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企業ボランティア事例紹介

ミタニ建設工業株式会社

幕末の英雄・坂本龍馬の故郷としても有名な高知県。
森林面積が県全体の面積の80%以上を占めるほどの緑豊かなところです。 写真ミタニ建設工業 芸西営業所の前
南は太平洋の青い海に面し、北は1500mを超える山々がそびえる四国山地があります。
高知を含む四国4県では、八十八か所の札所寺院を歩いて巡る“遍路(へんろ)”が昔から盛んです。
高知県内を中心に土木・建築・舗装・造園など総合建設業を展開するミタニ建設工業では、札所を巡るお遍路さんのためにトイレを開放しています。
その他にも、町の清掃活動や防犯パトロールなど、さまざまな地域貢献活動に積極的に取り組んでいます。

現在、お遍路さんの通り道にある3つの営業所でトイレを開放しています。
トイレは事務所の外に設置されているので「ご自由にご利用ください」という看板を付ければ、いつでもだれでもトイレを利用することができます。
お遍路さんだけでなく地域の人や長距離ドライバーにも利用され、喜ばれています。

写真トイレの前に設置された看板 トイレを利用する人は「助かりました」「ありがとうございます」と、事務所にいる社員に感謝の言葉をかけていかれるそうです。
ある時には「営業所を喫茶店と勘違いして『トイレありがとうございます。モーニングひとつ』と注文された」などという微笑ましいエピソードも。

発端は自らの遍路体験

トイレを開放するようになったのは、15年程前。
高知市から約17キロの日高村に営業所を新設する時に、社会や地域に貢献できることを考えていたところ、日高村の村長からアドバイスをもらったそうです。
「身体障害者用のトイレが少ないので、作って開放されてはどうですか。」
それがきっかけとなり、日高営業所のトイレを地域の人に使ってもらうようになりました。

さらにミタニ建設工業の社主である三谷一彦さん(81歳)は、30年前から何度も行っている四国遍路で、旅の道中に利用できるトイレが少ないことに気づきます。
そこで、お遍路さんが通る営業所のトイレも開放するようになりました。道路工事の際も現場に設置する仮設トイレを開放しています。

「事業活動そのものが人々の暮らしと直結している建設業だからこそ、地域に貢献していかなければなりません。」と、三谷社主は強い思いを持っています。

トイレ掃除は営業所や現場社員の日課になっています。
室戸営業所の社員、岡崎美津恵さんは
「ここのトイレは簡易水洗なので、多くの人が使うようになると便槽がいっぱいにならないよう管理が必要です。でも掃除はもう当たり前になっていますし、皆さんきれいに使ってくださるのであまり大変だとは思いません。
平日に利用する方を見るとやはり地元の方よりお遍路さんが多いですね。
トイレは事務所の外にあるのですが、お遍路さんは私たちにわざわざあいさつをしてくれるんです。やっぱり声をかけられるとうれしいですし、見知らぬ人が入ってきたとしても安心しますよね。」

トイレを他者にも使ってもらうことで日頃からきれいに保とうという意識が生まれ、事務所の整理整頓にも取り組むようになったそうです。

“おもてなし”の心が支える遍路文化

四国遍路の八十八か所の札所すべてを回る道のりは1200〜1400kmあります。今はバスやタクシーで回る手段もありますが、昔ながらの“歩き遍路”で回ると50日前後かかると言われています。
遍路をする人は死者の供養や、病気治癒などの祈願、自分探しなど、さまざまな思いを持って巡礼しています。
高知県には、16か所の札所があり、高知の遍路道は“修行の道場”と言われる難所。波が打ち寄せる海岸沿いの道や長く険しい山道など、他の県に比べて札所から札所までの距離が長いのが特徴です。

四国遍路が長い歴史の中で続いているのは、“お接待”という風習が四国の地元の人々に根付いていることが大きいといいます。
お遍路さんに無償でお茶や食べ物を出してくれる人や、車に乗せてくれる人、寝る場所を提供してくれる人など、巡礼者に対する施しが今も行われています。
四国の人にはこうした奉仕の心が昔からずっと受け継がれているようです。

三谷社主ご自身も遍路を行った時に、地域の方からお接待を受ける経験をされています。
「夫婦で巡礼している私たちを温かく迎えてくれ、お茶やおにぎり、お菓子などをいただきました。混沌とした時代の中で、人間としての温かさや優しさを再確認できた体験でした。
お遍路文化は人と人を繋ぎ、心と心を繋いでいくものです。この文化を継承していってほしいと思います。」

“頼りにされること”が原動力

写真子どもたちの登校に合わせて会社周辺の横断歩道で交通誘導 ミタニ建設工業が地域への貢献活動を始めて30年。
朝の街頭指導や夜の防犯パトロールなど安全対策、街や川の掃除など環境美化活動、毎年100人近くが参加する献血活動、災害に備えた救命講習会や避難場所の看板設置などさまざま。
全営業所・全現場で“できること”から実施しています。

写真中学校の水路清掃 活動を始めたばかりの頃は、活動の効果に疑問を感じたり、地域の反応に不安を感じる社員も多く、なかなか士気が上がりませんでした。そうした状況を変えたのは、地域の人の感謝の心でした。

社員の廣井聡文(ひろい としふみ)さんは、
「活動を継続する中で、地域の人々をはじめ学校関係者や交通安全協会などから感謝され、頼りにされる状況が生まれてきました。
私たちは活動の手応えを感じるようになると同時に、ボランティア活動の原動力とも言える『頼りにされているという奉仕の喜び』が芽生えて、積極的参加気運が盛り上がってきました。」

「建設業はボランティアに取り組みやすい」

三谷勝水会長(58歳)と三谷剛平社長(31歳)も「社員に命令しているだけではだめです。」と、指揮を執りつつ社員と共に街頭活動に出ます。

「私たちは大雨が降れば会社に待機しますし、災害があったら現場に駆けつけます。
行政の方が音頭をとって他の建設会社と道路や川の清掃活動をやる事もありますし、ボランティア活動には慣れています。」と、三谷社長。
「建設業はボランティアに取り組みやすい業種なんです。」

昔から地域貢献に関わってきた建設業界ですが、活動の実績は世間にあまり知られていないのが現状。そんな中、ミタニ建設工業は情報発信にも力を入れています。
さまざまな企業のCSR(企業の社会的責任)の取り組みを紹介するポータルサイトに、ブログを公開しました。社員たちの活動の様子を写真付きで詳しく報告しています。
「建設業ってどんな事をやっているのか一般の方にはわかりにくいところがあると思います。今は、“黙ってものを作ればいい”という時代ではないですよね。」

最近では、現場の状況報告や業務連絡などの社内コミュニケーションにTwitterも始めました。
こうした情報発信は三谷社長が中心となって行っており、活動報告を企業アピールにも繋げています。

三谷剛平社長三谷剛平社長 会社で社会貢献活動に取り組む意義について三谷社長は、
「本業にはすぐに目に見える影響はないかもしれませんが、みんなで一つの物事に取り組むということ、地域貢献活動を通じて心を磨くということは企業に欠かせないものだと思います。社会に貢献できているからこそ企業は存在できます。現在のCSR活動をより地域に密着したものとして、継続していき、建設業の社会的地位を上げていきたいです。」

ミタニ建設工業は、会社の歴史とともに“地域のために”という遍路の風土に根ざした奉仕の精神が受け継がれ、社員ひとりひとりに伝わっているのが感じられました。

取材 小保形

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