今回ご紹介するのは、エイブルアート芸術大学(東京・千代田区)のウルシマトモコさんの作品です。

キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……ウルシマトモコさん

「私の制作」

私は思い出や夢をさぐり、記憶を形にする。
そして、気持ちを込めて、できるだけシンプルな表現を目指している。制作を通じて、自分がここに居ていい理由を確かめる様に。言い表せない無形の声が、私にとっては色彩で、形は言葉となって静かに叫ぶ。作品が社会参加する幸運に恵まれた時、私は苦しかった日々を振り返る。声にならない声を形にする、それが私の生きがいだから。

 

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

「ウルシマトモコの世界」

アート寺子屋エイブルアート芸術大学に通うウルシマトモコは、水彩、アクリル絵具、鉛筆ドローイングなどいろいろな技法を試しながら、今の切り絵のスタイルにたどり着いた。手しごとの素朴さも目に心地よく、本の装丁や商品パッケージ、シンボルマークのデザインにも採用されている。

マチス[1]やアルプ[2]を思わせるスタイルは一見抽象絵画のように見えるが、それは単なる平面構成図ではない。意味など無いように見える抽象性が高い作品も、彼女が語る言葉とともに見返せば、そこには極めて具体的な物語の存在が了解される。

 

ささやかなうれしい出来事、ふと目にした光景、気に入った写真、ドアと窓枠の組み合わせ。ごくごく日常的な、生活の細部からにじみ出るように生まれてくるさまざまな形や色、そしてユーモア。カタチから出発し、それをすっきりしたフォルムにゆっくりと抽象化していくプロセスを経て作品が完成する。

 

好奇心旺盛なウルシマは、多様なデザイン、アート、アフリカの部族のボディアートなどからもヒントを得ては制作に反映させていく。その世界はおおらかで色彩と形態のどれもバランスがとれていて美しい。統合失調症のアーティストによく見られるような直接性の強い強迫観念的なスタイルとはちがう。病との闘いの中から作品が生まれてきているのは間違いないが、彼女の場合は制作することと障害との間に、ある一定の距離感が感じられる。その画面は落ち着いていてやさしくあたたかい。表現することで自分自身を保ち、不安定な精神状態と対峙する。制作する行為には本来その人間を癒す力が備わっている。作品は社会との新たな関係性を生み、自信につながり、次の作品に生かされていく。ウルシマの次の展開が楽しみだ。


[1] アンリ・マチス(Henri Matisse, 1869-1954) フランスの画家。原色主体の色彩と単純化された大胆な構図で表現者の個性を重視するフォービスムの代表的画家。晩年は切り絵による制作に注力した。
[2] ジャン・アルプ(Jean Arp, 1887-1966) フランスの画家、彫刻家。コラージュや切紙の技法の創案者。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

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