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今回ご紹介するのは、「はるにれ」(大阪・吹田市)の佐藤 祥子さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……佐藤 祥子(さとう・さちこ)さん

佐藤さんが描く時には「ギャハハ」と笑ったり「ウォー」と叫んだり、「コラッー」と怒鳴ったり、感情をあらわにして描くことがほとんどです。喜怒哀楽をあわらにしながら描くスタイルは出来上がった作品だけでなく、描いている様子を見ていても楽しくなります。佐藤さんが毎年楽しみにしているバスで行く事業所旅行。その強い思いから、たくさんのバスを描いていることは間違いないと思います。しかし実際の旅行に行くと、嬉しすぎて感情のコントロールがうまくできず、思ってもいない憎まれ口をたたいたり、感情を爆発して他者とぶつかったり、結局旅行に行っても、素直に楽しめないでいたりします。そんな不器用な生き方の佐藤さんにスタッフは皆惹かれています。(代表・鳥居 隆史)

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

佐藤祥子
「塗りつぶされたバス」

バスのモチーフは佐藤祥子の作品に繰り返し登場する。四角い車体に丸いタイヤ。そのバリエーションがいくつもある。青いバス、ピンクのバス、白と黒のバス。窓が並んだバス、窓のないバス。友達の顔が見えるバス、みんなと行った楽しい旅行の思い出。

「塗りつぶされたバス」はクレヨンで描いた作品。紙が破れそうなほど強い筆圧で塗り込んである。何度も描いてまた描いて、分厚くなったクレヨンの層はもはや別の物質に変容しているかのよう。描きながら、描くことによってますます加速し、湧き上がってくる、内なる熱いエネルギーを感じる。
彼女の制作風景の動画を見たことがある。太い筆で描いていく動きはリズミカルで迷いがない。スピード感のある筆さばきで画面を塗り込んでいく。「うぉ~」と筆を走らせながら発する声、パワフルなからだの動き。描く喜びが全身から溢れ出ている。
完成度の高い作品というわけではない。けれども、表現することのリアリティや切実さが強く伝わってくる。全力で訴えかける言葉にできない思いが、ズドンと入ってくる、届いてくる。

佐藤は知的障害があり、大阪にある福祉事業所「はるにれ」に通っている。そこで描いたドローイングの連作がある。
スケッチブックの1枚目に描いたのは、“怒っているMさんの顔”。その日スタッフのMさんに叱られて気持ちがおさまらない佐藤は、Mさんの悪口を叫びながら描いたという。
2枚目は暴言を吐きながら激しく書き殴り、3枚目は殴り書きだが背景まで塗られ、4枚目になると色合いが変わり勢いがおさまる。5枚目になると大好きなネコが現れ、6枚目は筆圧も軽く穏やかに。最後7枚目は、“笑っているMさんの顔”で終わる。
この7枚のドローイングは、2時間ほどの間に描かれたものだ。怒りを吐き出し、怒りを受け入れ、自己省察し、最後は和解的な感情に至る。アートセラピーのプロセスを見るようだ。「人間はみな自分を治癒していく内在的な力が備わっている」と語ったユングの言葉を思い出す。

表現は、まさしくもう一つの言語。佐藤のように心の状態をストレートに表現している絵は、作者の感情や状態を言葉より雄弁に物語っている。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


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