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企業ボランティア事例紹介

油藤商事株式会社

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滋賀県犬上郡豊郷町に、環境にやさしい取り組みを行っているガソリンスタンドがあります。敷地の一角を利用して資源ゴミの分別回収を行ったり、古い天ぷら油を再利用した「バイオディーゼル燃料」を精製・販売しています。
このガソリンスタンドを経営するのは、明治30年代からこの土地でカンテラ油(灯油)の行商を始めたという油藤(あぶらとう)商事株式会社です。

「ガソリンスタンドはまちのエコロジーステーション」

写真 油藤商事のガソリンスタンドでは、アルミ缶、スチール缶、牛乳パック、廃天ぷら油などの資源ゴミを無料で回収しています。
その他にも自動車の廃タイヤ、廃バッテリー、廃オイルなども数百円程度(新品と交換時は無料になるものもあるそうです)で回収しています。
豊郷町では、行政による資源ゴミの回収が月に2回程度しかありません。しかし、このガソリンスタンドでは、一般家庭などから出る資源ゴミを営業時間内ならいつでも持ち込むことができるので、周辺の住民から喜ばれています。

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15年ほど前、「ガソリンスタンドはまちのエコロジーステーション」を合い言葉にこうした取り組みを始めたのは専務取締役の青山裕史さんです。

「全国にはガソリンスタンドが約4万か所あります。うちはこんな田舎のスタンドですが、ここを“日本一のガソリンスタンド”にしたいと思っていました。そのためには何をしたらいいか、と考えたのがきっかけです。
今は“エコ”という言葉がいろいろなところで聞かれますが、我々ガソリンスタンドという事業は、排気ガスの元となる油を売っている、つまり環境に悪いことを行っている場所というイメージがありますよね」

そこで青山さんが最初に考えたのが、ガソリンスタンドで資源ゴミの回収を行うことでした。

「今はコンビニや自動販売機など、どこでも24時間物が買える世の中ですが、使い終わった物をきちんと捨てられる場所って意外とないと思いませんか。それも、ペットボトルや牛乳パックなどのゴミを確実にリサイクルしたいと思ったら、どこに捨てればよいのかすぐに思いつかない。だから、きちんとリサイクルできる場所を構築したいと思いました」

“ガソリンスタンドで資源ゴミの回収”という発想は突飛なようにも思えますが、とても相性がいいのだと青山さんは言います。
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「自分で言うのも何ですが、ガソリンスタンドは“汚い”“臭い”などのイメージがあるんじゃないでしょうか。でも、そういう場所にこそゴミを持ち込みやすいですよね。ガソリンスタンドのスタッフは普段から油などで手が汚れる仕事をしていますから、ゴミを触ることにあまり抵抗がありませんし、スタッフがいることで、無人の回収所よりもゴミ出しのマナーがよく、みなさんきちんと分別してくれます」

集めた資源ゴミは、バックヤードに溜めた後、それぞれの回収先に引き渡します。アルミ缶は小学校を通して業者に引き取って貰うことで学校の備品と交換してもらえたり、ペットボトルのキャップは社会福祉法人を通じてポリオワクチンの費用になったり、牛乳パックはNPOでリサイクルされたりと、それぞれの資源が有効に活用されているそうです。

バイオディーゼルは“地産地消のエネルギー”

油藤商事では、資源ゴミとして回収した古い天ぷら油から「バイオディーゼル燃料」を精製し、従来の軽油(ディーゼル燃料)に混合した“ブレンド油”として販売も行っています。
バイオディーゼル燃料とは、菜種油、ひまわり油、コーン油などを原料として作られる液体燃料のことで、19世紀後半にドイツで発明されました。ディーゼル車であればエンジンを改造することなく軽油の代替燃料として使用できます。
またバイオディーゼル燃料は、有害物質である硫黄酸化物や、二酸化炭素の排出が少ないそうで、環境にやさしいエネルギーとしても注目されています。

「バイオディーゼル燃料は“地産地消”の地域エネルギーということがコンセプトです」と青山さん。
琵琶湖の水質悪化などから環境問題に対する意識が高まる中、1998年に行政と滋賀県環境生協が中心となり、地域の資源循環のサイクルを実現する“菜の花プロジェクト”が始まりました。油藤商事も参加しているこの取り組みは、現在では全国的に広がっています。

