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NHK厚生文化事業団は、NHKの放送と一体となって、誰もが暮らしやすい社会をめざして活動する社会福祉法人です

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川とまちづくり 〜恵比寿・たこ公園の取り組み〜

都会の中の小さな公園を、子どもたちが安全に遊ぶことができ、水や自然と親しめる公園として整備しよう!
近隣の商店街や地元の企業、保育園の子どもたちなど200人が集まって芝生の植え付けを行いました。
タバコや違法駐車などを一掃するために地元の人びとが編み出した思わぬ妙案とは。
童謡『春の小川』のモデルとなったと言われる渋谷川流域が、少しずつ生まれ変わります。

都会の中の公園

写真 5月中旬の水曜日、東京都渋谷区にある恵比寿東公園で、若者から高齢者までたくさんの人が集まって何か作業をしていました。

「何センチ間隔で植えるの?」
「どんどん植えていっていいよ」
「腰いためないようにね」

お話を聞くと、公園整備の一環として、芝生広場を作るために、芝生を植える作業をしているところだということでした。

写真 この恵比寿東公園は、周りをビルで囲まれた、都会の中の小さな公園です。
敷地の真ん中にシンボルとなるたこ形のすべり台があることから、通称“たこ公園”と呼ばれており、子どもたちの遊び場、近隣住民の交流の場として親しまれています。公園近くの商店街にも“たこ公園商店街”という愛称が付いています。
年に数回この公園をメイン会場として行われるフリーマーケットの日には、洋服やアクセサリー、おもちゃなどを売る人たちと並んで、商店街でも焼きそばなどの模擬店を出し、多くのお客さんで賑わいます。

現在たこ公園では、全面的に整備工事が行われています。この公園のすぐ脇を流れる渋谷川の再生事業に伴い、“川と町の一体的まちづくり”として、渋谷区と住民が協力して行っている事業です。
渋谷川の流れる地域は、かつて童謡“春の小川”のモデルにもなったほど豊かな自然が広がる田園でした。しかし近年では川の水量が減って異臭を放つようになり、環境の悪化が懸念されていました。そんな渋谷川が今回、都会の貴重な水辺空間として、再生事業の対象となったのです。
その一環として、たこ公園は、遊び場が少ない都会の中で子どもたちが安全に遊ぶことができ、水や自然と親しめる公園づくりを目指しています。

200人が集まって芝生の植え付け

朝の10時から始まった作業には、近隣の住民や商店、地元企業、保育園の子どもたち、渋谷区の職員などおよそ200人が集まりました。

写真 この日渋谷区から用意されたのは、芝の生産が盛んな鳥取から取り寄せた天然芝で、直径5cmほどの育苗用ポットに入っています。ポットから取り出した芝の苗は20〜30cmくらいの間隔で植えていきます。近所の顔見知りの人が多いせいか、皆さん楽しそうに話をしながら作業をしていました。
敷地全体に均等に植えたら、束になっている苗が地面に広がるように足で踏みます。植えたばかりの苗を踏むのに少し躊躇しながらも、リーダーの町会長さんの声かけにあわせて、みんなで言われた通りに踏んでいきます。

写真 芝が地面を覆うほどに育つまでには3・4か月くらいかかるということで、今後は住民たちが協力をして、水やり、肥料散布、芝刈りなど手入れを行っていく予定です。
200人が協力して取り組んだおかげで、芝生の植え付け作業は2時間くらいで終えることができました。

商店街や病院も協力

“たこ公園商店街”の人たちも、お店の仕事の合間を縫って参加していました。

美容室を経営する馬塲成一さんは、
写真
「たこ公園は、自分たちのホームグラウンドですから、今後も公園の活動には参加していくつもりです。
ここは近隣の園児たちもよく来ていますから、芝生があると遊びやすくなります。でも、その一方で、瓶が割れた破片などがあっても気づきにくいので、安全面の管理は大切だと思います」と言います。

