NHK厚生文化事業団は、NHKの放送と一体となって、誰もが暮らしやすい社会をめざして活動する社会福祉法人です

NHK厚生文化事業団


現在位置:ホーム > わかば基金 > わかばなかま > このページ


わかばなかま

支援団体の活動リポート

子どもを守る目コミュ@文京区 「母親目線で虐待防止に取り組んでいます」

東京都文京区の「子どもを守る目コミュ@文京区」は、児童虐待に関心のある母親たちが中心のボランティアグループです。発足以来、児童虐待をテーマにした講演会などを企画・開催しています。
昨夏から新たな活動として児童養護施設での料理教室を開始、第24回「わかば基金」の支援でそろえた調理器具を持参して、児童養護施設の子どもたちと料理やおやつ作りに取り組んでいます。 画像:自分たちで作ったチョコフォンデュを楽しむこどもたち

インターネット上で知りあった仲間が実際に集まって活動を開始

「子どもを守る目コミュ@文京区」が発足したのは2010年8月。ちょうど児童虐待による死亡事件が相次いで報道されていた頃で、インターネットの交流サイト(SNS)でも議論が活発に行われていました。「ネットで自分の育児の悩みを調べるつもりが、虐待に関する議論の場にたどりついて。子育て当事者としてはその議論を通り過ぎることができなかったんです」と、グループの代表の工藤 玲子さんは当時を振り返ります。 そのうち、議論に参加していた1人が、「ネットで語り合うだけでなく実際にできることをしてみませんか」と呼びかけたのを機に、東京都文京区近辺に住む人たちが実際に会って話し合うようになり、活動を始めました。

画像:大盛況だった昨年のシンポジウムの様子 最初に取り組んだのは、シンポジウムの企画・開催です。まずは多くの人に児童虐待に関心を持ってもらおうと、「児童虐待をなくすために、私たちにできること」をテーマにしています。これまで年2回のペースで開催、昨年11月のシンポジウムには200人近い参加がありました。
画像:withBのミーティングのようす 次に始めたのが、地域の見守りネットワーク「withB」の結成です。自分たちのグループだけでできることは限られているけれど、団体同士で連携すれば、悩みを抱えている親子を見つけたり、虐待要因の一つともいわれる孤立を防ぐことができるかもしれないと、文京区近辺の子育て支援団体・施設に参加を呼び掛けました。現在、13団体が参加しています。親子の居場所作りをめざして、月1回、それぞれの団体の活動報告や地域の子育て情報を共有するミーティングを設けています。

母親ならではの支援  児童養護施設での料理教室

3つ目の活動として、昨夏から児童養護施設で料理教室を開催しています。
児童養護施設は、さまざまな事情で家族による養育が難しい子どもたちが生活する場所です。
調理する様子を見たり料理を作る体験が少ないために、切り身の魚が海で泳いでいると思いこんでいた子どもの話を聞き、子どもたちを少しでも応援できればと料理教室を始めました。月1回、4〜5人のメンバーで施設を訪ねています。
さいたま市にある児童養護施設が活動の受け入れを快諾してくれましたが、ふだんの食事は調理室で調理員が作っているため、子どもたちの生活の場には最低限の調理器具しかありません。そこで、調理器具などを揃えるための資金を第24回「わかば基金」(第1部門)に申請し、支援が決まりました。

画像:子どもとメンバーのおやつ作りの光景

Part1 みんなで作ろう 子どもたちのおやつ教室

料理教室は休日の午後、まず幼児から中学生以下の女の子が生活する場所で行います。材料や調理器具をテーブルに並べると、「何つくるのー?」と子どもたちが集まってきます。
中学生以下の子どもたちが作るのはおやつ。この日のメニューは「チョコフォンデュ」、材料を小さく切ってチョコレートを溶かすだけ、と行程がシンプルなので、小さな子も楽しめます。
就学前の子は、バナナを包丁で食べやすい大きさに切っていきます。みんなが使えるよう、包丁は複数用意しています。子どもの危なっかしい手つきを見たメンバーが「前にやったときのこと覚えてるかな?こっちの手はどうするんだっけ?」と声をかけ、そっと手を添えます。小学生はもう少し難しい作業、リンゴやキウイの皮を包丁やピーラーでむいていきます。「ここはやって!」「イチゴって今(値段)高い?」手を動かしながらおしゃべりが進みます。
火を使ってのチョコソース作りは、固まった!あぶくが出た!火が消えた!!変化のたびに大騒ぎ。料理の仕方や調理器具の使い方を教え学ぶというよりは、作る楽しさを共有する時間のようです。チョコフォンデュは1時間弱で完成。チョコを付けずに食べてみたり、「リンゴにチョコ合う!」「キウイはビミョー」などと言いながらほおばり、皿に盛られた材料はみるみるなくなっていきました。

