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インタビュー

2008年12月26日

写真:にこやかにほほ笑むアグネスさん 〈歌手、エッセイスト〉
アグネス チャンさん


仲間がいる、一人じゃないって感じられる。とっても安心するんです

2007年10月、アグネス チャンさんは乳がんの摘出手術を受けました。 アグネスさんが乳がんを発見するきっかけとなったのは、がん患者やその家族を支援するチャリティーイベント「リレー・フォー・ライフ」との出会いでした。 全国各地でコンサートや講演活動を行いながら、今もがんの再発を防ぐ治療を続けているアグネスさんにお話を伺いました。


Q.乳がんとわかったとき、どんな気持ちでしたか?

アグネス:最初はちょっと悔しかったっていうか、どうして私が乳がんなの?っていう思いがありました。健康に気をつけていたつもりだったし、自分の家族に乳がんを経験した人がいなかったので自分には関係ないと思っていたから・・・。
「死」についても考えました。一番下の子はまだ10歳だったので、せめて15歳までは見届けたい。親としてそばにいてあげたい。だからそのときは、「神様、もうちょっと時をください」って思いましたね。

Q.早期発見だったそうですね?

アグネス:たまたま大きいコンサートが延期になってしまって、久しぶりに家でのんびりしていたんです。何となく胸に違和感を感じて触ったら、しこりがあった。「もしかしてこれは」って思ったんですね。なぜそう思えたのかといえば、ちょうど少し前にリレー・フォー・ライフを取り上げたNHKの番組でゲストとして参加したばかりだったんです。それで私自身、がんに対する意識が高まったときだったんですね。
だから医師に「しこりがちっちゃいときに見つかったのは本当に良かったんですよ」って言われたとき、病気になったのにすごく感謝の気持ちもわいてきたんですね。

写真:2008年8月に北海道室蘭市で行われたリレー フォー ライフの様子。がん経験者や支援者と歩くアグネスさん。

Q.リレー・フォー・ライフに参加してどんなことを感じましたか?

アグネス:はじめて参加したときは、がんは発見されていなかったこともあって、みなさんを応援したいという気持ちだったんです。みんな治療を受けながら周りの人たちのために一生懸命になっている。みんなが輝いていて、すごい感動でした。


Q.がんを体験して参加した今年は、前回と比べて気持ちが違いましたか?

アグネス:がんを経験している人を「サバイバー」って呼んでいるんですけども、サバイバーとして参加すると、とても励まされたんです。

写真:紫色のスカーフを首に巻いてもらうアグネスさん。リレー フォー ライフでは、紫色のスカーフはサバイバーの証し。

私はいま女性ホルモンを抑える薬を飲むホルモン療法をしているのですが、飲み始めたときは副作用がきつかったんです。関節がすごく痛くなったり、眠れなくなったり、しっしんが出たり、目があけられないくらい顔が腫れちゃったり。それをリレー・フォー・ライフで出会った仲間たちや先輩たちに話したんです。そうしたらある仲間は「私もそれ全部経験して5年たったけど、どんどんよくなるから」って教えてくれたり、「大丈夫だよ」って励ましてくれたんです。それがすごくうれしかったですし、すごく安心するんですよ。私だけじゃなくってみんな同じなんだ、一人ではないんだなあって。だから今度は自分もみんなを励ましていきたいと思いました。


Q.同じような経験をした人同士だと、普段言えないようなことも話しやすかったりするのですか?

アグネス:そうですね。他のみんなも言うんですけど、医師に相談するほどではないんだけれども体がつらいときはあるんですね、やっぱり。例えば、毎日仕事に行くのはつらいんですよ。でもちゃんと歩けて食べれて生活できている。その一方でもっと苦しい思いをしている患者さんがいる。だから私たちが弱音を吐いちゃいけないって思う。だけどやっぱりつらいんですよ。そういう気持ちがみんな共通なんです。だからお互いに励まし合って元気を取り戻せる場でもあるんですね。

Q.乳がんは日本人女性の20人に1人、がん全体では日本人の3人に1人がなると言われています。がんを経験したご本人として伝えたいことはありますか?

アグネス:がん検診はほんとにやっていただきたい。一番大事なのは検診することです。がんと立ち向かえる方法は、早く見つけること。早期発見だったら治る病気です。早期発見が唯一の治療法だと思うくらいに、まず放っておかないでほしい。 そして、もしがんが見つかったら、今はあらゆる治療法があるので医師と相談しながら、自分でも勉強しながら、自分に一番あった治療をやっていってほしいです。仲間のなかでも、再発を重ねても目標を持って努力して長く生きている人は大勢います。長く生きられれば子どもの成長を見守ることもできるし、好きなことも続けられます。だからがんになってもあきらめない。あきらめないで前向きに取り組んでいくっていうことが大切だと思うんです。
そのためにもみんなが、他人事ではないという意識とがん患者に対する優しい目を持つこと、そして残された家族をみんなで支えあい、一人ではない強みをみんなで確かめ合えるようになれたらいいなと思います。

リレーフォーライフ(Relay for Life)は1985年にアメリカの一人の医師が、がん撲滅や患者支援を訴えるために陸上競技場を24時間走り続け、寄付を呼びかけたのがきっかけで始まりました。今では世界20か国以上で開催されるチャリティーイベントとなっています。日本では2006年9月に茨城県つくば市で初めて開催されました。2008年には北海道や鹿児島など7か所(11月現在)で行われ、全国的な広がりを見せています。集まった寄付金は患者や家族の支援、がんの専門医の育成などに使われています。