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NHK厚生文化事業団は、NHKの放送と一体となって、誰もが暮らしやすい社会をめざして活動する社会福祉法人です

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NPO 難民支援協会

東日本大震災の発生からおよそ2か月後、“NPO 難民支援協会”が取り組んでいる震災緊急支援活動についての報告会が行われました。
難民支援協会は、故国の政治的混乱や迫害を避けて日本に逃れてきた難民が、日本で自立した生活を安心して送れるように支援を行っている団体です。
日本に来た難民は、難民申請の手続きを行い、日本に定住して国民健康保険や福祉手当など日本人と同じような待遇を受けられることを望みます。しかし、申請が受け入れられるまでには平均2年、長い場合は10年近くもかかるのが実情で、その間は公的支援がほとんどない状態で、不安定な暮らしを余儀なくされます。
また、母国での迫害経験や生活習慣・文化が異なる日本での慣れない生活で不安を抱える難民の人も多いため、難民支援協会では、こうした難民のそれぞれの状況に応じて、難民申請手続きの説明・書類作成など法的な支援や、就労・教育などの生活的な支援など、さまざまな面から難民を助ける活動を行っています。

難民支援協会では、こうした難民への支援の経験を生かして、今回の東日本大震災の被災地での活動を行いました。

ふだんの活動ノウハウを活かした震災支援

写真 広報部部長の鹿島美穂子さんから、支援活動の内容について報告がありました。

写真 まず1つめは、法律に関する支援です。 陸前高田など岩手県を中心に、毎週末に4人ほどの弁護士チームを派遣し、生活再建のための手続きや申請の仕方を紙芝居を使って説明したり、個別の相談会を行いました。

写真 2つめが、女性への支援です。
いろいろな色や形のポーチに、リップクリーム、生理用品、ホイッスルなどを入れた女性用キット“なっても(花巻弁で「なんでも」)袋”を400個配布しました。

写真 3つめは、在留外国人への支援です。
難民支援協会が被災地を訪問したところ、気仙沼、大船渡、陸前高田などにフィリピン人女性が約110人いることがわかりました。
多くは配偶者が日本人だったり、在留資格を持つなど日本に生活の基盤がある人ですが、津波によって家や財産を流されたという人もいました。
母国に帰りたいけれど帰るお金がない、震災で被害を受けたけれど子どもがいて日本での生活があるので帰れない、などの理由で精神的につらい思いをしている人もいました。
夫を亡くした人は、り災証明書や補償金の申請などを自分でしなければなりません。そこで難民支援協会は、フィリピン女性のための相談会を開催しました。

難民による震災ボランティアも

そしてもうひとつ、難民支援協会が行った大きな活動が、難民による被災地ボランティアです。

今回の大震災の後、協会が支援をする多くの難民から「被災地に行って支援活動をしたい」という声が寄せられました。
また埼玉県に住んでいるクルド人難民が募金を呼びかけ、蕨市役所を通して被災者に送るという支援活動も行われました。

そこで難民支援協会では4月から、日本人と難民、外国人留学生を交えた多国籍ボランティアチームを作って岩手県陸前高田市に派遣しました。
参加したのは、4月29日から5月26日までの間に139人、延べ519人。そのうち約10%がウガンダ、中東地域などからの難民でした。
20人を1チームとし、4泊3日から最大2週間、農園の片づけ、泥かきなどの作業を行いました。

参加した難民のうち、半分の人たちは難民申請の手続き中でした。
このため行動範囲に制限があり、通常は自分の住んでいる都道府県以外は自由に移動することができません。
しかし「被災地でボランティア活動をしたい」という強い思いから、入国管理局に一時旅行許可申請をして許可をもらい、ボランティア活動への参加が実現したのでした。

陸前高田での活動のようす

写真6 陸前高田市では、沿岸部や陸地の低い地域に商業施設や市役所、病院などの公共施設が集まっていましたが、それらがすべて津波で流されてしまいました。
「晴れた日は砂ぼこりが舞っていて、被災者の健康状態が心配です」と話す鹿島さん。

写真7 鹿島さんが同行したチームは、難民2名、外国人留学生3名を含む20人で、りんご農園の片づけ、泥かきなどを行いました。

写真9 鹿島さんは「農園中がれきだらけで、排水溝にたまった泥はとても固くなっており、腰を入れないとスコップが刺さらずなかなかかき出せませんでした。
それをたった20人の力で、なんとか次の日にはきれいにすることができました。
やり終えたときは、みんながやりがいを感じていたと思います」と言います。

