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NHK厚生文化事業団は、NHKの放送と一体となって、誰もが暮らしやすい社会をめざして活動する社会福祉法人です

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渋谷はるのおがわプレーパーク 〜第二部(誕生編)〜

渋谷はるのおがわプレーパーク(通称:はるプレ)は2004年7月17日に開園しました。
同じ東京都でも隣の世田谷区は既に5つ(当時)もプレーパークがあったのに対し、渋谷区にはひとつもなく、『渋谷にも外遊びができる環境を作りたい』と立ち上がった地域住民の声によって“はるプレ”が作られました。

日本で初めて常設のプレーパークが作られたのは1979年。世田谷区の「羽根木プレーパーク」が第一号でした。
プレーパークとは、1940年代にヨーロッパで作り始められた、「子どもの冒険遊び場」です。「こぎれいな遊び場よりも、ガラクタのころがっている空き地や資材置き場で子どもたちが大喜びで遊んでいる」というこの活動が紹介されたことが、日本にもプレーパークができるきっかけとなりました。
子どもたちの遊び場の環境の変化に危機を感じ、もっと屋外での自由な遊びを充実させてあげたいと願う人々によって作られたプレーパークは、今では日本各地に広がっています。

母親たちの願いが行政を動かす

“はるプレ”ができるまでには、都会の渋谷で子育てを経験したお母さんたちの切実な思いがありました。
1970年代当時、子どもを外で遊ばせたいのに自由に遊べる場所が少なく、室内にこもりがちになることにいつも悩まされていました。やがて自分たちの子どもが成長し、子育ても一段落した頃「次の世代のお母さんたちのお手伝いが何かできないか」という有志が十数名集まり、1996年任意団体『渋谷の遊び場を考える会』が発足しました。

写真小水さん『渋谷の遊び場を考える会』と『はるプレ』の代表者である小水映(こみず うつる)さんにお話を伺いました。
「渋谷にはプレーパークがなかったので、『常設で子どもたちが自由に遊べるところをせめてひとつ作りたい!』と、お祭りなどで地域の人に呼びかけていたんです。」

これに賛同した仲間のお母さんたちと共に、渋谷区の小さな公園や、スポーツセンターの一角にある閉鎖された幼児広場を開放してもらうよう働きかけ、ここで年に数回、実験的に“冒険遊び場ごっこ”というイベントを始めました。
場所の確保に苦労していた小水さんたちが、行政からの協力を得られるまでになったのにはこんな工夫がありました。
「スポーツ関連の大会がある時は、渋谷区長がそのスポーツセンターにお見えになっていたんですね。区長に是非私たちの活動も見てもらいたいと思ったので、区長をご案内する施設の人に協力をお願いしました。“冒険遊び場ごっこ”の前を通るようにわざわざ迂回してもらったんです。」
子どもたちの楽しそうな姿を見た区長は「子どもはわんぱくなくらいでいいんだよ」と感想を話しました。その一言がきっかけとなって、渋谷区と『渋谷の遊び場を考える会』とが協力して渋谷初の常設のプレーパークの開設が実現しました。
『考える会』を立ち上げ、活動を続けてきたお母さんたちの地道な努力が報われた瞬間でした。

説明図:渋谷はるのおがわプレーパークを支えている人たち

一から始めた遊び場づくり

2004年6月から、区立の小公園があった場所をプレーパークにするため、渋谷区の公園課によって基礎の部分の整備工事が行われました。もともとあった公園の遊具は老朽化していたために撤去、縁石なども取り除いて、土を入れ替えました。
小水さんたちはプレーリーダーが常駐するための事務所や道具を入れる倉庫などが必要と考え、渋谷区にプレハブ小屋を建ててもらいました。
事務所と倉庫が置かれただけの広場となった状態で、はるプレは開園しました。 小水さんたちにとってはここからが遊び場づくりの本番でした。

「渋谷の遊び場を考える会」のメンバーと、集められたプレーリーダーたちは、専門業者に頼らず、子どもたちが楽しく遊ぶための遊具を考え、作っていきました。
少しずつ形になってくるものの、力仕事は人手がいります。そこで園内の掲示板に「はるプレのお手伝いをしてください」とポスターを貼ってみました。すると少しずつ遊びに来るようになった子どもたちとお母さんが手伝ってくれるようになりました。それから口コミによって人から人へ伝わり、遊びにくる人が増えるのと同時に、お手伝いをしてくれる人も徐々に増えていきました。
写真佐渡のたらい舟を利用した馬の遊具 園内の遊具などの材料は古い建物やモデルハウスの廃材、材木屋さんで売れなくなったものなど、ほとんどが譲ってもらったものです。近くの居酒屋さんが鮮魚のディスプレイとして使っていた“佐渡のたらい舟”を譲り受けて、遊具に作り変えたこともありました。魚の生臭いにおいが消えるまでにかなりの時間がかかったそうです。

遊び場の環境を整えていくために、「渋谷の遊び場を考える会」のメンバーは「どんな遊び場にしたいか」という思いだけでなく、「安全基準」についての話し合いを重ねました。
各自が不安に思っていることを出し合い、「現状はどうか」、「対策はあるか」をひとつずつ確認していきます。例えばこんな具合です。

【例1:子どもの飛び出しについて】
[不安] はるプレは車道に囲まれた緑地にあるので、子どもの飛び出しが心配。
[現状] 幼児が親の目を盗んで飛び出す。
小学生がボールを追いかけて飛び出す。鬼ごっこをして飛び出す。
[対策] 車を運転する人にも注意してもらうよう看板を立てる。
停車中の車の死角になることも危険なので公園のまわりは駐停車をさせない。
 ↓ ↓ ↓
入り口付近の道路に「飛び出し注意。駐停車はご遠慮ください」の看板を設置しました。
 
