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企業ボランティア事例紹介

リペアショップ アース

写真 東京都渋谷区、恵比寿駅の近くの商店街に、靴やかばんの修理をする『リペアショップアース』というお店があります。
このお店では、サイズが合わなくなったりして履かなくなったスニーカーをお客さんから引き取り、洗浄して、東日本大震災による被災地の子どもたちに送る支援活動をしています。
宮城県石巻市の小学校を中心に、これまで10か所に2360足もの靴を送り届けました。
スタッフ4名という小さな店舗でありながら、2ヶ月の間にこれだけの数の靴を送ることができたのは、スタッフ全員の思いや努力、そして多くの人の協力がありました。

下駄箱で眠っている靴を被災地に

リペアショップアースが石巻市へ靴の支援をするようになったのは、代表取締役である佐々木隆さんの義理の弟さんが石巻市の小学校で教師をしていることがきっかけでした。 写真
「地震発生から3日後くらいに、やっと弟と連絡が取れて、とりあえず無事だということがわかりました。その後何度か連絡をして状況を聞くと、家族は全員無事、だけど家は流されてしまったということでした」
弟さんとの会話で、今履く靴さえもなくて困っている状態だとわかり、佐々木さんはすぐに自分の靴を弟さんのもとに送りました。
「被災地のために何か支援ができないかと考えた時に、自分は靴の修理屋をやっていて、汚れた靴などでも、ある程度はきれいにすることができます。だから皆さんの家の下駄箱で眠っている靴を提供していただくことができれば、被災地の子供たちにもたくさんの靴が送れるのではないかと思いました。」

たくさんの人の思いとともに集まった2300足

写真
靴を集めるためにまず始めたのは、店頭に手作りのポップを置くことでした。目標としたのは、スニーカーを送る予定の石巻市立湊第二小学校の全校生徒分、230足のスニーカーです。
募集を始めて間もなく、活動を知ったお店のお客さんが、子どもと一緒に靴を持ってきてくれました。恵比寿で子供服の店を経営する石巻出身の方は、知り合いに声をかけて靴を集めてくれました。取引先の靴屋さんは、新品の靴を提供してくれました。

また、このお店がある商店街120店舗のお店も、靴の募集チラシを店の前に貼ったり、地域のPTAに呼びかけたり、靴の送料を負担するなどの協力をしてくれたのです。 写真
東恵比寿商栄会の会長で、青果店を経営する高橋則男さんは、
「自分たちの商店街のお店が支援活動をしていると聞いた時は、本当にうれしかったです。私たちも商売をしているので、作業を手伝うことはなかなかできないけれど、靴を集めることには協力しようと、みんなで呼びかけました。靴を持ってきたお客さんが、“リペアショップアース”さんのお店の場所が分からない時はうちで預かったこともありました。
地域の人にお世話にならなかったら私たちは商売をやっていけませんので、できることがあればやろうよ、ということなんですよね。」

写真
短期間で当初の目標を大きく超えた数の靴が集まり、お店の外には靴の入った段ボールが山積みになりました。
19〜23cmくらいの小学生が履けるサイズの靴だけでなく、27〜28cmの大きな靴、乳幼児が履く小さな靴、エコバックやリュックサックなども集まりました。
募集をしていたのは小学生のスニーカーでしたが、支援の気持ちを無駄にしないためにも、小学校以外の避難所にも大人用の靴などを送ることにしました。

佐々木さん自身もこれだけ多くの人の協力が得られたことには驚きを感じていたようです。
「やさしい人がこんなにたくさんいるんだね、とスタッフとよく話していました。たぶんみなさん被災した方のために『何かしたい』という思いは持っていたんでしょうね。そこにたまたま私たちが声をかけることができたから、これだけの支援に繋がったんだと思います」

スタッフの理解と協力

写真
靴を送るまでには、さまざまな作業があります。まず、ひとつひとつ靴の状態を見て、仕分けをします。状態のいいものは中のゴミや砂を取り除き、除菌をして、一足ごとにビニール袋に入れ、同じサイズごとに段ボール箱に詰めます。汚れのひどい物は、水と洗剤で洗います。
「洗う作業で手先がボロボロになってしまいました。でも、たとえ新品でなくても“足を入れたくなる靴”でなければ送ることができませんよね」と、佐々木さん。

