第55回NHK障害福祉賞 優秀作品
〜第1部門〜
「一ねんせいはたいへんです」

著者 : 山田 永菜 (やまだ えな)  岩手県

しょうがいしゃのひとは、きっとふべんです。めがみえないひとがつえをついていて、そこになにかものがあったらとおれません。くるまいすのひとのとおるみちに、くるまいすがとおれるひろさがなかったらとおれません。だれかがきづいて、ものをよけてくれたりしてくれたらとおれます。
わたしは、みんなとふつうにおはなしができます。きょうかしょもよめます、プリントもかけます。かけっこもできます。わたしはみんなにはしょうがいしゃにはみえません。
わたしは、しょうがいがあります。はったつしょうがいです。みんなとおなじことをするのがむずかしいことがたくさんあります。
かんかくかびんがあります。おおきなおとがにがてです。はなびや、たいこのおとや、こうじげんばのおとは、しんぞうがドキドキするくらいこわいので、ヘッドホンをします。
においがにがてです。レストランのいいにおいはぜんぶまざってしまって、きもちわるくなってしまって、はいてしまいます。かぞくでがいしょくをしたことはほとんどありません。おねえちゃんたちや、おとうとに、ごめんねといつもおもいます。えんそくのときのおべんとうや、おねえちゃんたちのうんどうかいのおべんとうも、しらないところでたべるので、はいてしまいます。とってもおなかがすいているのに、おかあさんがせっかくつくってくれた、だいすきなたまごやきがはいっているおべんとうも、たべられません。
いっぱいたべたいです。でもたべられません。イライラします。なみだがでて、とまりません。おかあさんに
「おはなししてごらん」
といわれても、いいたいことがあたまのなかをぐるぐるしていて、なにからはなしたらいいのかわかりません。じぶんのきもちがどこにあるのかわかりません。
がっこうのじゅぎょうのとき、みぎがわからほかのクラスのせんせいのこえがきこえます。ひだりがわから、わたしのせんせいのこえがきこえません。一ねん一くみで、どんなじゅぎょうをしていて、いま、なんのもんだいをやっていて、どういうふうにやるのか、せんせいのはなしがぜんぜんきこえません。ちょうかくかびんです。ざわざわのほうがおおきくきこえて、せんせいのこえがきこえません。おとはこわいのに、ひとのこえはきこえません。だからじゅぎょうがわからなくなります。
みんなはきっと、へんだ、とおもっているとおもいます。ほけんしつでおやすみすることもたくさんあります。べんきょうでわからないことがあるときは、おねえちゃんや、がくどうのせんせいにおしえてもらいます。がくどうは、わたしみたいな、はったつしょうがいのこがくる、がくどうです。
わたしのしょうがいはめにはみえません。だから、おかあさんとか、おばあちゃんとかおねえちゃんたちがたすけてくれます。がっこうのせんせいもたすけてくれます。
でも、おともだちとうまくできません。やすみじかんに、みんなとこうていであそぼうとおもったら
「えなちゃんとはあそばない」
といわれました。なきたいきもちになりました。でも、ないたらせんせいがしんぱいします。くつばこにもどってくつをはきかえたらおかあさんが、がっこうにきていました。もっとなきたいきもちになりました。おかあさんにはなしをして、きょうしつでほんをよむとはなしました。でもおかあさんが
「いっしょにあそぼうっていってごらん」
といいました。またいうのは、ゆうきがたくさんいります。なかよしのおともだちがふたりいたので、おもいきって
「いっしょにあそぼう」
といったら
「いいよ」
といってくれました。うれしくておかあさんに
「あそんでくるね」
といいました。ゆうきをだしてはなしてみてよかったとおもいました。
わたしが、ないてなにもしゃべらなかったり、ほけんしつによくいったり、みんなとちょっとちがうから、みんなはわたしのことをへんだとおもっているかもしれません。