【例2:遊具の安全について】
[不安] 手作り遊具の耐久性は大丈夫か。
[現状] 木材が腐る、釘が緩む、ロープの摩耗などがある。
[対策] 日常的に遊具を点検する。
 ↓ ↓ ↓
プレーリーダーは毎日、遊具に乗って跳ねたり引っ張ったりして、弱くなっていたり壊れているところがないか確認しています。状態が悪いと判断すれば、補強や解体修理をします。

こうして確認できた不安要素への対策を「はるプレ安心安全最低基準」としました。

写真:小水さん 「公園の場を借りているので区の公園課の事業ということになっていますが、はるプレは“子育て応援”“子どもの教育”という面が大きいと思います。また、遊具などのほとんどが手作りですから、プレーパークの維持管理や運営の細かいことはこちらに任せてもらっています。」

はるプレができるまでに多くの人の協力が得られたのは、小水さんと同じように、渋谷という都会の中で子どもが自由に外遊びできる環境を望む人がたくさんいたからです。

「渋谷は良くも悪くも個人主義な土地柄です。子どもの教育についても『我が家でやります』という人が多いように感じます。
だけど、私は子どもが大きくなるまでにPTAやサークル活動などいろいろな地域の行事に参加してきて、ひとりではないと感じました。そこで会うお母さんたちとお話をしてみると『そうだよね』と共感してくれる仲間が少数であっても、確実にいたからです。
自分の子どもの成長と子どもの活動に沿ったところで、同じ思いを持った仲間を見つけられるといいですよね。」

はるプレでお手伝いをするお母さんたちは、子育てに結びつくところで気負わず自然に楽しみながらボランティアとしての活動をしているように思います。
「『ボランティア』と言ってしまうとまだまだ重いものに受け取られがちです。やりたいときにやれるのがボランティアですから、自分の生活に近いところで面白そうだなと思ったらちょっと『お手伝い』してみればいいのかなと思います。私は、“子どもの居場所、遊び場所”というのがやりたいことだったので、自分の住む地域でそれに関わることだけをお手伝いしているわけです。」

「渋谷の遊び場を考える会」には現在10名ほどが参加しています。会員の活動は無償です。会の中心となって活動している小水さんですが、自分は「渉外担当」だと言います。
写真譲ってもらった丸太でいすを作る 渉外とは、外側との関係を作る役割。区とのやり取りや、子どもたちのお父さんお母さん、プレーパークを手伝ってくれる人、資材を提供してくれる人、近隣に住む人たちと話し合い、いい関係を作っていくことを大切にしています。時には学校の先生や、プレーパークを作ろうとしている市民団体が他県から見学にくることもあります。

また会のメンバーは催し物のお知らせなどを手づくりしています。小さなイベントなど日常のお知らせは、手書きの文字にイラストを添えてコピーしただけのシンプルなものです。
その一方で、はるプレの大事な広報のツールとしてパンフレットや活動記録を作っています。はるプレについての説明、プレーリーダーの紹介、どんなイベントが行われたかなど、情報を盛り込みながら写真をふんだんに使い、プレーパークの楽しさが伝わるものに仕上がっています。
メンバーの中にたまたまイラストの仕事をしている人がいたので、その人がデザインを担当。すてきなパンフレットができました。はるプレ園内の他、子育て支援センターや児童福祉センターなどにも置かれています。

「手作りでよいところと、きちっと作るところを使い分けるのがポイントです。」

写真はるプレのパンフレット 写真09年度の活動記録

「単なる“子育てを考えるお母さんたち”という立場で走り出したんですが、実際に活動を始めてみると、やらなければいけないことが本当にいろいろあると気づきました。5年間活動を続けてやっと少し落ち着いてきました。だけど、まだプレーパークのことを知らない人はたくさんいます。もっともっと知ってもらいたいですね。」

都会で子どもを育てる

小水さんは渋谷で3人のお子さんを育てました。
3人ともすでに成人していますが、この活動を始めたときの「次の世代のお母さんたちのお手伝いが何かできないか」という思いは今も変わっていません。

写真:小水さん「皆さん、渋谷は生活をするよりも遊びにくる街というイメージが強いと思いますが、そんなことないと思うんです。
おしゃれで都会的なところと、少し田舎っぽいところが共存している街ですし、電車で遠くに行かなくてもさまざまな文化が見られます。意外と無料で楽しめるところもあったりします。
そしてはるプレも利用してもらうことで、渋谷は子育ての面白い街になると思います。

写真右が『はるプレ』のある緑地。周辺は住宅や事業所などが建ち並ぶ 活動しながら、子ども時代に屋外でたくさん遊んだことのない若いお父さんやお母さんが本当に多いと感じました。室内遊びばかりの子育ての閉塞感で、お母さんも子どもも病気がちになるんじゃないかと思うんです。
外遊びで得られるものはたくさんありますから、子どもを遊ばせながら大人も遊んでしまえばいいと思います。心が開放されて、元気になって、そうすれば家庭も明るくなるんじゃないでしょうか。」

はるプレのような“冒険遊び場”“プレーパーク”は、全国に250か所くらいあります。
ほとんどのプレーパークが、はるプレと同様に子どもたちの親や地域住民らの呼びかけで作られたものです。
家の近くにこうした遊び場があったら是非一度行ってみてください。

2010年7月13日掲載  取材:小保形


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