ご近所の子育てサポーター ファミリーサポート
「ファミリー・サポート・センター」、子育て中の人なら耳にしたことがあるかもしれません。
子育てをサポートしてほしい人と、サポートしたい人とが助け合う地域の会員組織です。平成21年度末時点で、全国各地で約600箇所あります。
“ファミサポ”という言葉は聞いたことがあっても、実際にどのような活動をしているのかを知る機会は少ないようです。
利用している会員さんの話と、サポートの様子をご紹介します。
働く母親だけでなく、「すべての子育て家庭」の支援へ
ファミリー・サポート・センターは、平成6年、労働省(当時)が仕事と育児の両立を支援するために創設した事業です。子どもを預けたい勤労者が、会員登録をしている近所の人の紹介を受けて預かってもらう仕組みです。平成13年度に対象が子育て中のすべての親に広げられ、平成17年度に国の交付金の対象になったのがきっかけで、次々と各地で設立されました。
利用するには、まず、子育てのサポートを受けたい人(以下、利用会員とします)は、住んでいる地域のファミリー・サポート・センター(以下、センター)に会員登録をします。
一方の預かる人(以下、提供会員とします)は、対象地域に居住している、子育てを支援したい人が対象です。センターが行う研修の修了後、提供会員として登録されます。
センターの職員(アドバイザー)は、利用会員の利用内容や居住地、要望などを考慮しながら、条件にあう提供会員を探します。
利用会員と提供会員のマッチングが決まると、預ける子どもと一緒に会員同士の顔合わせをします。アドバイザーが同席するかどうかは地域によって異なりますが、サポートの内容や子どもの性格などを確認しあいます。この初回面談を終えると、あとは利用日をセンターに報告すれば、ファミリーサポートを利用できます。
ファミリーサポートの利用は年々増えていますが、保育のプロでもなく、親戚でもない人に子どもを預けることには、最初は多少ためらいや不安を感じる人もいるかもしれません。
新宿区ファミリー・サポート・センターにご紹介いただき、実際のサポートの場にお邪魔しました。
サポート事例1
帰る先は「ぐんちゃんち」 学童保育後の送迎・預かりのケース
ゆかちゃんは小学3年生。両親が働いているため、放課後は学校から10分ほどの学童保育所を利用しています。学童保育の終了時間は18時ですが、お母さんの帰りは19時前後。帰宅後一人の時間ができてしまうため、小学校入学と同時にファミリー・サポート・センターに登録しました。現在、週2~3回、お母さんが帰ってくるまでの1時間ほどを、提供会員である郡嶋さんの家で過ごします。郡嶋さんはご自身も2児の母親で、会員歴10年のベテランです。
学童が終わる18時の10分前、郡嶋さんはゆかちゃんを迎えに家を出ます。通学路とはいえ、11月のこの時間には外はもう真っ暗。車の往来も比較的多く、子どもの一人歩きはちょっと心配です。
郡嶋さんを見つけるなり駆けてきたゆかちゃん。「今日ねぇ、学校で・・・」と話し始めます。寄り添って歩く姿はさながら親子のよう。楽しそうなおしゃべりは郡嶋さん宅まで途絶えません。
到着して玄関先にランドセルを降ろすと、家の中にいる犬をなでたり、カーペットに寝そべってみたり。
しばらくして、塾へ行く郡嶋さんの息子さんが、食事をとるために2階から下りてきました。ゆかちゃんがメニューを尋ねます。
「ぐんちゃんち、きょうのごはんなぁに?おでん?」
向かい合っておでんの具を品定めする様子は兄妹のよう。ゆかちゃんも少しだけ一緒に食べることにしました。夕食に響かないよう具を選ぶゆかちゃんに、「これなら大丈夫だよ」と“お兄ちゃん”がおつゆをよそってくれました。
食べ終えると、絵を描き始めたゆかちゃん。「女の子らしいですよね。うちは息子2人なので、こうして女の子と関われて、私自身が楽しいんです」と郡嶋さん。時にはゆかちゃんが夕食作りを手伝ってくれることもあるそうです。
19時少し前、ゆかちゃんのお母さんが到着しました。お母さんは食事のことなど、簡単に今日の様子を聞いた後、利用料金を支払います。料金は、活動のたびに支払うのが原則です。
