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NHK厚生文化事業団は、NHKの放送と一体となって、誰もが暮らしやすい社会をめざして活動する社会福祉法人です

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企業ボランティア事例紹介

株式会社カスタネット

写真 京都の台所と呼ばれる“錦市場”にあるお店で、話題になっているクッキーがあります。舞妓さんや牛若丸など京都をイメージさせる形のクッキーで、旅行雑誌の記事を見て買いにくる女子高生から、「形がかわいい」と言って買っていく年配のお客さんまで、幅広い層から人気です。

写真 このクッキーには形以外にも特徴があります。包装に使われる手提げ袋は点字用紙をリサイクルしたもの。そして売り上げの一部がカンボジアの子どもたちのために寄付されるなど、購入者が気軽にボランティアに参加できるというユニークな商品なのです。

写真 このクッキーを販売しているのは、株式会社カスタネット。京都で法人向けに文房具やオフィス用品の通信販売を行っている会社です。なぜオフィス用品の会社が、クッキーの販売をしているのでしょうか。
代表の植木力さんは、
「よく不思議がられるのですが、クッキーの販売は当社の社会貢献活動の一部なのです」と言います。

小さな会社の社会貢献活動

植木さんは、社会貢献活動は大企業だけが行うものではなく、中小企業やベンチャー企業だからこそできることがあるという考えから、社内に社会貢献室を設けて、さまざまな活動を展開してきました。
創業した10年前から行っているのは、カンボジアの子どもたちを支援する活動です。主力商品であるコピー機のトナーカートリッジの売り上げの1%を、カンボジアの子どもたちに給食を提供するための寄付にあてています。
このほかにも会社の収益の中から、小学校に新校舎を建設したり、滑り台などの遊具を寄贈するほか、顧客から回収した使わなくなった文房具類を寄付するなどの活動を行ってきました。

写真寄付されたノートを手にする子どもたち 写真2004年に完成したトレア小学校

写真子どもたちに囲まれる植木さん
上4枚の写真提供:公益財団法人国際開発救援財団(FIDR)
写真クッキーの売り上げで寄付された遊具

写真 10年間もこのような社会貢献活動をしているカスタネットは、実は従業員数6人の小さな会社です。
「うちの会社の社会貢献活動の話をすると、よく何十人も社員がいる大きい会社と勘違いされますが、創業10年の小さな会社です。6人だときりが悪いので、会社概要などには、“従業員数10人”ということにしています。本当に小さな会社です」と笑う植木さん。社会貢献活動は、従業員の数や売り上げの規模ではなく“やる気”なんだそうです。

自分の気持ちに気づいたきっかけは妻の病気

植木さんは高校生の頃からボランティアに興味があり、生徒会でボランティア活動をしていたこともありました。しかし、強く関心を持つようになったきっかけは、植木さんが大日本スクリーン製造株式会社に勤めているときに、奥さんが脊髄小脳変性症という難病を患ったことでした。奥さんがリハビリを兼ねて障害者スポーツセンターに通うようになってから、植木さんは卓球バレーの審判の資格を取ったり、障害者のスポーツイベントの裏方などのボランティア活動を熱心に行うようになりました。
この脊髄小脳変性症という病気は運動機能が徐々に衰えていくもので、奥さんは10年以上にわたる闘病の末、2007年に他界されました。

写真「妻の発病が自分自身の人生を見直すきっかけになりました。自分が健康で生きている間に、何かやるべきことがあるんじゃないかと思ったんです」と言う植木さん。自分を振り返ってみて植木さんは、「企業家になりたい、世の中の役に立ちたい」という自分の気持ちに気づきました。そして、2001年に大日本スクリーンの社内ベンチャー制度を利用して、株式会社カスタネットを立ち上げたのです。
カスタネットの経営は、最初から順調だったわけではありませんでした。起業して2年間で6000万円の赤字を作ってしまい、取り引き先への支払いに困るほど、まったくお金がない時期がありました。
「そんな状況のときでも、社会貢献活動をやめようとは思いませんでした。いろいろと悩んだ結果、大企業に勝って生き残っていくためには、他社と違ったサービスや社員の行動など、中小企業ならではの付加価値を持つことが大事だと気づいたんです。それが当社の場合は、社会貢献活動だと思ったんです。PR活動としてではなく、本当の意味での社会貢献活動をしていけば、必ず会社の業績も上がるはずだと確信しました」と言う植木さん。植木さんにとって、起業は社会貢献活動をすることそのものだったのかもしれません。

仕事現場での手ごたえ

トナーカートリッジの売り上げの1%を寄付するという活動について、実際に営業に出る社員や取り引き先からはどのような声が出ているのでしょうか。トナーカートリッジ販売担当の高取裕美子さんにお話を伺いました。

