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NHK厚生文化事業団は、NHKの放送と一体となって、誰もが暮らしやすい社会をめざして活動する社会福祉法人です

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企業ボランティア事例紹介

NPO 住まいの学習館(株式会社 高千穂)

年末のこの時期、家の大掃除をして気持ちよく新年を迎えようという人は多いのではないでしょうか。私たちが毎日の生活を送っている住まいも、長く快適に住むためには定期的な手入れや修繕が必要です。例えば、障子やふすま、網戸が破れてしまった時、流しやトイレの水漏れが起きてしまった時、どうしますか?

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横浜市の“NPO法人 住まいの学習館”では、そんな「住まいの困ったこと」を自分たちで解決し、快適な生活を送ることができるようにと、地区センターや地域ケアプラザなどで『住まいの修繕学校』を開いています。

“住まいの修繕方法”教えます

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この『住まいの修繕学校』では、2時間ほどの実習を交えた講習で、住まいのちょっとした修繕を自分でできるように教えてくれます。
これまで行った講習会の内容は、「障子・ふすまの張り替え」、「網戸の張り替え」、「水まわりの修繕」、「家具・フローリングのキズ直し」、「壁紙の補修」などさまざま。特に人気なのは「包丁の研ぎ方」で、主婦の参加が多いということです。
“住まいの学習館”がやっているのは、ただこうした技術を教えることだけではありません。この技術を生かして地域で活躍するボランティアの育成を目指しているのです。講師のスタッフも、もと『修繕学校』の卒業生で、時にはスタッフ自ら「ボランティア修繕隊」としてお年寄りの家に行って、材料費のみで家の修繕をすることもあります。

『住まいの修繕学校』ではこうした実技指導の他に「住まいのワンポイント」という10分程度の講座も行っています。この中では、「防犯対策」「バリアフリー」「地震対策」「節電」「家の健康診断」などのテーマで、住まいに関するミニ知識などを紹介しています。

全国の消費者センターに寄せられる住宅に関するトラブルは、後を絶たないと言われています。「修理の費用はいくらかかる?」「信頼できる業者はどうやって見分ける?」といったことが、私たち素人にはわかりにくいことが原因にあると思われます。ちょっとした技術や知識を身につけることによって、自分で解決できることが増えたり、トラブル回避に繋がることがあるかもしれません。

地域で活躍するボランティアを育成

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12月のとある土曜日、横浜市金沢区の湘南八景自治会館で『住まいの修繕学校』が開催されました。
この日の講習は「障子の張り替え」で、14名の生徒が集まりました。講師のスタッフから必要な道具、古い障子紙のはがし方、貼り方の手順などについて説明が行われて、いよいよ実習です。
まずは、古い障子紙をはがす作業から。素早くきれいにはがすためにはちょっとしたコツがあるようです。水を含ませたスポンジで、のりがついている桟の部分に沿って障子紙を濡らして、5分ほど置きます。次に丸めた新聞紙に障子紙を巻き付けてはがしていくと、驚くほどきれいにはがれました。「お〜、これはいいな」と次々に感心の声が上がります。
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続いては障子紙を張る作業です。

スタッフからは、「のりは塗るのではなく軽くたたくように付ける」、「障子紙の巻きぐせが強いときはマスキングテープで固定する」、「枠からはみ出た紙を切り取る時はよく切れるカッターで刃先をたおして切る」など、作業のポイントポイントでのコツが伝授されていきます。
作業中、「障子は平安時代に採光のために生まれた」といった豆知識が飛び出たり、余った障子紙で切り紙講座が始まったりと、時折遊びや雑談を交えながらの講習会は笑い声が絶えず、皆さんとても楽しそうです。

この日参加した生徒の多くは“湘南八景お助けマン”というボランティアのグループです。普段は、買い物の代行、植木の剪定、電球の取り替えなど、地域住民の困りごとを手助けする活動をしているそうです。
生徒として参加した松本さんは、
「これまで、障子の張り替えなどもやっていましたが、自己流ではなくちゃんとした技術を教えてもらえるのはありがたいですね」と言います。

