今回ご紹介するのは、土屋康一さんの作品です。
キュレーターは、福祉実験ユニット・ヘラルボニーの松田 文登さんです。

作者……土屋 康一(つちや・こういち)さん

キュレーターより《松田 文登さん》

「自然=緑」の方程式を塗り替える。土屋康一の見ている世界とは?

「無題(通称「はっぱ」)」

板、アクリル絵の具、クレヨン / 650×910×10mm

黒い地に対して、のびやかに走る白い線と豊かな色面。構成要素が明快な分、独特なリズム感が目を引くこの作品のシリーズのタイトルは、通称「はっぱ」。このアートを手掛けたのは、福島県の地域生活サポートセンターパッソ(以下「パッソ」)に所属する土屋康一さんだ。

写真:土屋康一さん

土屋さんの代表的な作品は、「はっぱ」と題される串に団子が刺さったような形状の作品群と、「はな」と題される画面全体を複数色で塗り分ける作品群に大別される。「はっぱ」「はな」双方とも鮮やかな色彩が共通 しており、植物の優しいイメージと相まって、見る者の心を癒し、和ませてくれる。

近年では植物をモチーフに絵を描くだけでなく、新築家屋のふすまや、美容室や児童施設の壁面も作画し、好評を得ているという。他にも「おすし」などの具体物や人物、バス運行に関する記録メモを取ることもあるのだとか。

まだヘラルボニーが会社を創設したばかりの頃、土屋さんにアーティスインタビューさせていただいたことがあった。土屋さんと日常的に接している、サポートセンターのスタッフの方々に「土屋さんならではのこだわりってありますか?」とヘラルボニーのメンバーが尋ねると、「カラフルに描く」「線からはみ出さないように丁寧に色を塗る」「“今”描きたいものを創作している」「作品を描き始めたら、最後まで必ず仕上げる」などなど、即座に沢山の「こだわり」を教えていただいた。

その反応は、「土屋さんはどんな人か」という質問に対しても同じだった。バスや植物などに詳しくて、好きなものに一直線。いたずらしたり、ちょっとおどけてみせたりもするが、普段の生活でふと垣間見える、根がまっすくで真面目な性格。他の利用者さんや職員の方に「大丈夫?」と声をかけて気遣い、友達の絵も描く、仲間想いな一面・・・。

当時のインタビュー記事を読み返し、改めて痛感したのは土屋さんは周囲にものすごく愛されているということだ。土屋さんが日常的に細やかな心遣いをしていること、他の人が気に留めないような小さなことにも心を傾け、感動していること。その一つ一つの心の動きが、土屋さんのカラフルで柔らかなアート表現に反映されているのではないだろうか。

「無題(通称「葉っぱ」)」

板、アクリル絵の具、クレヨン / 650×910×10mm

「葉っぱ」

キャンパスボード、水性マーカー、水性ペン / 209×296×5mm / 2010.5.19


プロフィール

松田 文登(まつだ・ふみと)

株式会社ヘラルボニー代表取締役副社長。チーフ・オペレーティング・オフィサー。大手ゼネコンで被災地の再建に従事、その後、双子の松田崇弥と共に、へラルボニー設立。自社事業の実行計画及び営業を統括するヘラルボニーのマネージメント担当。岩手在住。双子の兄。日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。日本オープンイノベーション大賞「環境大臣賞」受賞。

 


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