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インタビュー

2008年12月26日

写真:まさおみさん近影。まさおみさんは20歳の学生。 〈元里子として思いを語る〉
笹原 政臣(ささはら まさおみ)さん


家族の一員だったからこそ深い絆ができたんです

何らかの理由で実の親と暮らせない子どもが養育者の家庭で育つ「里親制度」。笹原政臣さん(20歳)は里子として里親の小松さんご夫婦のもとで育ちました。大学生となった今、自ら里子だったことを公表し、里子の思いを語り始めました。現在も小松さんのお宅で暮らす政臣さんを訪ね、お話をお聞きしました。


  • 里子は18歳になると「措置解除」といって里親と里子の関係は解消されます。そのため「元里子」という表現をさせていただきました。

Q.施設ではなく、里子として家庭で育ったことをどう感じますか?

笹原:2歳半のときに乳児院から家庭に移ってきたので、施設で暮らしていたときの記憶がほとんどないんですね。なので、施設と家庭の生活を比べることはできないのですが、家庭で育ってこられたことは、僕の中ですごく大きいことだと思います。家族の一員として過ごせたからこそ、濃い人間関係をつくり上げることができたかなと思うんです。それが友だちやいろいろな人との人間関係を築き上げていく土台になっているように思います。

Q.里親には、里子に実子ではないことを伝える「真実告知」の義務があります。政臣さんの場合は何歳ごろに聞いたのですか?

笹原:小学校にあがる前くらいからだったと思うんですけど、深刻な感じではなく、「政臣と私たちは血はつながっていないけれども家族なんだよ。親子だから」って、何度も何度も繰り返し聞かされていたんです。だから、親子だけれども血縁関係がないことは小さいころから知っていました。

Q.血がつながっていないと聞いたとき、どう感じましたか?

笹原:自分が里子ということで思い悩むことはあまりなかったんですね。事実関係から言えば、父と母とは里親と里子という関係になるんですけど、僕にとっては本当の父と母です。きょうだいも、長女と次女が実の子で、3番目にあたる長男と4番目の僕が乳児院から来た里子なのですが、お姉ちゃんたちも僕たちに優しく、本当のきょうだいとして接してくれました。まあ、きょうだいげんかはしょっちゅうしてますけどね(笑)
写真:まさおみさんとご両親 両親も実子と里子とを区別も差別もなく育ててくれました。そのおかげだと思うのですが、2歳半から十数年の間に少しずつ積み重ねてこられた絆があって、だからこそ特別悩むことはなかったんだと思います。


Q.政臣さんはこれまで「小松」の姓で暮らしていたのを「笹原」にされました。それはなぜですか?

笹原:本当は小松という名のままでいたかったんですが、大学の入学手続きが本籍の名前でなくてはいけなかったんですね。それで「笹原政臣」という名前で暮らすことを決心したんです。これまで本籍の名前を見るのは、学校の卒業証書をもらうときくらいだったんです。そのときは「これって自分なのかな?」って、自分じゃないような感じはあったんです。でもこの機会に、僕の本当の名前であるならば、それを受け止めてみるのもいいかなって思えるようになったんです。

Q.里子だったことを公表し、シンポジウムなどで発言されていますね。元里子として発信したいことがあったのですか?

写真:里親制度普及のために東京都が開いたイベント「もっと知りたい!養育家庭制度」で発言する まさおみさん。写真提供は東京都福祉保健局

笹原:そうですね。まず同じ里子の人に伝えたいことがあって、それは、もっと里親さんを信じて素直な自分のままでいてほしいっていうことです。同じ里子でもぼくのように乳幼児のときから里親の家庭に行くのと違って、思春期のころに家庭に行くと、里親の家族との距離感や接し方が違ってきてしまうと思います。気を遣いすぎてよそよそしくなってしまうこともあると思うんです。でも、家族になれたわけじゃないですか。できるだけ素直になって、自然体で家族の中に入れたらいいんじゃないかなって思います。

Q.ほかにはどんなことを伝えたいですか?

笹原:里親さんにも伝えたいことがあります。たっぷり愛情を注いであげる前提があってのことですが、里子に対してもっと放任になってもいいんじゃないかなと思います。見守ってあげるだけでも子どもは育っていくものだと思うんですね。
僕は中学2年のときにいじめられたことがあったんです。でも親には言えなかった。そのうち耐えられなくなって、やっと打ち明けました。そうしたら父も母もちゃんと話を聞いてくれて、解決まで導いてくれたことがありました。それまではおそらく暗い顔になっていたんだと思うんです。心配もかけていたと思うんです。でも僕が話すまで待っていてくれた。子どもにはどんなことであれ、親に話すことができる何かしらの機会があると思うんです。待っていてくれたからこそ話せたんです。そして、話したときには受け止めてくれた。「信用していいんだ」って心から思えたんですね。
里親さんは子に何かをしてあげたいとか、早く家族になるためにはどうしたらいいかなって、すごく悩んで奮闘されてあせってしまうこともあると思うんです。でもそこは我慢して、少しゆとりをもって、子どもが向き合ったときにすべてを受け入れてくれたら円満にいくんじゃないかなと思います。

厚生労働省によると保護が必要な子どものうち、乳児院や児童養護施設で暮らしている子どもは32,902人、里子として暮らしているのは3,424人で、子どもたちの10%にすぎません(平成18年度福祉行政報告例)。受け皿を広げるため、児童福祉法も改正され、国も里親制度の充実に取り組みはじめました。 里親制度については「全国里親会」のホームページをご覧ください(別ウインドウが開きます)。または地域の児童相談所にお尋ねください。