今回ご紹介するのは、岩手県花巻市の高橋南(たかはし・みなみ)さんの作品です。

キュレーターは、福祉実験ユニット・ヘラルボニーの松田文登さんです。

作者……高橋南さん

 

キュレーターより《松田 文登さん》

風は吹き続け、今 円舞する。

「風のロンド」を描いた高橋南さんの今に迫る。

「風のロンド」

静けさと激しさが共存している。全方向から引かれる曲線をみていると、風が自由に舞う世界へと引き込まれるような、自然な引力をもつ、風のロンド。

この作品を手掛けたのは、岩手県花巻市のルンビニー苑に入所する、高橋南さん。
そんな南さんの作品や一人の作家としての一面を、過去にヘラルボニーで実施した作家インタビューで母親の由美子さんが語られたエピソードと共に紹介します。

「ガハハハハ」と笑って、周りを明るくする子。由美子さんにとって、南さんは一言で言うとそんな存在だという。そんな南さんの人柄を連想させる、オレンジを基調とした明るい暖色系の色合いが輝きを放つ「風のロンド」だが、由美子さんによると、南さんはこれまで暗い色を率先して選ぶことが多かったという。一見あたたかな印象の「風のロンド」のなかには、黒や深緑といった暗い色彩が存在している。別の「無題」という作品では、鮮やかな青や赤、紫に視点が行くが、俯瞰して鑑賞してみると力強い筆致で塗り込まれた黒が画面全体を占めていおり、それがこの作品の印象をより引き立てている。南さんにとっては、暗色や寒色が興味や心惹かれる色彩なのかもしれない。

「無題」

「風のロンド」を最後に、南さんは作品としての絵を描いていない。由美子さんが試しにクレヨンと紙を用意してみるが、少し描くと「終わり」といって、片付けてくださいと指示をする。また、南さんは自身が描いた作品にあまり興味を示さないという、創作にたいする潔い一面も有する。少しでも自分の作品だということを認識してくれたらという思いから、高橋家では風のロンドがデザインに起用された製品やイベントに参加した時の写真を額縁に入れて、全てリビングの「南のコーナー」に飾っているという。風のロンドに包まれた家―。いるだけであたたかい気持ちになりそうだ。去年岩手で開催されたパラリンピックの除幕式では、トーチデザインに起用された風のロンドのスカーフを身に纏って参加した。最近では南さん宛のファンレターが届いた。手紙の送り主の方は風のロンドを「モネの絵のようだ」とその魅力を熱弁し、今もメールのやりとりを続けているそうだ。

「南の作品がこんなにも広く愛されていることがまだ信じられないですし、嬉しい限りです。」由美子さんはインタビューでそう語っていた。

「障害」は、空気のように自然な日常で、その生活の中に小さな幸せがたくさんある。南さんと家族の間には風のロンドに見たあたたかさを感じる。

南さんの心は優しく自由で、明るい時も暗い時も吹き続ける強い風のよう。

風のロンドが南さんの心の一部であるならば、

今も自由に舞い、暖かい風が吹き続けている。


プロフィール

松田 文登(まつだ・ふみと)

株式会社ヘラルボニー代表取締役副社長。チーフ・オペレーティング・オフィサー。大手ゼネコンで被災地の再建に従事、その後、双子の松田崇弥と共に、へラルボニー設立。自社事業の実行計画及び営業を統括するヘラルボニーのマネージメント担当。岩手在住。双子の兄。日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。日本オープンイノベーション大賞「環境大臣賞」受賞。

 


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