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NHK厚生文化事業団は、NHKの放送と一体となって、誰もが暮らしやすい社会をめざして活動する社会福祉法人です

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NHK厚生文化事業団


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被災地に遊びと癒しの空間を
 〜リラクリエーション・プロジェクト〜

写真 東日本大震災の発生から4か月が過ぎ、被災者の方々は避難所から仮設住宅に移る人が増え、徐々に自分たちの生活のリズムを取り戻しつつあります。
しかしその一方で家や仕事を失い、先の見えない不安を感じている人、長い避難所生活で心も体も疲れきっている人、仮設住宅に入ったものの周囲が知らない人ばかりで部屋に閉じこもってしまう人など、不安やストレスを抱えている被災者の方も多いと言われています。

それは、子どもたちも同じようです。変わらず元気に過ごしているようにも見えても、その小さな胸の奥では、地震や津波に対する恐怖や不安、環境の変化によるストレスを精一杯受け止めようとしているのではないでしょうか。

写真 こうした被災地の子どもたちの遊びをサポートすることで、被災者が抱える不安を少しでもやわらげ、楽しい時間を過ごしてもらおうと取り組みはじめた団体があります。教育関係のwebやCD-ROMなどの制作の仕事をしている人、特別支援学校の教員を経てアロマセラピストをしている人などが中心となって立ちあげられた“リラクリエーション・プロジェクト”です。

光や音を演出した空間を車の中に作って仮設住宅を訪問し、子どもたちには自由に遊ぶ時間を、大人にはハンドマッサージを施しゆったりリラックスできる時間を過ごしてもらおうと、岩手県の釜石市で活動を行いました。

五感を刺激する“遊びの空間”

“リラクリエーション・プロジェクト”は、7月16〜18日の3日間、釜石市内の仮設住宅と避難所6か所を回りました。

写真 車の中に用意された遊びの空間は、子どもたちがふだん遊んでいる公園やプレイルームなどとはちょっと違った雰囲気です。ワンボックスカーの車内をカーテンで遮光して、赤、青、黄、緑と色とりどりの光が出るライトなどの機材を設置しています。天井にはプロジェクターで魚が泳ぐ映像などを写し出し、光や音が出る、震動する、柔らかく触り心地がよいなど、特徴あるおもちゃをたくさん用意しています。

この空間作りは、1970年代にオランダで重度の知的障害者のレクリエーションとして始まった“スヌーズレン”という活動をもとにしています。五感を刺激するおもちゃなどを揃えたスヌーズレンルームは、障害のあるなしに関わらず利用できることから、ヨーロッパでは幼稚園や保育園、町のコミュニティセンターなどにも設置され、子どもが遊ぶためだけでなく、大人がゆったり過ごす空間としても活用されています。日本でも、福祉施設や大学の医療施設など300か所以上で取り入れられています。

写真 取材に行った7月17日、中妻町の仮設住宅で、この“移動スヌーズレンルーム”に最初にやって来てくれたのは、自閉症の小学3年生の男の子と両親です。数日前に家のポストに配られていたチラシで知ったそうです。 親子3人とボランティアスタッフが一緒に車の中に入ると、男の子は光と音の不思議な空間をおもしろがって動き回り、光るおもちゃを天井に飾りつけて楽しんでいました。 水の中から気泡が出てくる装置にも興味を示し、ブクブクという音にしばらく耳を澄ませていると、炭酸飲料を想像したのか「おいしそうな音がする」とうれしそうな表情をしていました。 お父さんとお母さんには少しの時間でもリラックスできるようにと、ボランティアスタッフがハンドマッサージを行いました。

写真 30分の体験時間が終わって、男の子のお母さんに感想を聞くと、「ハンドマッサージ気持ちよかったです。子どもはこの空間の中で自分なりに遊びを見つけて楽しんでいたみたいですね」とうれしそうにこたえてくれました。 お父さんは、「震災の後も、うちの子は見た目ではあまり変化は見せなかったのですが、遊ぶところがなくなってしまいましたからね。よく公園に行ったり、自転車に乗って遊んだりしていましたが、それができなくなってしまって。もしかしたらストレスを溜めているのかもしれませんね」と言います。

生活の変化によるストレスを癒す

移動スヌーズレンに遊びにきてくれた小学4年生の中旬駿輔くんは、現在、釜石市民体育館のグラウンドにある仮設住宅に住んでいます。駿輔くんの母・真由美さんは、 「避難所にいた頃は、子どもがどうしてもうるさくしてしまうので、私もついつい注意ばかりしてしまいました。子どもたちは知らない人がたくさんいる中でストレスを感じていたのだと思うのですが、私たち親もストレスが溜まってしまい悪循環でしたね。今は仮設住宅に移り、自分たちだけの居場所ができたことと、隣にお子さんのいる家族が住んでいてお友達ができたことで、だいぶ子どもも落ち着いてきました。けれど、今でも津波のことを思い出したり、余震が起こると不安そうにしていると感じます。それで、今回チラシを見て『移動スヌーズレンルーム』を体験させてもらおうと思いました。ボランティアの方たちにたくさん遊んでもらったみたいでよかったです」

