかで育ってきたという。明るく開放的な絵の秘密はそこにあるのかもしれない。今は福祉施設アール・ド・ヴィーヴルに通い、施設のアトリエでも自宅でも日々描き続けている野々村には「生きることは描くこと」という言葉がぴったりしていてふさわしいと思うのだ。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


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