“たこ公園商店街”の方々は、月に一度地域のゴミ拾いを行い、町の美化活動にも積極的に取り組んでいます。

写真
恵比寿の眼鏡屋で働く泉谷明日実さん
「芝生ってこうして苗を植えるものだとは知りませんでした」

写真近隣の3つの保育園から参加した園児たち。先生のまねをしながら芝生の苗をちゃんと植えていました


また、公園の近所にある広尾病院からも、事務局長とスタッフの人たちが数名参加していました。
たこ公園から渋谷川沿いを少し東に行ったところにある広尾病院は、川に面した敷地に立体駐車場を建設する計画がありました。しかし、地元に根付いた病院として住民たちの声に応えようと、駐車場は川から少し離れたところに建設し、川沿いに緑を残す計画に変更しました。

“公園”を子どもたちが安心して遊べる“児童遊園”に

写真 たこ公園の整備活動のリーダーを務めているのが、渋谷区新橋地区町会連合会の会長を務める高根沢吉正さんです。75歳という年齢を感じさせないパワーでメガホンを片手に現場を仕切っています。

たこ公園の行政区分は“児童遊園”です。児童遊園とは、児童福祉法によって規定される児童厚生施設で、児童の健全育成のために、安全に遊べる場所を提供する屋外施設をさします。

写真児童遊園について記された、たこ公園入り口の看板 渋谷区内に数ある公園の中で、たこ公園の環境整備が優先的に行われているのは、再生事業が進められている渋谷川に近い場所にあることと、もう一つは、“児童遊園”として認められていることにあります。
「地域の子どもたちが安全に遊べるように、たこ公園を児童遊園にしてほしい」と、6年前に渋谷区に掛け合ったのが高根沢さんでした。児童遊園に指定されると、夜間のいたずらを防げる、周辺の違法駐車を締め出せる、園内の喫煙を禁止できる、などができるようになるのです。
高根沢さんは東京都の福祉保健局に自ら何度も足を運んで、届け出の文書を提出し、晴れてたこ公園は児童遊園になりました。
このことにより、かつて園内に置かれていた灰皿は撤去されました。今後は、公園の敷地を柵で囲い、夜間のいたずらや犬猫の糞害を防いだり、公園前の道路を一方通行にして違法駐車を防ぐなどの工事も行われるそうです。
写真
「福祉局にお願いに行った時は、『児童遊園の申請なんて何年ぶりだろう』と言われましたよ。でも、“児童遊園”として認められれば、子どもたちが安全に遊べる環境を作るために、区役所などにも意見を出しやすくなるんだよね。今日みたいに芝生を植えれば子供たちは裸足で走り回れるようになるでしょう。近くに3つの保育園と私立の幼稚園があるけど、都心だと園に庭がなかったりするから、子どもたちはきっと喜ぶだろうね」

時々、「そこ、早く動いて!」などと大声で仲間に喝を入れる高根沢さんですが、お話を聞くと、自分たちの町を安全で住みよい環境にしたいという思いが伝わってきました。

今後、水撒きや芝刈りなどの芝の手入れは、地元の町会が中心となって行っていく予定です。こうした作業については区の予算は決まっていないため、道具や人の確保などが今後の課題となっています。

以前からあった、公園のシンボルであるたこのすべり台は老朽化していましたが、今年初めにリニューアルされて、新しい“たこ”が設置されました。「“たこ公園”という愛称がある以上、たこは欠かせない」というのが、高根沢さんをはじめとする地元の皆さんの考えだったそうです。
写真撤去された 古いたこのすべり台 写真新しく設置された たこのすべり台

2011年7月19日掲載  取材: text/小保形 photo/福田伸之

たこ公園では、ほかにも住民が提案した「コウホネ池」を作る計画があります。
敷地の一角に池を作り、渋谷川にゆかりのある“コウホネ”というスイレン科の植物を植える予定です。
かつての“春の小川”の情景を思い描けるようなきれいな花を咲かせることができるでしょうか。その様子については次回ご紹介します。


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