写真 写真

自分のできることで被災者の役に立ちたい

写真 “リラクリエーション・プロジェクト”の代表・橋本敦子さんにお話を伺いました。 「私たちは、子どもが健全な心を養っていくサポートをする活動をしたいと、この団体を立ち上げたところでした。今回の震災があり、被災者の方たちのために何かしたいと思いました。せっかくやるなら自分が得意なこと、自分ができることで役に立ちたいという思いから3日間の“移動スヌーズレン”を企画しました。 短時間ですが『あれやっちゃだめ、これやっちゃだめ』と言われない、日常と違う空間で子どもたちの自由に遊ばせてあげたいと思っています。
写真 車の中なので限られた空間ではありますが、それがかえって一緒に入った人が密接に関われるというよさがあると思います」

今回の“移動スヌーズレン”の活動は、岩手県に住む日本スヌーズレン協会の理事を務める照井美樹子さんが、釜石市役所と話をしたことで、企画から約一ヶ月で実現することができました。

写真 「私は、肢体不自由児と病院が併設されている岩手県立療育センターで働いています。療育センターでもこのスヌーズレンという活動を取り入れていて、入所児童の余暇活動や、通園施設の就学前の子どもたちの遊び時間として行っています。

スヌーズレンは、『こんな効果があります』とうたっているものではなく、『これをすると楽しいですよ』と提案をしている活動です。ただ道具を使って部屋をつくればいいということではありません。用具やお部屋はあくまでも活動を助ける“ツール”で、ともに寄り添う人がいてはじめて落ち着いたり楽しんだりできるものなんです」

被災者が抱えるストレスとは

写真 釜石市民体育館は、震災直後から現在も避難所として使われており、グラウンドには仮設住宅が113戸建てられています。震災直後体育館には約400人が避難していましたが、現在は仮設住宅に入居した人、自宅に戻る人など10分の1に減りました。

避難所の所長である小池幸一さんに、被災者の方が抱えるストレスについてお聞きしました。

「夜眠れない方や、ストレスをアルコールで解消しようとして中毒になってしまう方、小さな地震でも情緒不安定になる方、もともとあった身体の機能障害が悪化してしまった方などさまざまな症状を訴える方がいます。震災直後は様々な医療チームやボランティアが来てくれていましたね。

こちらの避難所と仮設住宅は高齢者が多く、またお互い知らない人たちが集まっているので、皆さんに自治意識を持ってもらおうと思い、これからお茶が飲めるサロンを作る予定です。避難所生活で少し心細くなってしまっている部分もあると思うのですが、そこは我々も自制して、皆さんが自発的に、前向きに生きていけるようにしていかないといけないですよね」

寄り添って話を聞くことが高齢者の心のケアに

写真今回“移動スヌーズレンルーム”を体験してくれたのは子どもたちだけではありません。

散歩のついでにふらっと立ち寄り、「どこから来たの?」と声をかけてくる高齢者の方もいました。

6月の初めから仮設住宅で一人暮らしをしている70代のおばあさんは、スヌーズレンルームの中で横になり30分のハンドマッサージを受けました。ボランティアと話をしながら、「とても気持ちよかった」と満足そうにしていました。

仮設住宅に住む一人暮らしの高齢者の方々の中には、長年付き合いのあった“ご近所さん”と離ればなれになり孤立してしまう人も少なくないようです。

このプロジェクトにボランティアとして参加したアロマセラピストの菅野泉さんは、

写真 「高齢者の方にはハンドマッサージを施しながらさまざまなお話を聞きました。うれしかったのは、仮設住宅で一人暮らしをしているおばあさんが、思い出話をしながら楽しそうに何度も声を出して笑ってくれたことです。『みんなにこうして来てもらえることがうれしい』と言ってもらい、少しはお役に立てたのかなと思います」

傷ついた被災者の心をほぐす取り組みを

写真 3日間の活動で21組43人がスヌーズレンルームを体験してくれました。 橋本さんは、活動を振り返ってこう語ります。 「体験してくれた人の様子をみていて、子どもたちは遊ぶことが一番のストレス解消になること、お年寄りは“誰かと話したい”という人が多いということを改めて感じました。 私たち外からきたボランティアに対して、ピリピリしていたお母さんもいたのですが、子どもたちと体験した後には表情がとても柔らかくなっていて、打ち解けてお話をしてくれました。 “被災者のストレスや不安で固くなった心を柔らかくほぐしてあげたい”というのが私たちの活動の狙いでしたから、とてもうれしかったです」 橋本さんは、一度きりの体験で終わらせるのではなく、子どもたちを継続してサポートしていきたいという思いから、今後被災地に常設のスヌーズレンルームを作ることも視野に入れています。

被災した方々は生活の再建に向けて前に進まなければなりません。しかしそのためには、ほんの一時でも思いきり遊べる場所、ゆっくり休める場所、誰かと気がねなく話ができる場所があること、人と人とのつながりを感じられることが大切だと思いました。

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2011年8月12日掲載


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