今回ご紹介するのは、アトリエやっほぅ!!(京都市)の吉田 裕志さんの作品です。
キュレーターは中津川 浩章さん(画家、美術家、アートディレクター)です。

作者紹介……吉田 裕志(よしだ・ひろし)さん

2008年、京都市ふしみ学園に「アトリエやっほぅ!!」が誕生した時から在籍されています。当初は陶芸制作を中心にされていました。職人気質で、細部まで作られた土の電車をご自分の前にきっちり綺麗に並べ、笑顔で眺める姿が毎日見られました。
約8年前から本格的に始められた作画では、当初オイルパステルでの動物画を中心に描かれていました。どの作品も大胆な構図とタッチで動物の顔が愛らしく描かれています。
最近は画材が色鉛筆に変わり、題材は「家族旅行の風景」、「お祭り」、「懐かしい60年代の名画」など多岐にわたっています。それらの作品に登場する人物はコミカルでユーモラス、ちょっとほっこりする印象もあります。
カラフルでポップな色使いでありつつも、強い筆圧で塗り込まれた重厚感のある作品には多くのファンがいます。(アトリエやっほぅ!!・中島慎也)

キュレーターより 《中津川 浩章さん》

吉田裕志「コニーアイランド」

京都市伏見区にある「アトリエやっほぅ!!」を訪れたとき、吉田は奥の部屋の左隅に静かに座って制作していた。その作品を見ながら、『いい絵だなあ』という思いがジンワリと湧き上がってくるのを感じていた。

アールブリュットや障害がある人のアートというと、どうしても人目をひく奇妙なもの、エキセントリックなもの、インパクトがあるものに評価が偏り過ぎるところがある。それは仕方がない一面もあるのだが、吉田の絵のようなオーソドックスな絵画の良さが見過ごされがちになるのはもったいない。

色鉛筆でかなりの筆圧でびっしりと描きこまれている画面は、明るくポジティブなエネルギーに満ちている。イギリスの画家デビッド・ホックニーをほうふつさせるカラフルで濁りがない色の重なり。ラフなようで意外に緻密な画面構成。強弱のあるタッチを重ねることで繊細で豊かな表情をつくり出している。一見すると地味な絵画なのだが、よく見ると複雑な色彩構成や抽象化に驚かされる。

作品に現れるホリゾントラインも印象的だ。さりげなく入ってくる水平線は画面を安定させ、横に何本ものラインが流れる構図はドイツの写真家アンドレアス・グルスキーの写真を思い出させる。

モチーフとなる画像のセレクトはスタッフとの何気ないやり取りからはじまる。リクエストにも気軽に答えてくれるそうだ。スタッフが集めた写真の中から描くものを選んで決め、さらにトリミングしたり、さりげなく入れ替えたりするなどして構図構成をじっくり考える。一枚を仕上げるのに数週間の時間をかけるのだという。

ものをつくる仕事がきっと向いているからという両親の勧めもあってアトリエに通うようになった彼が、はじめに取り組んだのは陶芸だった。完成した作品は彼の手によってきっちりとていねいに並べられ、それを満足気に眺めていたそうだ。

いま、絵画の仕事に取り組む彼のそばには、たくさんの小さくなった色鉛筆が並べられている。ぎりぎりまで削って使い込んだ鉛筆、小さいものは1cmほどの長さしかない。削ること、そして並べること。それ自体が目的であるかのように整然とそこに在る。

彼の中では絵を描く、鉛筆を削る、並べるといった行為に優劣はないのだろう。出来上がった絵だけを見て評価していては彼の表現の本質を見逃してしまうかもしれない。全部がつながって吉田の「表現」となっているのだ。


プロフィール

中津川 浩章(なかつがわ・ひろあき)

記憶・痕跡・欠損をテーマに自ら多くの作品を制作し国内外で個展やライブペインティングを行う一方、アートディレクターとして障害者のためのアートスタジオディレクションや展覧会の企画・プロデュース、キュレ―ション、ワークショップを手がける。福祉、教育、医療と多様な分野で社会とアートの関係性を問い直す活動に取り組む。障害者、支援者、子どもから大人まであらゆる人を対象にアートワークショップや講演活動を全国で行っている。


これまでのHEARTS & ARTSは、こちらのページでご覧いただけます。

関連リンク

  • Twitterでシェア
  • LINEでシェア
ページトップへ