写真8 宿泊は、被害が少なかった内陸部の花巻市のキャンプ場を利用しました。
みんなで協力してテントを張って自炊をしたのですが、ミャンマーの難民の方が自国のカレーを作って、みんなにふるまってくれたそうです。
こうした共同生活が国際交流の場にもなっていました。

ボランティア参加者からは
「被災地でボランティア活動ができたこと、キャンプ場で他の参加者と交流ができたことの2つの面で意義を感じました。難民や留学生など、それぞれの国籍も越えて話ができて、(誤解を恐れずに言えば)とても楽しかった」

「難民の方には失礼だとは思いながらも、事前には多少偏見があって怖いと感じていましたが、みんな気さくな人柄で一緒に活動ができてよかった」
などの声がありました。

鹿島さんは 写真
「参加者には、難民への理解を深めてもらうことができて、違う背景を持つもの同士でもつながり合うことができることを感じてもらえたと思います」と話します。

難民ボランティアと被災者のふれあい

写真 ミャンマー出身のミョウ・ミン・スウェさんは42歳。もう20年近く日本で暮らしている難民です。
関西学院大学を卒業し、現在は東京大学大学院に在籍していて、環境破壊、人権侵害、難民、貧困などについて取り組む“人間の安全保障”をテーマに研究をしています。
1991年に来日し、2005年に難民認定を受けました。

「私は、日本を第二の故郷のように思って暮らしています。だから、何かできることがしたいと思い、ボランティアに参加しました」
と語るミン・スウェさん。
4月29日から5月3日まで、陸前高田市矢作町の農園でビニールハウスを撤去する作業に参加しました。
被災地の状況については、「テレビのニュースは見ていましたが、実際に被害の状況を見ると言葉が出ないほどの衝撃を受け、津波の脅威を感じました」と言います。

今回のボランティア活動に参加して、「陸前高田が第3の故郷になった」と話すミン・スウェさん。
自分が難民であることを農園の持ち主の男性に、「私たち難民は“人災”を受け、お父さんは“天災”を受けましたね」と話しました。
それを聞いた農家の男性は泣き出してしまい、ミン・スウェさんは男性と抱き合って、「私たちがいるから大丈夫ですよ」と慰めました。
「私たち難民は怒りをぶつける対象がありますが、農家のお父さんは怒りのやり場がなくて辛い状況なのだということをすごく感じました」
このことが、ミン・スウェさんにとって一番印象に残った出来事になりました。
「ぜひまた活動に参加して陸前高田の皆さんと再会したいです。そして作業していく中で、また新しい仲間が増えたらうれしいです」とミン・スウェさんは話します。

日本人参加者からの声

写真 元会社員の三輪完さんは、3人の息子さんが自立したことをきっかけに、以前から興味があった国際協力、人道支援で活動したいと2年前に会社を自己都合退職して、難民支援協会の説明会に参加したり、難民アシスタント養成講座を受講していました。
今回三輪さんが参加したチームは、5月19日から22日まで、陸前高田でのがれき撤去作業を行いました。
参加者20人のうち半分が外国人で、ウガンダ、ミャンマー、チェチェンからの難民と、カナダ、ドイツ、スペインからの留学生がメンバーでした。

「田んぼに流れ着いた漁船や流木などの重量物を動かすことは大変で、それぞれのお国柄が出ていました」と言う三輪さん。
「例えばウガンダ人はパワーがあって、スペイン人は要領がいいんです。その点、日本人はきめ細やかさがあると思いました。私は『壊れて動かない漁船も誰かにとっては大事な思い出の船かもしれない』と思って、できるだけ壊れないように運ぼうと配慮しました。そこは日本人の“習性”なのかなと思いました」

それから、作業中にろくに休憩もとらずに黙々と作業する参加者の姿を見て、
「甚大な自然災害を目の当たりにして、国境、宗教や風習は全く関係なく、なんとかしなければという気持ちが全員にあったと思います」と、三輪さんは話してくれました。

今後の救援活動について

写真 難民支援協会は、本来の活動である難民支援と平行して、震災被災地へのボランティアの派遣、物資の配布などを今後も行っていくそうです。
特に、被災地のフィリピン人女性たちについては、長期的に支援していきたいと考えています。
「こんな状況だからこそ、これまでの活動を生かしてできる震災支援をしていこう」という難民支援協会では、寄付の呼びかけや難民と行うボランティアの募集を引き続き行っています。

2011年6月29日掲載  取材: 眞鍋


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