「ファミリー・サポート・センターは保育園で知りました。近くに身内がいないので本当に助かっています。郡嶋さんは小学校で図書ボランティアをされているので、学校のこともいろいろ教えてもらえますし、ここでお兄ちゃんたちと関わることも一人っ子の娘にはいい経験になっていると思います」。
郡嶋さんのお宅は小学校のすぐそば。現在大学生の上の息子さんが小学生になった頃から、よく友達を連れて来ていました。そのため、よその子が自宅にいるのが日常で、家族で遊んでいたと言います。自分が楽しみながら活動できて、趣味に使うお小遣いを自分でやりくりできれば・・・と、10年近く前に提供会員に登録したそうです。
活動を続けて来られたのは、家族の助けもあったから、と言う郡嶋さん。「主人は小さい子によく話しかけてくれますし、子どもたちは遊び相手がきたと言わんばかりによく一緒に遊んでいましたね。来た子たちもみんな楽しんでいたようです」。預かった子のことは家族の共通の話題にもなり、この日も久しぶりに近所で見かけた子の話で盛り上がっていました。
サポート事例2
「おうちでいっしょにお留守番」 日中の一時預かりのケース
続いては、乳児の一時預かりです。
ファミリーサポートは提供会員の家で行われるのが原則ですが、小さな子にとって慣れない場所で知らない人に預けられることは、二重のストレスです。そのため、会員同士が了解しあえば、利用会員宅(子ども自身の家)で活動が行われることもあるそうです。
今回は、利用会員の本田さん宅にお邪魔しました。
この日、本田さんは、上のお子さんの学校の集まりに出席するため、1時間ほどサポートを依頼しました。7か月のゆうちゃんがミルクを最後に飲んだ時間や、小学生のお兄ちゃんたちの帰宅後の予定を、子どもをみてくれる提供会員の松島さんに説明すると、お母さんは出かけていきました。
お母さんと入れ替わりで小学1年と4年のお兄ちゃんたちが相次いで帰ってきました。「何で松島さんいるの?(お母さん)どうしたの?」松島さんの顔を見るなり話しかけます。
松島さんは、上のお兄ちゃんが1年生のときからサポートをしています。そのためかお兄ちゃんたちは、お母さんには言いづらいことを話してくれることもあるのだとか。彼らの友達も松島さんを知っており、松島さんは家族ではないけれど他人でもない、特別な存在になっているようです。
お母さんが外出して20分位経った頃、ゆうちゃんがしきりに顔をこすります。眠くなったようです。
お兄ちゃんにベビーラックの背もたれを調整してもらい、松島さんはしばらくゆうちゃんの胸をトントンしていましたが、そのうち、ゆうちゃんはすうっと寝入ってしまいました。
後はお母さんが帰ってくるまで、寝顔を見つめているのが“お仕事”となりました。
松島さんが提供会員になったのは4年近く前。元保育士の松島さんは、自らの経験をいかした活動をしたいと思って登録したそうです。
これまでにサポートをしたのは12、3家族。1回限りのこともありますが、スケジュールをやりくりしていくつかの家庭をかけもちでサポートしていた時期も。子どもの体調不良で急なキャンセルがあったり、親の都合で急に依頼が来ることもあるため、「保育園勤めの頃より“不規則勤務”かも」と苦笑します。
会員に登録した狙いはもうひとつ、自宅で預かって一緒に食事をしたり遊んだりするところに、社会人の娘さんを巻き込むことでした。地域で子育て中の母親と接する中で、妊娠・出産までに子どもに関わった経験がない人の多さを実感し、娘さんが子どもに慣れるきっかけになればと思ったのだそうです。
・・・予定より早く、本田さんが帰ってきました。
「初めてファミリーサポートを利用したのは、真ん中の子の出産のときです。上の子が1年生になってからは、学童保育所や習い事の送迎で定期的に利用してきました。末っ子の育児休暇中の現在は、今回のようなときに単発的に依頼しています」。
