現場リポート

自宅を開放して本の貸し出しやおはなし会--「にじいろえほん箱」

横浜市戸塚区の閑静な住宅地の一画にあるお宅に、小さな子どもを連れたお母さんたちが続々と入っていきます。一見、普通のお宅ですが、ドアを見ると「にじいろえほん箱」の看板。子どもたちに本のよさを知ってもらおうと絵本の読み聞かせや、本の貸し出しを行いながら、子育て中のお母さんたちが気軽に集える場として9年前に発足しました。その活動を取材しました。

写真:おはなし会のはじまり

600冊の本がずらり

毎月2度の活動日。午前中は、幼稚園に行く前の小さな子どもたちとその親が、午後は園児から小学生が対象となります。

写真:玄関は靴でいっぱい

冷たい雨が降りしきる4月某日。朝10時を過ぎると徐々に親子が集まってきます。あいにくの天気にも関わらず、30分もすると玄関は靴が入りきらないほどに。「これでも今日は少ない方なんです。多いときには靴が重なってしまうので、スタッフの靴を別の部屋に持っていかないと…」と、にじいろえほん箱の主宰で、自宅を開放している早川 志保さんは笑顔で話します。

玄関を上がってすぐにある12畳ほどの部屋がみんなの集まる部屋です。ここに約600冊の本やおもちゃが用意されています。ここにある本は、長く読みつがれているもの、生命力を感じるお話、絵が美しいもの、ウィットに富んだ楽しいお話、言葉遊びが楽しめるお話、昔話や世界の名作、今話題の本などさまざまです。「スタッフが常にアンテナを張って本の情報を得るようにして、にじいろとして皆さんに読んでほしい、と思うものをそろえています」と早川さん。

スタッフも会員も一緒になって盛り上げています

集まった親子は、絵本を読んだり、お絵かきをしたり、おはなししたり、しばらくは思い思いに過ごします。10時半を過ぎると、早川さんの掛け声とともに、「おはなし会」のはじまりです。
毎回、季節やその日の天候、来ている子どもたちの好みなども考慮に入れながら、読み手となるスタッフがそれぞれ絵本を選びます。

この日、最初に読まれた絵本は、さまざまな動物が出てくる「おどります」(作・絵:高畠 純、絵本館刊)。「メケメケ、フラフラ」という印象的なフレーズで、馬、ゴリラ、ゾウなどが次々に踊ります。動物ごとに変わるスタッフの山中さんの声色に、子どもたちはずんずん引きこまれていきます。

写真:大喜びの古川 匡音ちゃん

おはなし会が始まる前はぐずり気味だった古川 匡音(まさと)ちゃん(1歳)も、メケメケ、フラフラのフレーズを聞くたびに大喜びです。「まだ1歳ですが、だいたい話が分かるようです」と話す母の幾実さんは、5年ほど前から通っています。長女の朱音(あかね)ちゃん(5歳)もずっと参加していますが、「ここに通っている効果か、いろんな言葉をしゃべるようになった気がします」とのこと。
実は古川さん、スタッフとしても活躍中です。このようにスタッフが自分のお子さんを連れてきたり、会員として通っていた人がお子さんが大きくなった後、スタッフになって残ったりと、スタッフと会員の垣根がなく、和気あいあいとした雰囲気が特長の1つです。
「雰囲気がほんわかしていてとても気に入っています」というのは、今回が3回目の参加という、真由美さんと結菜(ゆいな)ちゃん(3歳)親子。すっかりこの場に馴染んでいるようです。「活動日でない日も朝起きると『にじいろ行こう』とねだったり、絵本を持ってきて『おはなし会ごっこ』もするんですよ」と、真由美さん。

写真:絵本を読む合間に手遊びなどで、飽きさせない

この日は5冊の絵本を読みましたが、その合間では手遊びをしたり、ピアノの伴奏付きで歌を歌ったり、子どもたちを飽きさせない工夫がなされていました。
公共の場などで催されるおはなし会もありますが、ずっとおとなしくできる子ばかりではありません。特に小さな子だと、本を読んでいる途中に声を出したり、座っていられなくなったりするものです。子どもがおとなしく聞いていられないと親も恐縮して、参加を諦めてしまうことがあります。
でも、ここでは「親も子も自然体でおはなしを楽しんでほしいと思っています。男の子も女の子も元気な子も人見知りな子も気軽に参加できる雰囲気づくりを心がけています」と早川さん。

通い始めて1年半になる星野 葉子さんも、さゆりちゃん(2歳)と健太ちゃん(0歳)の2人のお子さんを安心して、連れてきています。「まだ早いかなと思いましたが、『にじいろに行くよ』と言ったら、喜んでついてきます」と、お子さんも楽しみにしているようです。

口コミで会員が倍増

写真:本棚にはさまざまな絵本がずらり

早川さんがこの街に引っ越してきたばかりのころ、公園に行っても同じくらいの小さな子をもつ親に なかなか会えず、「小さな子をもつ親が気軽に集える場がほしい」と、考えていました。
そんなとき、知り合いから「家庭文庫」の話を聞きました。家庭文庫とは図書館から書籍を借り受け、自宅を開放して貸し出しを代行したり、おはなし会を行ったりするものです。昭和40年代から50年代には盛んでしたが、現在では少なくなっています。
実際に活動していた文庫を見学し、「これならできるかもしれない」と早速、図書館で「団体貸し出し」制度について調べました。こうなったら前進あるのみ。サークルや公園で声をかけ、9年前にスタッフ6人、会員親子約20組で発足させました。
それ以降、口コミで広まり、今ではスタッフ20人、会員50組以上になりました。

活動の場を広げています

本の貸し出しやおはなし会が中心のえほん箱ですが、時には講師を招いて大人も子どもも楽しめるおはなしライブを開いたり、子育てに関連する講演会を開いたりもしています。またスタッフはこの場での経験をいかして学校で読み聞かせを行ったりするなど、活動の場をどんどん広げています。

写真:早川さん

早川さんは、「これからも、できうるかぎり子どもたちが本と仲良しになれるための活動を心を込めて行い、子どもたちがありのままゆっくり育っていけるよう応援していきたい。また、地域で大人も子どもも交われる場を提供していきたいと考えています」と、今後の活動にも意欲を見せています。

個人と地域との関係が薄れてきている昨今ですが、ここでは「本」という共通項でつながった人たちのコミュニティーができています。学校や家庭とはまた違った子育てが、ここでは行われているようです。そして、それは子どもたちへの一方的な「教育」ではなく、ここに携わるスタッフや保護者の方にとっても、さまざまな勉強の場になっているということを感じました。
(土)

(2010年5月27日記)

「にじいろえほん箱」について、詳しくはホームページをご覧ください。

「団体貸し出し」制度は、各地の自治体で行なっています。詳しいことは、お住まいの地域の図書館にお尋ねください。