現場リポート

「見えない」からこそ、「見えてくる」---日本ブラインドサッカー協会の「スポ育」プロジェクト

「もっと右!右!」「そうそう、そのまま、まっすぐ!」とアイマスクをしてボールをけって進む仲間に、方向を教える子どもたち。千葉県松戸市の上本郷第二小学校の体育館で行われた、ブラインドサッカーの体験。
主に東京都内や近県の小中高校生を対象に、日本ブラインドサッカー協会(2010年8月1日より「日本視覚障害者サッカー協会」から改称)が行っている、「スポ育」プロジェクトを取材しました。

写真:小学校の体育館で目隠しをしながらボールをける子どもたち

「見えない」の世界とは?

この日、松戸市の上本郷第二小学校に集まってきたのは、そろいのユニホームに身を包んだ元気な子どもたち(小学校3~6年生)男女30名ほど。少年少女バレーボールに取り組む「松戸ミライズバレーボールクラブ」(代表:三浦 智之さん)のメンバーたち。

写真:三浦 智之さん

そして、松戸市を活動地域にしている、日本ブラインドサッカー協会(JBFK)に登録する「松戸ウォーリアーズ」所属の選手たちです。「スポ育」とは、視覚障がいのある選手たちが、障がいのない子どもたちにブラインドサッカーの楽しみを教える活動です。この日は、まず、松戸ウォーリアーズのメンバーで、ブラインドサッカー日本代表チームのメンバーとして世界大会にも出場している佐々木 康裕さんのほか、石井 宏幸さん、高橋 純也さんが、デモンストレーションとして華麗なプレーを披露しました。アイマスクを着け、全く目が見えない状態で、音の鳴るボールをリズミカルに蹴って、一直線にゴールに向かっていく姿に、子どもたちは、大感激です。

ブラインドサッカーとは?

写真:子どもたちの前で華麗なデモンストレーションを見せる選手

ブラインドサッカーとは、1980年代にスペインで開発された、視覚障がい者のためのスポーツです。その後、ヨーロッパや南米でプレーされ、1998年にブラジルで第1回の世界大会が開催されました。日本には、2001年に初めて紹介され、この年の11月に「音で蹴るもうひとつのワールドカップ実行委員会」が発足。やがて、「日本視覚障害者サッカー協会」に発展します。2006年11月には世界選手権大会に日本チームが出場を果たしました。
ブラインドサッカーには、「全く見えない人」の行うB1クラスと、「弱視の人」の行うB2/3クラスの2種類があります。このうち、B2/3クラスは、ほぼ普通のフットサル(5人制のミニサッカー)と同様のルールです。一方、B1クラスのルールは独特です。競技を行う人数は、1チーム7人。4つの役割に分かれます。まず、フィールドプレーヤーが4人。アイマスクを着用し視力の差をなくします。弱視の人はもちろん、視覚障がいのない人でも、プレーに参加することができます。また、フィールドプレーヤー以外の3つの役割は、それぞれ1人ずつ。視覚障がいのない人がつとめます。ゴールキーパー、コーチの他に、コーラーという役割があります。フィールドプレーヤーに、ゴールまでの距離や角度を伝える役割で、ゲーム進行の要になります。

図:それぞれのポジションとピッチの図面

コーラーは、攻撃する側のゴールの裏側に立ち、チームのフィールドプレーヤーに対して、ゴールまでの距離や角度を「あと6メートル! 45度! そこでシュート!」などと伝えます。プレーヤーとコーラーのやり取りが求められます。
視覚のない世界でプレーを行うのに頼りになるのは、「音」です。ボールの中には、特殊な鉛の鈴が入っていて「カシャカシャ」という音がします。選手はその音を頼りにプレーするのです。
ゴールキーパーは、ゴールを守ることはもちろんですが、「逆サイドがフリーだ!」などフィールドプレーヤーに声をかけます。普通のサッカーと違い、ゴールエリアの枠内から出ることはできません。

ブラインドサッカーは、ボールの音や、味方や相手プレーヤー、コーラーの声など音声情報が大切ですから、雑音が最大の障害となります。上空をヘリコプターが通っただけで審判は試合を中断することもあります。これ以外にも、いろいろなルールがありますので、JBFAのホームページなどで確認してみてください。

説明を形でイメージ…誰の声か聞き分ける…

写真:グループごとに準備体操を入念に行う

さて、この日初めてブラインドサッカーと出会う子どもたちは、まず、4つのグループに分かれ準備体操に取り組みます。指導は、「松戸ウォーリアーズ」所属の鈴木 雅也さんです。各グループで半分の子どもは、アイマスクを着用します。アイマスクをしていない子どもたちは、鈴木さんの形通りに体を動かしますが、アイマスクをしている子は、まったくわからず手足も動かせないで棒立ち。鈴木さんは、同じグループの子が、「床に上向きに寝て~右足を両腕で抱えて~!今度は反対~!」などと声をかけるように指示しました。