本田さんは来年4月には職場に復帰する予定だそうですが、実家は1時間ほどのところにあり、緊急の対応はのぞめません。「頼みたいときって時間的にはちょっとだったりするんですよね。いざという時やちょっとしたことを頼める存在が身近にいるのは、とても心強いです」。松島さんが対応できないときもあるので、松島さん以外にも依頼する相手が何人かいるのだそうです。
「孤育て」しないで 地域で育てる
新宿区ファミリー・サポート・センターは、平成12年に設立されました。以来、利用会員への登録者は毎年増え続け、現在も、毎年500件を超える新規登録があります。先ほどの2つの事例は、両親が共働きというケースでしたが、新宿は、官公庁や企業で働く転勤族や、外国籍の人々が非常に多く、こうした地縁のない人々がサポートを求めて登録するケースも多いのです。
知っている人のいない不慣れな土地で子どもを育てる・・・自分の時間をとりたい時や、休みたい時だってあるはずです。「病院や買い物に行くといった外出時に預けてもいいし、家にいる時の話し相手や炊事中の子どもの相手とか、そういう時に利用してもいいのです。ちょっとしたことでも手伝ってもらえるんだ、近くに手伝ってくれる人がいるんだって知ってほしいですね」。と、センターでコーディネートを担当する山口さんは言います。
新宿区の場合、2200件余りの登録に対し、1か月の利用件数は延べ1502件(22年4月)。登録数のわりには利用数が少なく見えますが、いざという時の保証を得るために登録するという人も多いようです。
新宿区ファミリー・サポート・センターでは、ファミリーサポートを通して、活動時間外の関わり、つまり“ご近所さん”の関係ができていけば・・・と、できるだけ徒歩圏内の会員同士をマッチングするようにしています。
サポート事例1の提供会員の郡嶋さんは、小学校で図書や読み聞かせのボランティアをしています。そのため、ゆかちゃんと学校の中で会うことがあり、ゆかちゃんのお母さんは郡嶋さんから学校での様子を聞くこともあるそうです。サポート事例2の本田さんのお子さんは、家の鍵を忘れて困ったときに、提供会員の松島さん宅を訪れて、しばらく一緒に過ごしたこともありました。
ファミリーサポートを通して生まれた“ご近所さん”の関係が、活動時間以外のところで“ごく自然なサポート”を生み出しているのです。
“ご近所さん”の関係では、提供会員がサポートするばかりではありません。利用会員が、「何度電話をしてもつながらない」と、提供会員の安否を心配してセンターに連絡をしてきたこともあるそうです。「結局、たまたま電話に出られなかっただけでしたが、気遣ったり、声をかけあえる関係が広がれば、その地域の暮らしやすさや安心感につながっていくと思います。地域の再生にも有効かもしれませんね」。
“ご近所さん”の関係は、子育てが終わってからもずっと役に立ちそうです。
ファミリーサポートは、子育て支援サービスのひとつですが、その担い手は、ちょっと困ったときに応援してくれる“ご近所さん”。保育の専門家ではありませんし、急な依頼には対応できないこともあります。
そうした点を理解して、他の子育て支援サービスと併用するなどして上手に利用すれば、“ご近所さん”による声かけや見守りといったプライスレスなおまけがついてくる、利用後も嬉しい仕組みと言えるかもしれません。(田)
ファミリー・サポート・センターは、「会員制の助け合い組織」ということは全国共通ですが、地域によって会員の呼称や条件、活動時間や料金などに違いがあります。
新宿区の場合、7時から19時の時間帯の利用料金は、1時間800円です。
平成21年度からは、病(後)児の預かりについて国の交付金が出るようになったため、病(後)児の預かりを始めている地域もあります。
詳しいことは、お住まいの地域のファミリー・サポート・センターにお尋ねください。
全国のファミリー・サポート・センターの運営を支援する団体として、財団法人女性労働協会があります。
女性労働協会のホームページでは、各地のファミリー・サポート・センターを検索できます。
女性労働協会のホームページをご覧ください。