Part2 定番料理をマスターしよう 高校生の料理教室

画像:高校生とメンバーが料理をするようす 夕方からは高校生向けの料理教室です。
こちらは買い物から洗い物まで、食事作りに必要な行程を自分で行う実践的な内容です。施設を出た後の一人暮らしを想定して、施設の中にあるワンルームのような部屋を使います。フライパンや炊飯器など、1人暮らしで必ず使う調理器具も、「わかば基金」の支援金で揃えたものです。
メニューは参加者の希望を聞いて決めています。これまで餃子や肉ジャガ、生姜焼きなど家庭料理の定番を作ってきました。この日は初めての魚料理「鮭のムニエル」に挑戦。献立を説明した後、炊飯とみそ汁の準備をしてから近くのスーパーへ買い出しに行きます。メンバーは、鮮度や産地など、商品を選ぶポイントを説明しながら、必要な食材を一緒に選びます。食材のアレンジやレジ袋のことなど、ふだんの買い物での知恵や工夫も伝えながら買い物を進めていきました。
施設に戻ると時間は17時過ぎ、調理開始です。品数は3品、キャベツの千切り、しめじの軸とり…「こういう時はどうしてる?」メンバー間で確認します。料理の仕方は人により微妙に違うもの。「教えながら自分たちの勉強にもなるし、家庭によって違うことを知ってもらえるかな」と言いながら調理を進めていました。
コールスローを作ったあと、ムニエルのつけあわせと並行してかき玉汁を作る――この日の参加者は1人だけ。分担する仲間がいないぶん、まさに自炊の疑似体験です。少々手間取りながらも、メンバーの包丁さばきを見たり、アドバイスを聞いたりしながら調理をし、18時までに3品を作りあげました。
出来上がった料理を試食しながら、「これなら1人でもできるかも」。間もなく施設を出る彼女は、1人暮らしにあたってどんな調理器具を揃えたらいいか、ほかにどんな料理ができそうか、メンバーに質問してアドバイスをもらっていました。

施設長の山本さんによると、「最近は、より家庭に近い生活が重視されていますが、ここは建物の構造上、意識的に機会を設けないと食事を作ることはなかなかありません。料理教室の話を聞いた時、小さい子たちだけでなく、ぜひ自立が近い子たち向けにもやってほしいとお願いしました」とのことで、当初大人数で行っていた料理教室は、現在、中学生以下の女の子と、自立を控えた高校生と、対象をわけて1日に2回行っています。
料理教室を知った人から「料理の苦手な母親たちにもぜひ教えてほしい」と頼まれて、4月からは母子生活支援施設に訪問して開催することが決定、メンバーと調理器具の活躍の場がもう1つ増えることになりました。

自分の子育て+αの活動

ネットでの議論から現実の活動に移して2年余り、ネットだから話せたこともあったけれど、やはり実際に会って話したり現場に行くからこそ学べたことが多いと代表の工藤さんは言います。現在、ネットは活動の連絡やイベントの周知などに活用しています。
自分の子育て+αの関心から生まれた児童虐待防止の活動ですが、賛同する人の多くが専門家や関係者で、子育て当事者の参加はなかなか得られないのが悩みだとか。それでも、児童虐待をなくすためにやりたいことはいろいろあるそうです。
「わかば基金」を活用して枝葉を広げた活動が、子どもたちとともに成長していく様子をこれからも見守っていきたいと思います。
(2013年3月22日記)

「子どもを守る目コミュ@文京区」は、第24回(平成24年度)第1部門の支援グループです。
連絡先や活動内容については、子どもを守る目コミュ@文京区のホームページをご覧ください。