第56回NHK障害福祉賞 優秀作品
〜第1部門〜
「いのちについて」

著者 : 戸谷 百花 (とや ももか) 埼玉県

いのちについてかきます。 わたしは、23さいになりました。 4さいでびょうきのために、ねたきりになりました。それまではあるけないけれど、かぞくにはわかってもらえることばをはなしていましたが、びょうきでこきゅうがわるくなって、きかんせっかいをしたのでこえがでなくなりました。
ごはんはいろうからですが、くちからもすこしたべます。ごえんをしないしゅじゅつをしたのでたべられますが、たくさんはつかれるのですこしだけです。
ごはんがらくになったぶん、いまはいろんなことができます。
たいりょくがないので、じやえをかくときはくちからはたべません。たべるときは、えをかくことはしません。これはわたしがじぶんできめました。たくさんしたいことがあるので、たいりょくはひとつにしかもちません。えをかいたら2か(ふつか)くらいなにもしたくありません。とてもつかれてしまうからです。
それでもえをかくのはだいすきです。
これは3ねんくらいまえにかくことをしりました。
5ねんまえにじがかけることがわかってから、かあさんがかいじょのれんしゅうをしてくれて、じをいえですきなときにかけるようになりました。しをずっとかいています。
そのあとで、かいじょがあるとじぶんでかいていないとおもわれるかもしれないと、スプリングバランサーというそうぐをつけて、ひとりでかくれんしゅうをしました。そのとちゅうでえもかけることがわかって、えもかくようになりました。
ずっとねたきりだったわたしは、じぶんでうごかせることをしってからは、せかいがかわりました。
ずっとかんがえていたことばをたくさんかきました。これはかけないときからずっとたくさんことばをかんがえていました。
つたえられないとおもっていたけれど、うれしいときやかなしいきもちをあたまのなかでいつもかんがえていました。
ずっとちいさいときにびょうとうできいたうたもだいすきで、あたまのなかでうたっていました。これはいまかあさんにおふろでうたってもらっています。
かけることで、わたしのいきがいをみつけました。しとえをかくことがいきがいです。
たくさんのひとにたすけられながらいきてきたので、かんしゃとこのげんきなすがたをみせたいとおもっています。
わたしのようにねたきりのひとのなかにも、わたしのようにじがかけるひとはたくさんいるとおもうので、そのひとたちがかけるようになるきっかけになるとよいともおもっています。
なんどもしにそうになりましたが、いのちがたすかったのは、きっとなにかすべきことがあったのだといまはおもっていて、きっとこのことがそれなんだろうとかんがえています。
ずっとにゅういんしていて、なんにんもなくなるのをみて、とてもかなしかったしこわかったです。じぶんもしぬのかとおもったこともあったし、そんなきもちもつたえられずにいました。
こんなふうにかいてつたえられるようになってからは、ひとりでふあんになることはありません。つらいときやくるしいことはつたえてきづいてもらえるので、とてもこころづよいです。
うまくつたえられるか、ふあんもありますが、ことばがだせなかったときにくらべればたいしたことではありません。
これからもたくさんのひとと、つたえることのたいせつなことばでコミュニケーションをとっていきたいです。
わたしのいのちについてのはなしは、これでおわりです。
ありがとうございました。

受賞のことば

ゆうしゅうしょうをありがとうございます。
うれしいです。
たくさんのひとにしってもらって、たくさんのひとがつたえられるようになってくれるとうれしいです。
ここでこのようにつたえることができて、ほんとうにしあわせです。
これからもいきがいをわすれずに、たくさんのひとにつたえていきたいです。
ありがとうございます。

選評

きょうも私は目覚ましで起き、ラジオを聴きながら朝食を摂り、電車で職場に着いた。その間、いのちについて考えることはない。でも何度も死の淵をさまよった作者は毎日、いのちの意味を23年間ベッドの上で考え続けたのだろう。そしてその思考は、自分自身だけでなく、周りの人々や同じ境遇の人たちへの感謝や思いやりにつながっていく。ことばや絵で自分の気持ちを伝えられる喜びに満ちている。いのちの叫びに圧倒される作品だ。(鈴木 賢一)

以上