せんせいは、わたしのちょうかくかびんのこととかをクラスのみんなにせつめいしてくれました。なんでヘッドホンをするのかも、はなしてくれました。なかよしのおともだちは、なにもいいません。おともだちのおかあさんもわたしにとてもやさしいです。コロナで、さんかんびが一かいしかなかったからまだ、わたしのおかあさんも、だれがおともだちのおかあさんかわからないこともあります。
あるとき、クラスで
「そんなこともできないの」
といわれました。なきたくなりました。みんなには、かんたんにできることがわたしにはなかなかできません。なきたくなったけど、
「わたしにはちょっとむずかしいの」
といったら、
「一ねんせいなのにね」
といわれました。一ねんせいだけど、わたしはみんなよりできないことがたくさんあります。でも、みただけではわかりません。ランドセルにヘルプマークもつけているけど、ヘルプマークもいみをしらないひとがたくさんいるから、きづいてもらえません。
わたしは、がっこうにはいってわすれものがおおくなりました。おかあさんがなんかいもとどけてくれました。ちょっとそこまでのスーパーにでかけたとき、ヘッドホンをわすれて、バスがとまってブレーキのおとがしたり、こうじげんばのおとがするとき、おかあさんは、さっとわたしのみみをふさいでくれます。おかあさんに、ありがとうをいいます。おかあさんは
「ママは、えなのママだから、ありがとうをいわなくてもいいよ。だってかぞくだから。でもがっこうのせんせいや、がくどうのせんせいとか、クラスのみんな、ほかのおかあさんにたすけてもらったときは、かならず、ありがとうをいってね」
といわれます。
おねえちゃんたちとは、いつもけんかをします。でも、わたしがじぶんのきもちをつたえるのがにがてだとわかって、ちゅうがくせいのおねえちゃんと、おかあさんが、きもちのカードをつくってくれました。おこってるとか、かなしいとか、たくさんかおのえがあって、ほけんしつでやすみたいです、とか、きょうしつにもどります、とかの、えもあります。おねえちゃんは、びじゅつがとくいです。ことばできもちをいえないときは、そのカードをつかってゆびをさして、せんせいにきもちをつたえます。
ときどき、みんなどうしてわかってくれないの、とおもってイライラしてしまいます。でもおかあさんが
「えながつらいことは、みんなにみえないし、こっせつしたことがないひとは、こっせつのいたみもわからないから、なったひとしかわからないの。でも、にがてなんだよってしってもらうことはできるとおもうよ」
とわたしにいいました。だから、なつやすみは、じゆうけんきゅうに
「わたしのせつめいしょ」
をつくることにしました。ことばでは、せつめいするのはにがてなので、もぞうしに、わたしのにがてなことや、みんなよりとくいなことをかいた、せつめいしょをかくことにしました。
ちゅうがくせいのおねえちゃんも、わたしのしょうがっこうのそつぎょうせいです。にばんめのおねえちゃんは、ごねんせいで、さくぶんがとくいで、わたしにおしえてくれます。じどうかいのふくかいちょうで、とてもかっこいいです。わたしも、かっこいい一ねんせいになりたいです。いつもないていたらせんせいも、おかあさんもこまります。
わたしに、ぶんしょうをかいてみたら? といってくれたのは、おかあさんです。ことばでつたえるのがにがてなら、もじで、つたえてみたらいいよ、といわれたので、じゆうちょうにおもっていることをたくさんかきました。かいたことをまとめました。
わたしのしょうがいは、だれのめにもみえません。こわくても、きもちわるくてぐあいがわるくてもみえません。みんなよりできないことがあっても、それもみんなにはわかりません。わかってもらうのはたいへんです。だから、おかあさんが
「わかってもらえなくても、しっててもらえてたら、それでいいんだよ」
といいました。にがてなことはたくさんあります。でも、みんなにしってもらえるようにまずは、わたしが、がんばりたいです。

以上