写真:鈴木 雅也さん

準備体操が終わると「スポ育」独特のプログラムが始まります。初めは、「お題に合わせて集まろう!」というもの。今度は子どもたち全員がアイマスクを着用。鈴木さんが、血液型、誕生月などの「お題」を出すと、子どもたち同士、「A型の人!」と叫び合って、仲間を探し、2人、3人と仲間を増やしていきます。子どもたちにとって、普段何気なく「いる」「いらない」「あっている」「違っている」など、目を見つめて合図を送ったり、うなずいたり、手で違うという表現をしたりして通じていることが、目隠しをすることによって、まったくわからず困ってしまうことを体験し大騒ぎです。


「スポ育」にこめた思い

写真:目隠しをしながら、お題に合わせて集まるプログラム

ブラインドサッカーは、世界的に認知された障がい者スポーツです。2004年のアテネ大会から、パラリンピックの正式種目にもなり、日本国内でも地域リーグが行われたり、フットサルとのイベントとあわせて開催されたりするようになりました。現在、JBFAに登録しているチームは、全国で20チームを超えています。

その中で、JBFAが、東京都教育委員会の後援などを得て、2010年から「スポ育」を開始しました。主に小中学生を対象にしてブラインドサッカーを体験してもらい、障がい者と子どもたちが混ざり合うことで、共に理解しあうきっかけとするものです。

写真:井口 健司さん

「“人間は、80%の情報を視覚から得ています。そして、それが遮断され情報がなくなった時こそ、見えてくるものがある”ということを伝えることが、この『スポ育』のテーマです」と、事務局の井口 健司さん。JBFAでは、「スポ育」の目標として「5つの学び」を掲げています。

第1に、「個性の尊重」です。個性(状況)を認識したうえで、自分が何ができるか考える。第2に、「障がい者理解」。視覚障がい者の選手と接することで、障がい者は特別でないことに気づくことです。第3に、「ボランティア精神」。ブラインドサッカー体験を通じて積極的に人の力になろうとする姿勢を学びます。第4に、「チームワーク」。目が見えない状況から積極的に仲間とコミュニケーションをとることを学びます。第5に、「コミュニケーションの重要性」です。コミュニケーションの取り方やタイミング等、その本質について考えを深めるのです。

チーム対抗ゲームで、コミュニケーションの重要性を体験

写真:ゲームを始める前にチームごとに作戦会議

プログラムの2番目は、7~8人ずつで、4つのチームに分かれ、チーム対抗ゲームに挑戦します。ゲームで要になるのは、コーラーです。ボールの位置や、進む方向、ポールの場所など、いかにブラインド状態の仲間に伝えるか、チームで話し合い、また、一人ひとりが工夫することで、コミュニケーションの重要性を感じとっていたようです。

写真:写真:目隠しをして指示通りに動く練習

参加した6年生の女子は、「前に、家の近くで、白い杖をついたおばさんに会って、案内してあげたことがあるんだけれど、うまく説明できなかった。今度会った時には、きちんと方向をことばで説明してあげたい」と、汗を拭きながら興奮して話してくれました。また、この日、移動する際に、いつも、視覚障がいのある選手の手をひいて案内する役を買って出ていた5年生の男子は、「楽しかったよ。でも、自分がアイマスクをしたときは、クラクラして怖かったけど…」と、楽しみながらも、見えないことの不便さも感じていたようでした。

写真:佐々木 康裕さん

指導にあたった、佐々木 康裕さんは、参加した子どもたちに、サインをねだられ、ボールペンの先を指で確認しながら、英語で名前を書き、子ども達から大歓声があがっていました。「元気な子どもたちと楽しく過ごせました。少しでも、ハンディキャップについて理解してもらえると嬉しいです。スポーツを楽しむっていうのは、いいですね」と、語っていました。

同じく指導にあたった鈴木さんは、「この“スポ育”は、宝探しです。子どもたちに、見えない状態を知ってもらって、不安な思いを感じてもらいながらも、いろいろなゲームで、楽しみ、“障がい”について理解を深めていってもらいたい」と話してくれました。ブラインド状態のコミュニケーションだからこそ、たくさんの学びがあるのでしょう。今後も、JBFAは、「スポ育」ならではの学び・気づきを得ることをキーワードに進めていくそうです。

写真:みんなで記念撮影

このブラインドサッカー「スポ育」授業は、小中学生を対象に講師を派遣して行われています。詳しくは、日本ブラインドサッカー協会へお問い合わせください。

(正)

(2011年7月6日 記)

「スポ育」について、詳しくは、日本ブラインドサッカー“スポ育”プロジェクトのホームページをご覧ください。
*日本ブラインドサッカー協会へのお問い合わせは
電話 03-6908-8907
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