【“菜の花プロジェクト”の循環サイクルのおおまかな流れ】 写真


畑で菜の花を栽培する
→菜の花を原料に食用油をつくる
→食用油を使い家庭や学校給食で揚げ物をする
→家庭や学校給食で出た廃食油を回収する
→廃食油を原料にバイオディーゼル燃料を精製する
→バイオディーゼル燃料で自動車や漁船、農耕車などを動かす
→農耕車を使い菜の花を栽培する

このような循環サイクルの仕組みなのですが、実際に廃食油を回収し、バイオディーゼル燃料を精製するのは容易ではありません。ここでガソリンスタンドという“油のプロ”が活躍を見せます。
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周辺地域の家庭から回収した廃食油

「婦人会の方たちなどが油の回収を行っているのですが、手が汚れますし大変な作業です。でも、ガソリンスタンドで回収することにすれば、いつでも持ってきてもらえますし、お客さんの家に灯油を配達するついでに回収もできます」

こうして油藤商事で回収した廃食油は自社の精製プラントでバイオディーゼル燃料にするのですが、この品質を守るのもプロだからできることのようです。

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バイオディーゼル燃料の精製プラント
「バイオディーゼル燃料というのは作ろうと思えば誰でも作ることはできるんです。だけど不純物の少ない高品質の燃料を作るには、それなりの技術が必要です。

各家庭から回収してくる廃食油というのは、天ぷらを揚げたり、唐揚げを揚げたり、とんかつを揚げたりと、油の中身や含まれる不純物がみな違いますから、毎回違う原材料から作るようなもの。質のいい燃料を作り出すのは実はとても大変なことなんです」

油藤商事を通して、滋賀県内の運送会社やバス会社、工場など20社以上がバイオディーゼル燃料で車を走らせています。その中の多くの企業が、社員食堂や社員の家庭から出る廃食油を集めて、自分たちで使うエネルギーを自分たちで作ることを実践しているということです。

天ぷら油のリサイクル石けんでエコ洗車

油藤商事のガソリンスタンドでは、自動車洗車にも「環境にやさしい」工夫が施されています。
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洗車に使用する洗剤を、これまでの合成洗剤から廃食油をリサイクルした石けんに変えました。この石けんは、バクテリアなど微生物の働きによって分解されるため、排水の水質浄化につながると言われています。

青山さんは、
「僕が小学生のときは、近所の川にまだ蛍がいました。どうして生活排水が流れる川に蛍がいたかというと、食器などを石けんで洗っていたので、排水を川に流しても、それをバクテリアが食べて、バクテリアを食べに小さな虫が来て、小さな虫を食べに蛍が来ていたんですよね。
“エコ洗車”に使っている石けんは“菜の花プロジェクト”を行っているNPOから購入しています。この廃食油のリサイクル石けん、実は作ってもあまり売れないようなんです。『天ぷら油をリサイクルした石けん』と言われても、手や体を洗うにはちょっと抵抗がありますよね。だけど、車を洗うのなら全く問題ないじゃないかと思いました。これまで使っていた合成洗剤よりも安く買えるのに、洗浄力は変わらないんですよ」と言います。

地域に役立ちながら“儲かるガソリンスタンドへ”

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資源ゴミの回収から始まって15年、『環境への取り組みに熱心なガソリンスタンド』というイメージが地域の人たちにすっかり定着してくれたといいます。

「15年前は、資源ゴミの分別回収とか、ガソリンスタンドの将来性なんて誰も考えていませんでした。だから最初にこうした活動を始めた時、僕は周囲から変人扱いされていましたよ。でもいざやってみると、ゴミ捨てのついでに給油していこう、逆に給油のついでにゴミを捨てていこうというお客さんが増え、環境問題に意識の高いお客さんや、今の忙しい人たちのライフスタイルにもあっていたようで売り上げも伸びています。
だから今では『先見の明があったね』と言われます」

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油藤商事には、現在も全国のガソリンスタンド経営者が見学に来ています。

「僕の中では『面白いね』とか『変わっているね』と言われる時期はもう終わっていて、これから目指していくのは、地域に役立ちながら儲かるガソリンスタンドです」
そんな話をする青山さんの表情はとても生き生きしていました。
「企業がどんな形で社会に貢献できるか」が大きなテーマになっている中、油藤商事はアイデアと工夫でガソリンスタンドのイメージを変えるような地域貢献の形を生み出し、それがビジネスにも繋がってきました。今後もさらにどんなアイデアが飛び出すのか、とても楽しみです。

2012年2月22日掲載  取材:小保形

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