企業ボランティア事例紹介
UBS証券会社
UBS証券会社は、世界的な金融グループUBSの日本法人の一つです。社会貢献活動のテーマは“教育を通じたエンパワメント”と“より強い地域社会づくり”。聴覚障害のある中高生と社員が、英語と手話でのコミュニケーションに挑戦するワークショップ、霞ヶ浦に美しい湧水を届けるため、耕作放棄地となった田んぼで無農薬のお米を育て、地域の子どもたちの環境教育を支援するプロジェクトなど、2009年は57件のイベントを実施しました。
活動の中心を担っているのは、社会貢献活動を統括する部署であるコミュニティーアフェアーズと、社内のさまざまな部署から集まったワーキンググループのメンバー約20人です。さまざまな地域の非営利団体と連携することで、幅広い活動を実現しています。
ここで紹介する「BBCプロジェクト(多様化する子どもたちへの架け橋プロジェクト)」は、さまざまな背景やニーズをもつ子どもたちが、個性を発揮して積極的に社会参加していけるよう支援するというものです。東京ボランティア・市民活動センターとUBSが協働で2007年から行ってきました。
今年の目標は、ひとり親家庭や児童養護施設で育ってきた子ども、外国籍や障害のある子どもたちのリーダーシップを育むこと。それぞれのグループから集まった10人の中高生がチームとなって行う活動を、社員たちが支えます。名付けて「チーム・チャレンジ」という取り組みです。
3月17日(水)、午後7時、チーム・チャレンジのメンバーが、UBSの会議室に集まりました。メンバーが挑戦しようとしているのは、3月27日に東京都荒川区のジョイフル三ノ輪商店街で行われる「多文化ユース★フェスタ2010」での出店です。綿あめ・ポップコーンを販売するお店グループと記念写真・輪投げをするゲームグループに分かれて作戦会議が始まりました。
ゲームグループでは、UBS社員口西(くちにし)まりさんが、子どもたちのサポートに入ります。
口西 |
輪投げの景品は、いくらで買ったらいいかな。 |
Aさん |
100円ショップの商品と駄菓子を買ったら。 |
口西 |
輪投げの代金1回100円で、30円の景品をあげるんだったら利益はでるけど、1回30円で全部が100円の景品だったら赤字になるよね。 |
Bさん |
めっちゃ赤字になる。 |
Cさん |
予算の3割を100円ショップで使って、残りを駄菓子にするのはどうかな。 |
口西 |
数字強いね。うん。いいんじゃない。駄菓子なら100円より安いからね。 |
社員の口西まりさん
口西さん「お互いどうコミュニケートしたらよいかわからなかったり、同じ団体から来た友達と固まりがちなところがあります。私たちが入ることによって、いろんな方向のコミュニケーションができて、そこから自分の輝いているところを感じてもらえればと思っています。」
綿あめ・ポップコーンを販売するお店グループでは、リーダーのチョン・ヘチャン君を中心に話し合いが進められていました。当日の役割分担をどうするか、UBS社員の白倉(しらくら)寛人さんがメンバーに投げかけます。
白倉さん
白倉 |
3人で綿あめを販売している時に、もし何かが起こって、2人にならざるを得なくなったらどうする?その時すでにお客さんが10人います。その時はどうする? |
チョン君 |
誰がこれやる、誰がこれやるってここで決めるより、3人の中で考えた方がいいと思います。 |
白倉 |
その時にということ? |
チョン君 |
だってここで決めても本番の時、どうなるかわからないじゃないですか。 |
“主役は子どもたち”とサポートする白倉さん。「リーダーのチョン君が途中で抜けた時、何か問題が起こった時は誰がリーダーシップをとるのか、そのあたりの不安要素がちょっと残っていますね。」
フェスタ会場
3月27日(土)「多文化ユース★フェスタ2010」当日。一分咲きの桜がのぞく寒い朝です。
10時。チーム・チャレンジのメンバーとUBSの社員が、会場となるジョイフル三ノ輪商店街でお店の準備を始めました。マニュアルを片手に綿あめの機械を組み立てる社員の横で、子どもたちがおつりの用意をしていきます。
白倉 |
お客さんとのやりとりを練習してみようよ。綿あめ8個とポップコーン4つ欲しいんだけど、いくら? |
チョン君 |
203万円! |
白倉 |
いるいる。そういう人。 |
B君 |
1200円です。 |
白倉 |
じゃあ、1万円でおつりちょうだい。(千円札が数枚しかない会計箱をのぞきながら)わーこれで大丈夫なのかな? |
B君 |
ぎりぎりいけます。 |
Dさん |
1万円札もらった後、お金こまかくできないね。どうするの? |