作業を終えた靴を送る時には、知人にアドバイスをもらい、被災地の負担にならないように工夫をしました。
試し履きをしやすいよう靴を入れるビニール袋には必ずサイズを記入し、出し入れが楽なように袋の口は閉じませんでした。また、他の救援物資と混ざらないように、宛名は小学校名ではなく先生の名前を書いて送り、すぐに開けてもらえるようにしました。
新品の靴を送る時は、被災地でゴミが増えないよう箱から出し、はさみがない可能性もあるので値札は取る、というのはスタッフから出た意見でした。
このようなちょっとした心遣いが、靴を受け取った方に喜ばれたということです。

佐々木さんが、スニーカーの支援活動を行う時に一番気がかりだったのは、お店のスタッフのことだったと言います。
学校や会社が始まる年度初めの4月は、靴の修理屋さんにとっても依頼が増える忙しい時期ですが、3月末から呼びかけていた靴がたくさん集まり、被災地へ送るための作業も急ピッチで進めなければなりませんでした。 写真
「この支援活動は“やりたい”と私一人で先走って始めてしまったんです。通常の業務もあるのに、みんなには相当迷惑をかけたと思います。」
けれどスタッフの皆さんは、佐々木さんの思いを応援するように、通常の修理の仕事をこなした後に夜遅くまでスニーカーの洗浄作業や梱包を手伝ってくれました。


このお店に勤めて5年になる竹宮淳平さんは、 写真
「自分たちも地震があった日は家に帰ることができませんでした。大きな地震でかなりびっくりしましたが、その後テレビなどで被災地の映像を見たら、もっと悲惨な状況でした。
頭で考えるよりもよりも体が動いたという感じだったので、忙しいからどうのこうのとは思いませんでした。僕は普段も仕事が遅いので、忙しいのは変わらないかな(笑)」と話します。
頼もしいスタッフに囲まれて、佐々木さんは改めてそのありがたさを感じたそうです。

子どもたちに届いたスニーカー

4月11日に第一便として300足あまりのスニーカーが、石巻市立湊第二小学校に送られました。途中、沿岸部への配送が困難なため荷物が戻ってきてしまうというトラブルもありましたが、別の配送会社から送り直して、無事に子供たちの手に渡りました。
スニーカーを届けた石巻市湊第二小学校の安倍(あんばい)浩教諭からは、喜びのメッセージが届きました。 写真
『今回沢山の靴を送って頂き、本当にありがとうございます。
湊地区は、津波で全壊した地区で、着の身着のままで逃げてきた人達ばかりです。子供達は学校にいたのですが、下校した子供3名が残念ながら命を落としてしまいました。
しかし、下ばかりを向いてはいられません。先日、始業式がありました。登校した子供たちは、明るく友だちとの再会をとても喜んでいました。足元には、頂いた靴を履いてご機嫌でした。
まだ、校庭で遊びまわれるほど瓦礫の撤去が進んでいないため、暫らくは室内での学校生活になりますが、皆様の温かいご支援を胸に頑張っていきたいと思います。』

湊第二小学校を手始めに、石巻市内の湊小学校、中里小学校、荻浜小学校、住吉小学校などの子どもたちにもスニーカーが届けられました。
送り先の小学校の先生や、避難所で生活をしている方から電話や手紙が届き、スニーカーだけでなく長靴がとても重宝されていることや、大人用の黒い靴が欲しいといったニーズもわかりました。

人のつながりが大きな支援に

靴の募集は5月末で締め切り、現在は、店に保管されている残りの靴を送る準備を進めています。
商店主である佐々木さんは、被災地の商店の再建や経済の復興を考え、活動のやめ時についても検討しています。
「被災地で靴屋さんとして生計を立てている方がいるとしたら、今度は私たちが靴を送ることによって、ご迷惑になってしまうのかもしれません。 写真
ですから、今私たちが送る靴は、セカンドシューズとして履き捨てにして、次のステップに、地元の靴屋さんで新しい靴を買って欲しいですね。」

佐々木さんは今回の活動を振り返って、
「靴を欲しいという人がいて、靴を送りたいという人がいて、たまたまうちの店でできる作業とも合っていたので支援の窓口になることができた、という感じですね。
靴を集めてみて、みなさんの下駄箱の中に眠っている靴がこんなにあったとは驚きでした。よろこんで履いてくれる人がいて、靴のためにもよかったのかもしれませんね。
何より、この活動を通して人のつながりを感じることができて、私自身勉強になりました」と言います。

東京の小さなお店が「自分たちのできることを」と始めた活動が、大きな支援の輪となって宮城県石巻市に届きました。単なる物の支援ではなく、そこに込められた思いが、被災した方々の一歩を踏み出す力になることを願っています。

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2011年6月29日掲載  取材:小保形・福田

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