写真高取裕美子さん ——営業をするときに社会貢献の話はされるのですか?
「トナーカートリッジを買うことで社会貢献活動に参加できます、という話はしています。『同じ値段のトナーカートリッジなら、社会貢献をしている会社から買おう』と言って賛同してくれるお客さまは結構いらっしゃいます。本当は、社会貢献活動をしたいんだけど、自分のところだけではなかなかできない、という小さな会社も多いのではないでしょうか」

高取さんが担当している取り引き先にも話を聞いてみました。
外村株式会社は、生地や洋服を全国の小売店やアパレルメーカーに卸している問屋です。高取さんが営業をしたことがきっかけで、2年半近くカスタネットからトナーカートリッジを購入しています。
経理部長の吉井伸一さんにお伺いしました。

写真吉井伸一さん 「以前はほかの文房具屋さんから買っていたのですが、同じトナーカートリッジを安く買えるうえに、社会貢献までできるという話を聞いて、すぐにカスタネットから買うように変更しました。“収益の一部を寄付”ということだと、赤字になったときどうするのだろうと不安に思ってしまいますが、“売り上げの1%”が寄付にあてられるので、1万円分のトナーカートリッジを買ったら100円が寄付になる、という具合に金額がわかりやすいところも信頼できます」

また、大手の通販会社と違って“顔が見える担当者”がいることも安心だと言う吉井さん。カスタネットは、小さい会社ならではの地域に根づいた仕事によって、顧客の信頼を得ながら、同時に社会貢献活動も広めているのです。

さらに広がる社会貢献活動のアイデア

「起業したからには、ひとりでも多くの人にわが社の名前を知ってほしい」という植木さんのアイデアはさらに広がっていきます。この記事の冒頭で紹介した“京都キャラクターのクッキー”は、「京都を訪れる年間5000万人の観光客にカスタネットをアピールしよう、そして社会貢献にも関心を持ってもらおう」という植木さんの考えから生まれました。

写真橋一夫さん 植木さんがクッキーの包装に何か工夫をしたいと考えているときに、視覚障害者の福祉施設“京都ライトハウス”所長の橋一夫さんから、「紙質のいい使用済みの点字用紙が大量にあまっているのだけれど、リサイクルすることができないか」と相談を受けました。それがきっかけで、点字用紙を利用して手提げ袋を作ることを思いつきました。

写真 これまで点字雑誌や新聞は資源ごみとして回収されず、再利用されることなく処分されていたのだそうです。
点字を打った紙をリサイクルした袋というのは珍しいアイデアだったため、“社会貢献ができるクッキー”をアピールすることに一役買っています。

また、この手提げ袋の製作やイラストの印刷を京都ライトハウスに依頼することで、障害のある方の就労を応援することにもなっています。現在では、京都ライトハウスだけでは作業が追いつかず、ほかの授産施設にも作業をお願いしているそうです。

写真のり付けして袋を折っていきます 写真イラストの印刷

さらにクッキーの袋詰め作業は“京都市洛南授産所”に発注しています。片手が不自由な方でもできる作業があるため、ここでも障害がある方の就労に役立っています。

写真商品名や消費期限のスタンプを押しています 写真クッキーをひとつずつ袋詰めします

「クッキーの売り上げが上がれば、カンボジアへの寄付も増えますし、袋詰め作業や手提げ袋の発注が増えるので、それだけ障害者の雇用も発生します。社会貢献活動をうまく生かした仕事のサイクルができているのではないでしょうか。また、健常者の方に点字に触れる機会を作ることで、点字や視覚障害者への理解が進んでくれたらと願っています」と言う植木さん。このクッキーを販売することが、さまざまな社会貢献活動につながっています。

新たな取り組みに挑戦

植木さんが現在取り組んでいるのは、買い物と同時に寄付ができる“ソーシャルバスケットのキフト”という通販サイトです。名前の由来は“寄付+ギフト”だそうです。

このサイトは、「日本に寄付文化を根づかせたい」という植木さんの思いから生まれました。取り扱っているのは、おもに万年筆などの贈答品で、購入画面で「寄付する」か「しない」を選択して買い物ができるようになっています。寄付先についてはカンボジアへの寄付や障害者スポーツの支援など、いくつかの中から購入者が自由に指定できるようになっています。また、寄付をする選択をした場合は、販売者であるカスタネットも購入者と同額分の寄付をすることになっています。

写真

写真「夢は会社のキャラクター“カスタくん”の
ビルを建てること」とも言う植木さん
「『社会貢献をうまく取り入れて仕事に生かそう』というと、営利目的ではないかと考える人がいるのですが、そうではないのです。企業が社会貢献活動を行うとしたら、会社にも社員にもメリットがなければ長続きしないと私は考えています。これからの企業は、環境問題や社会問題を解決しながら事業を展開していくことが目標になるのではないでしょうか。それがこれから求められる社会貢献だと思います」

2011年2月8日掲載  取材:真鍋

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