チョン君 |
そのときは1万円くずせないから、他の店へ先に行ってくださいって言って。もし言えなかったら俺呼んで。 |
白倉 |
だんだん手順がわかってきたね。 |
チョン君とパンさん
パンさん
綿あめづくりは初めてというチョン君に、UBS社員のドミニク・パンさんが、つくり方のコツを教えてくれました。
チョン君「こう腕を回しながら、指回すらしいですよ。パンさんから教えてもらったの。練習、練習。」
香港出身のパンさんは、ボランティア活動に熱心な社員の一人で、NPO団体のニーズを聞いて会社がどこにどのような支援をするかを検討したり、外国籍の子どもに高校受験のための英語を教えるボランティアもしています。
「私のできるサポートをして、地域社会に貢献することができればうれしいです。」
これまで働いてきた企業ではボランティア活動をバックアップする仕組みはなかったとパンさんは言います。
「色々なNPO団体とパートナーシップを組んで支援できる機会がたくさんあります。こうした活動ができる会社で働くことに誇りを持っています。」
開店から1時間。店の前にお客さんの列ができ始めました。お金のやりとりもスムーズです。
カランカランカランカラン……その時、機械が大きな音を立てながら振動しました。パンさんがスイッチを入れ直しても振動は止まりません。突然のトラブルに戸惑う子どもたち。
並んでいたお客さんが「先によその店に行って、後で寄ります」と気を利かせてくれました。
故障の原因は、砂糖が機械に詰まってしまったためでした。白倉さんがお湯で砂糖を溶かし機械が順調に動きだしました。1時間後、お店の再開に子どもたちも一安心です。
輪投げ
一方、記念写真・輪投げのゲームグループは、開店と同時にお客さんが集まり大盛況です。初めはぎこちなかったメンバーも、すっかりうちとけた様子。お客さんの対応もばっちりです。
お客さん |
二人お願いします。 |
Bさん |
幼稚園生?じゃあここから輪を投げてね。(子どもが輪を投げる) |
Cさん |
わー惜しい!もう一回!(足元の景品をめがけて輪を投げる) |
Bさん |
はい、おめでとう〜! |
口西さん
「お客さんの対応が、みんなすごくうまい。輪投げの景品も、並べ方に工夫を加えてちゃんと考えながらやっているから、私は全然口出しはしません。会議のときはぎこちなかったけど、一つずつやりながらチームが生まれてくるんだなと思いました。
私たち社員も、仕事以外でこういう活動をしていると、みんなが仲がよくなります。仕事においてもどうしたら会社により貢献できるのかと、みんなで議論することが増えました。」
この日の売り上げは、お店グループ、ゲームグループ合わせておよそ8万円。収益は全て、外国籍の子どもたちを支援している「多文化共生センター東京」と「CCS世界の子どもと手をつなぐ学生の会」に寄付されました。
チョン君
「最初の準備から最後まで皆でやったことが良かったと思います。他のメンバーとも、予想以上に仲良くなれた。楽しかったです。完璧。やってよかったです。」
白倉さん
「子たちをどうサポートしたらいいのか、逆に学ばせてもらういい機会になったと思っています。」
BBCプロジェクトでは、今後、聴覚障害のある子どもとない子どものコミュニケーションやスポーツを通してチームワークを学ぶプロジェクトを企画しています。子どもたちが主体的に参加し、達成感や自信を獲得していくことを目指しています。
日本と韓国でUBSの社会貢献活動を統括しているコミュニティーアフェアーズ ディレクターの堀 久美子さんに聞きました。
堀さん
「私たちの目的は、よりよい地域社会のために会社ができることをする、そして地域で暮らす社員が、地域社会をよりよくしていこうとすることを支援することです。そのために会社の持つさまざまな資源、人材、財政的支援、物的支援、また社員の専門性などをどのように地域に投資すると最もインパクトがあるのかを考えています。
ある地域社会の課題が解決し、子どもたちや地域が次のステップに歩みだす。それを支援したことによって社員が成長し、こうした活動を支援している企業で働くことへの充実感にもつながると思います。そのためにNPOや東京ボランティア・市民活動センターなどの中間支援組織と協力し、『知る、共感する、行動する』といったステップを通じて支援の輪が広がるようにしています。」
会社のさまざまな資源を駆使し、NPOや中間支援組織と連携しながら、必要な人に、より良い支援をより多くの人に届けたいという熱意が、ボランティアに参加する社員の一人一人から感じられました。
取材 大和田恭子