障害のある子どもたちって、どんな子?
障害のある子どもの親たちが中心となって、障害のある子の気持ちや特性、そしてサポートの仕方などを、地域の人々に知ってもらおうという取り組みが各地で広がっています。「キャラバン隊」と名付けられたこの取り組み、東京都あきる野市を中心に活動している「レインボー」もそのひとつです。レインボーが誰にでもわかりやすく伝えるために取り入れた手法は、寸劇です。
ある小学校での公演の様子を取材しました。
疑似体験で“障害”を知ろう
この日の公演はあきる野市立多西小学校の2年生3クラスが対象です。体育館に集まった子どもたちの前にまず現れたのは、「おさる」の親子。レインボーの劇は毎回「おさるの国」という設定です。
おさるのお母さんが「今日の晩御飯はカレー。材料を買いに行きましょう」と言うと、子どものキョロちゃんが「うっきー」と答えます。すると、キョロちゃんがどこかに行ってしまいました。たいへんたいへんとあわてるお母さん。そこに、違うおさるが現れ、お母さんとぶつかってしまいました。ぶつかったおさるは手に持っていたお金を落としてしまい、拾おうとするのですが、なかなか拾えない様子です。
ここで、進行役のレインボー代表・両角 美映さんが場面をストップさせました。そして、見ている子どもたち全員に軍手と折り紙を配ります。「軍手をはめてやっこさんを折りましょう。わからなくても折り方を説明するので大丈夫。では一緒にやりましょう」。両角さんの掛け声でやっこ作りが始まります。「まず四角になるように半分に折ります。また半分に折ります。広げます・・・」と進めていく両角さん。子どもたちも説明を聞いて折っていきます。でも、軍手をはめているため、うまく折れない子がけっこういます。ちょっと複雑なところになると、「広げられない」、「ちょっとまって」、「折れない」と悪戦苦闘の様子。でも、両角さんはどんどん進めていきます。
「はい完成。出来た人は見せて」と言う両角さんの声に、出来上がったやっこを高々とかざす子は全体の半分くらい。途中から説明について行けなくなってクラスメイトに聞きながら折っている子や、きれいに折れなかったのか恥ずかしそうにしている子もいます。
そこで両角さんは「みんな、折っていてどんな気持ちだった?」と尋ねます。「軍手をしていたので難しかった」「うまく折れなかった」といった声が返ってきます。
中には、「手が不自由な人はいつもこんな感じなの?」と質問する子も。その問いに両角さんは「同じことをやるのにも手を使うことが苦手だったり、感覚の違いによってもっとやりにくいこともあるんだよ。もし困っている人がいたら、『お手伝いすることありますか?』と声をかけてもらえると、困っている人はとってもうれしいんだよ」と答えました。
「同じ年代の子どもたちに知ってほしい」
レインボーは、東京都あきる野市にある特別支援学校・都立あきる野学園に通う児童・生徒の保護者を中心に、2006 年に結成されました。現在は22 人が活動に参加しています。結成当初から活動の中心は、地域の小・中学校。結成時から代表を務める両角さんは「将来的には、障害のある子どもたちのことをみてくれるのは、同じ年代の子どもたち。だから、私たちの子どもと同じ年代の子に、障害のことを知ってもらいたいんです」とその理由を話します。
でも、ただ話して説明するだけでは子どもたちには難しいかもしれない、私たちだって楽しく伝えたい、そう考え、寸劇に疑似体験を盛り込んで伝えるスタイルをとったのです。また、障害という言葉は使わず、“苦手がたくさんある子”という表現をすることで、自分たちの身近にいる友だち・仲間だと感じてほしいと願っています。
音に敏感な子どもの気持ち
さて、疑似体験には次のようなものもありました。
お母さんと離れ、1人でいるキョロちゃん。そこに友だちのおさるが現れます。キョロちゃんを見つけたその友だちは、後ろから声をかけました。すると、キョロちゃんは大きな声で泣き出してしまいました。声をかけた友だちも予想外の反応にどうしていいのか戸惑ってしまいます。
そのとき突然、「バン!」と会場内に大きな音が響きました。会場の後ろにあるドアが勢い良く閉まったのです。劇に集中していた子どもたちは突然のことにびっくりしています。
すかさず両角さんが、「いまびっくりした人、手を挙げて」と聞くと、全員が手を挙げました。
「今みたいに、いきなり後ろで大きな音がしたらびっくりするでしょ。キョロちゃんも、いきなり後ろから大きな声をかけられてびっくりしちゃったの。そして、びっくりしたことを言葉で伝えられないから、泣いたり、暴れたりして伝えようとするの。もし、暴れてしまっても、落ち着くまで待っていてあげてね。」
そして、びっくりさせないためにはどうしたらいいのか、子どもたちに考えてもらいます。子どもたちから出てきたのは、「正面から声をかける」こと。「そうだよね」と両角さん。そして、子どもたちに実践してもらいます。このとき、「目線を合わせることも大切だよ」とポイントも伝えました。
劇は続きます。今度は車いすに座っている女の子の人形が登場してきました。この女の子は全身にまひがあるという設定で、顔を良く見てみると、鼻から管が伸びています。するとその子のお母さんが、管につながっている容器にジュースを入れました。
両角さんが「何をしているんですか」と尋ねると、お母さんは「全身にまひがあって口から食べられないから、鼻から胃に通した管で食事をしてるんですよ。この管はとっても大切な管なんです。だから、見かけても触ったりしないでね」と、子どもたちに向けて説明しました。
理解の第一歩は、「楽しい」と感じてもらうこと
約1時間 15 分の公演は、寸劇にお話、疑似体験、人形を使ったデモンストレーションなど盛りだくさんで、子どもたちにとっても、あっという間のようでした。公演が終わり教室に戻っていく子どもたちの声は、「楽しかったね」と、とても弾んでいました。楽しかったという子どもたちの感想を聞いたレインボーの皆さんもうれしそうです。なぜかというと、レインボーの目標は見てくれた人に楽しかったと感じてもらうことだからです。両角さんは「子どもたちが楽しいと感じてもらえれば、何かひとつでも印象に残ってくれると思うんです。車いすがあったねとか、おばちゃんたちが来たね、とかでいいんです。何かが印象に残る、それが理解の入口になっていくと思うんです」と話してくれました。
レインボーの劇は、大人が見ても、「なるほど、そうだったのか」と気付くことや、「そうだよな」と改めて感じることの連続です。誰にでも「優しい社会」を築いていくためにも、大人にもぜひ見てもらいたい活動でした。(高)
(2010年6月4日記)
レインボーについて、詳しくはホームページをご覧ください。
公演の依頼もできます。今では、小・中学校だけでなく、福祉の専門学校の講座や銀行の新人研修などにも取り入れられています。
レインボーと同じようなキャラバン隊は、神奈川県座間市や愛知県岡崎市など全国で約30団体が活動しています。それぞれの活動については、インターネットなどで検索してみてください。
