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活動リポート

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2010年5月16日

認知症フォーラム「あきらめない---最新医療と社会の支え---」を開催しました(盛岡)

NHK認知症キャンペーンの一環として、認知症フォーラム「あきらめない---最新医療と社会の支え---」を、5月16日(日曜日)、岩手県盛岡市の岩手県民会館で開催しました。543人の来場者が、認知症の最新医療とケアについて学びました。

写真:舞台講師3人と司会者 出演は、紺野 敏昭さん(こんの神経内科・脳神経外科クリニック理事長)、内出 幸美さん(社会福祉法人典人会 理事・総所長)、立花 美江さん(認知症の人と家族の会 岩手県支部世話人)、司会は「福祉ネットワーク」などでおなじみの町永 俊雄アナウンサーが務めました。出演者のプロフィールはこちらをご覧ください

第一部では、主に医療の立場から、認知症の基礎情報や、最新医療情報を中心にお話を伺いました

写真:紺野氏の顔

紺野 敏昭さんは、盛岡市に隣接する岩手県滝沢村で開業医として認知症の方の治療にあたられています。認知症の治療には、その人の暮らしを見ることが大切だと考え、日々診察を行っています。
まず紺野さんは、普通の物忘れと認知症の違いについて説明しました。認知症の場合、普通の物忘れと違い、体験したことそのものを忘れてしまいます。
例えば、夕飯で何を食べたのかを忘れることは、普通の物忘れですが、「夕飯を食べたこと自体を忘れる」、これは認知症の可能性があります。
身近な人がこのような変化をメモしておき、初診の際に医師に見せることで、本人の普段の様子を把握でき、診察に役立つと話しました。


写真:抑肝散の説明画面

また、薬について、アルツハイマー病の薬であるドネペジル塩酸塩については良く知られていますが、最近では漢方薬の「抑肝散(ヨクカンサン)」が認知症のいわゆる「周辺症状」(不安、徘徊、妄想、興奮など)に対して、症状を穏やかにする効果があることがわかってきたと説明しました。副作用も少なく、認知症の初期に服用することで、特に効果が得られると話しました。


第二部では、認知症の人を地域で支えるにはどうすればよいか、介護の専門職の方、実際に認知症の方を介護されてきたご家族を中心にお話を伺いました。

写真:内出氏の顔

内出 幸美さんは岩手県大船渡市で、グループホームやデイサービスの施設を運営しています。暮らしに根ざした介護環境を重視し、認知症の人のケアにあたっています。
内出さんは、認知症の人が抱える不安を和らげるために、施設で行った実例を紹介しました。
ある男性利用者の方は、落ち着きがなく、急に強い不安に襲われ、固い表情になることが多かったそうです。その不安の原因は何なのか、この方のそれまでの暮らしや人生を見つめ返すと、長年「大工」として活躍してきたことや、「世話好き」という人柄が見えてきたそうです。今まで棟梁として人の面倒を見てきた人が、今では人のお世話になってばかりいる戸惑いや絶望感があるのではないか。そう考え、大工の経験を活かせる、施設のベンチ作りをお願いしました。すると、いきいきとした表情を見せ、自信に満ちた笑顔を取り戻したといいます。 こうした認知症の人が発する感情を敏感にキャッチし、その人を知ることで、またそこから新しい介護の方法が見えてくると話しました。

内出さんの提案する、認知症ケアの具体的なポイントは5つ。

  • 生活をともにする中で、したいことを理解する。
  • 今できることが何か考える。
  • 輝いていた頃を一緒に思い起こす。
  • 肯定的な言葉で話す。
  • 笑顔で接し味方だと感じてもらう。

本人の当たり前の暮らしを大事にし、一緒に楽しむことが大切だと伝えました。


写真:立花氏の顔

立花 美江さんは、16年間に渡って、若年認知症の夫を介護し、最期まで夫とともに積極的な人生を送ってきました。 立花さんは、在宅介護について、これまでの経験を踏まえ大切なポイントを伝えました。
それは、家族だけでは抱え込まず、地域や周りの人に認知症のことを隠さないことだといいます。地域の行事にもそれまで通り参加し、周りの人たちが、さりげなく見守ってくれていることが実感できたことで、本人も家族も安心して地域で暮らすことができたと話します。
また、認知症の介護者の悩みで多い、「もの盗られ妄想」について、家族はどういった対応をするのがいいのかアドバイスをいただきました。
「財布がなくなった」と言うことが多く、「盗った」と疑われるのは、介護をしている身近な家族が多いそうです。疑われると嫌な気持ちになりますが、一緒に探してみるなど、本人の不安な気持ちに寄り添ってあげることが大切だと話します。財布や眼鏡など、代替用を用意しておいて、「見つかるまでとりあえずこれを使っててね」と渡すことで、本人が落ち着きを取り戻す場合もあると話しました。


第一部では認知症の最新医療情報を、第二部では地域の支え合いについて、医療、介護、家族それぞれの立場からお話を伺いました。
数年後には65歳以上の10人に1人が認知症になる可能性があるという予測が出されるなど、認知症が身近な病気になりつつある今、医療、ケア以外に、地域の支え合いは、ますます重要な役割を果たします。認知症になっても誰もが安心して暮らせる地域をつくるにはどうしたらよいのか。来場したお一人お一人が、それぞれの立場で考えさせられた、そんなフォーラムでした。


主催

NHK盛岡放送局  NHK厚生文化事業団  読売新聞社 

後援

厚生労働省 岩手県 社団法人 認知症の人と家族の会

協賛

株式会社ツムラ


出演者プロフィール

紺野 敏昭 (医療法人 館 こんの神経内科・脳神経外科クリニック 理事長)

1978年岩手医科大学大学院修了。岩手県立久慈病院などの臨床を経て、岩手医科大学神経内科学医局長。1998年こんの神経内科・脳神経外科クリニックを開業。急性期の認知症の人の診断のためには、その人の暮らしを見る必要があり、地域との連携が重要と考えている。脳神経外科専門医、神経内科専門医、脳卒中専門医、リハビリテーション認定臨床医、岩手県認知症サポート医など。

内出 幸美 (社会福祉法人 典人会 理事・総所長 情報科学博士) 

1994年に医療機関から認知症専門デイサービスを立ち上げ、施設長に就任。翌年、認知症啓発劇団「気仙ぼけ一座」を旗上げし、気仙地区を中心にオーストラリア公演も経験。介護施設も小規模で、暮らしに根ざした介護環境を整える必要性を感じ、町に残る旧家を借り、サービスを始めた。認知症の人の尊厳を守るために、本人の生活背景に基づいた視点と、ケアする側の真正面から向き合う姿勢に重点を置き、活動を続けている。

立花 美江 (社団法人認知症の人と家族の会 岩手県支部世話人)

若年認知症の夫を10年間在宅介護し、一昨年看取った。本人の尊厳を傷つけないように、病を隠さず、周りの支援を受けた。夫とともに地域の様々な行事に参加したり、旅行などを「あきらめない」ことで、最期まで積極的な人生を送る。今年2月、介護体験を「手をつないで」という本にまとめ、自費出版した。

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