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職人の確かな技術を地域に役立てる

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“住まいの学習館”の活動は、12年ほど前に横浜市の株式会社高千穂の社会貢献活動として始まりました。
地元密着型の工務店である高千穂は、さまざまな住まいの修繕の依頼に対応していますが、実際お客さんの家に行ってみると、ちょっとした作業で直ってしまうこともしばしば。時には部品交換の必要もなく、2〜3分の作業で直ってしまうケースもあります。こんな時でも、企業としては移動費や職人の人件費などがかかるため、最低でも5千円は請求しなければ元が取れません。しかし、「たいした修理もしていないのに5千円を払うのは納得がいかない」とお客さんに言われることもしばしばありました。
そこで、工務店とお客さんがよい関係を築いていくためにと高千穂が考えたのが、「かんたんな住まいの修繕方法をボランティアで地域の人に教えてしまおう」ということでした。
最初は横浜市内の自治会3か所ほどで『住まいの修繕学校』を開催しました。専門の職人が教えてくれる講座は評判になり、地元の地区センターや地域ケアプラザからも「うちでもやってください」と声がかかるようになりました。
高千穂では、この取り組みに専念できる体制を整えるため、平成15年に“NPO法人 住まいの学習館”をつくりました。口コミで広がった『修繕学校』は、今では横浜市内20か所以上で、年間50〜80回くらい開催されるようになりました。

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現在『住まいの修繕学校』の講師として活躍しているのは、12人のボランティアスタッフです。かつて『修繕学校』で技術を習得した卒業生たちが、地域の役に立ちたいとボランティアスタッフになりました。メンバーは60代〜70代の仕事をリタイアしたお父さんたちが中心です。皆、元々は建設業に携わっていなかった「素人」ではありますが、月に一度、ミーティングや勉強会を行って技術の向上をはかるなど、非常に熱心な人ばかりです。

また、「元素人」が講師となることのメリットもあるようです。
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「私たち素人には、受講生が『わからないところ』がわかるんですよ。自分たちも間違えながら覚えましたから、どこが難しくてどこが間違えやすいかがよくわかっている。もちろん最初はちゃんと教えることができるのか心配でしたが、やっていくうちに素人が教えるよさがあることがわかりましたね」
と、語るのは“住まいの学習館”の理事を務める雨宮育夫さん(76歳)です。
雨宮さんは、59歳で横浜市役所を退職した後、高千穂の社員となり“住まいの学習館”の設立に参加してきました。3年前からはボランティアスタッフとなって、活動を続けています。

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ボランティアスタッフの山川武彦さん(72歳)は、
「私は、高千穂の職人さんが修繕学校の講師をしていたころに生徒として参加していました。この活動をやっている理由は自己満足でしょうか(笑)。高尚な技術を持って教えているという訳ではないですが、みんなが喜んでくれますからね」
山川さんはこの活動の他にも、地区センターなどでパソコンを教えているそうです。他のメンバーも、料理教室をやっている人、手品を教えている人など、年齢を感じさせないパワフルな人たちばかりです。

ボランティアの繋がりが支えていく地域社会

株式会社高千穂が行っているのは、材料や事務所の提供など、“住まいの学習館”のボランティアスタッフの活動のサポートです。
講習会で配られる資料に「共催 株式会社 高千穂」と小さく書かれているだけですが、企業としてのメリットはあるのでしょうか。
「宣伝をしないことが、かえって宣伝になっているんですよ」と雨宮さんは言います。
地域密着型の工務店としては、派手な宣伝活動をするよりも、地域のために地道に活動を続けることが会社の信頼に繋がっていくようです。

これまでの活動を振り返って、雨宮さんは
「8年間もよく続いているなぁと思いますよね。それはたぶん、人に教える喜びがあるんだよね。そして仲間で事務所に集まって、ああだこうだと言いながらやっているのがいい。ここの仲間はみんな気持ちのいい人たちだからね。うちの奥さんもね、亭主が家にずっといるよりも外に出て機嫌良く帰ってくる方がいいみたいですね」と話してくれました。

ボランティアがボランティアに技術を伝え、企業がそれをバックアップすることで、地域の助け合いの輪が広がっています。このような形は、これからの高齢化社会に向けて、お年寄りが安心して住める地域づくりのお手本になる活動ではないかと思いました。

2011年12月21日掲載  取材:小保形

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