現場リポート

“支え合う力”が生まれる 「地域の寄り合い所 また明日」

東京都小金井市のNPO法人「地域の寄り合い所 また明日」。子どもたちの通う「保育園」、認知症の高齢者が通う「デイホーム」、そして「地域の寄り合い所」。異なる三つの事業が一つの建物の中で運営されています。赤ちゃんからお年寄りまでが一つの空間で過ごす中で、世代を超えた関わりが生まれる、そんな現場を取材しました。

写真:また明日の室内全景

子どもと高齢者がともに過ごす

平成18年から活動しているNPO法人「地域の寄り合い所 また明日」。運営している事業は、以下の三つです。

  • 子どもたちの通う認可外保育施設「虹のおうち」
  • 認知症のある高齢者が通う「また明日デイホーム」
  • 地域の人が誰でも訪れることができる「寄り合い所」

写真:赤ちゃんを見守るおばあさん

「また明日」が入っているのは、二階建てアパートの一階部分。五戸分の壁をすべて取り払った大きな長屋のような造りになっています。一日に、子どもと高齢者それぞれ5人から8人ほどが利用しています。

取材に訪れた日。建物に入ってまず目に入ったのは、机に手をかけて何とか立ち上がろうとしている赤ちゃんの姿でした。
「ありゃまぁ、元気な子だねぇ」
ヘルパーと一緒にその様子を見守っている松崎さんは、御年103歳。
赤ちゃんから高齢者までが一つ屋根の下で過ごすことで、自然な関わり合いが生まれる、文字通りそんな場面に遭遇しました。

午前中、子どもたちは隣の公園で外遊びです。保育士と一緒に、デイホームに通う高齢者も子どもたちを見守っています。

写真:公園で外遊び ブランコで遊ぶ女の子と見守るおばあさん ブランコに乗ろうとしているのは、2歳のひかりちゃん。そのひかりちゃんに、「一人で乗れる?大丈夫?」と声をかけるのは、デイホーム利用者の許田さん(87歳)です。

「だいじょうぶ!」と元気良くこたえたひかりちゃん。
「押してあげようか?」「うん!」
二人で一緒にブランコ遊びを楽しみました。

「子どもたちはみんな楽しそう。お家の中じゃこんな遊びはできないからね…」と許田さんは言います。

みんな一つのテーブルで

しばらくして昼食の時間になりました。昼食も、一つのテーブルでみんな一緒にいただきます。

写真:昼食の様子 ふたり一緒に食事 ひかりちゃんは、いつも一緒にあそんでくれる許田さんが大好き。つい先日まで許田さんの隣には他の子が座っていましたが、その子はこの3月に卒園。今日から隣の席を独占できることになりました。ひかりちゃん、とっても嬉しそうです。

「お年寄りと過ごすことで、子どもたちは相手を思いやる経験ができているようです」と、「また明日」代表理事で保育士の森田 眞希さんは言います。
「食事の時間、子どもたちはお年寄りがどこに座るか覚えていて、ご本人を席まで案内したり、座るときイスを引いてくれることがあります。職員の動きを見て、自然と学んでいるんですね」

本人の気持ちを大切に

しんちゃんが似顔絵をみんなに見せる

リビングではみんなが集まっておしゃべりをしていました。保育園で一番年長のしんちゃん(4歳)がお絵かきをしていたところ、保育士が「おばあちゃんたちの似顔絵を書いてみたら?」と提案。
がぜんやる気になったしんちゃんは、あっという間に全員分の似顔絵を描き上げてしまいました。みんなからお礼の言葉と拍手をもらい、大得意です。

「また明日」では、保育園や介護施設でよく見られるような、全員が同じゲームや行事に取り組む場面があまり見られません。そのかわり、しんちゃんが保育士さんの提案で似顔絵を描き始めたように、スタッフが子どもやお年寄り一人ひとりの気持ちを上手に引き出して、楽しい時間を作り出していました。

地域の人たちが訪れる「寄り合い所」

「また明日」は、保育園とデイホームのほかにもう一つ、誰でも訪れることができる「地域の寄り合い所」を運営しています。近所の高齢者や子ども連れの若い母親、地元の小学生や中学生が自由に訪れて、デイホームを利用する高齢者と一緒にカレーを作ったり、講師を招いて手芸を教わったりと、様々な活動をしています。
この日は地域の方がボランティアで、紙芝居の読み聞かせをしていました。

写真:ボランティアによる紙芝居

そこに学校を終えてやってきたのは、中学一年生の女の子。慣れた手つきで保育士から赤ちゃんを受け取り、一緒に紙芝居鑑賞です。
「最初、友達に誘われてきたんですけど、子どもが好きなのでよく遊びにきます」とのこと。森田さんから「早く大きくなってウチに就職してね!」と言われ、ちょっと照れくさそうにしていました。

赤ちゃんを抱っこする中学生 赤ちゃんを抱っこする中学生2 ちょっと照れくさそうな中学生 

「小学生や中学生が「また明日」での経験を通じて、社会に出たときに小さい子どもやお年寄りを気づかうことができるようになればよいと考えています」と森田さんは言います。

大家族のように

また明日を運営する森田夫妻

「また明日」は、保育士の森田 眞希さん、介護福祉士の森田 和道さんご夫妻が中心となって運営されています。 主にデイホームを担当する和道さんは、「保育園や介護施設の中で、子どもやお年寄りは常に“支えられる側”であることが普通です。でも「また明日」では、日々の関わりの中でお互いが支え合う存在になっていきます。それが子どもやお年寄りの力を引き出すことにつながります」と言います。
和道さんはさらに、認知症の高齢者にとって子どもたちと交流を深めたり面倒をみたりすることは、感情を豊かにし生活への意欲を高めることにつながるといいます。
一方の子どもたちは、毎日高齢者と一緒に過ごすうち、「お年寄りの近くではあまりうるさくしない」「前を通るときは「すいません」と言う」といった配慮が自然とできるようになっていくのだそうです。

「もう一つ大切なのは、地域に開かれた場所であること。自分の子どもや親を施設に預けるとき、中で何をやっているか見えないようでは不安ですよね。それに地域の人に参加してもらうことは、その地域全体の“支え合う力”を高めることにもなります」。
和道さんのお話によると、「また明日」に子どもを預けているある母親がスーパーに買い物にでかけたとき、自分の子どもが見知らぬ大人から挨拶をされたのを見て驚いたことがあったそうです。二人は「また明日」で普段から一緒に過ごしていたのですが、その母親は、「地域にこの子を見守ってくれている人がいる」と、心強く思ったそうです。

「人間って、横の関係だけじゃ充分じゃない。思いやりのある人になるためには、縦の関係、ナナメの関係も経験しないとね」と森田 眞希さん。

子ども、高齢者、地域の人たち、そして職員が、まるで一つの大家族のように日常を過ごし、その絆を地域へと広げようとしている「地域の寄り合い所 また明日」。家族や地域のつながりが薄れているといわれる今の世の中で、とても貴重な場所に感じられました。
(松)

(2010年5月6日記)

NPO法人「地域の寄り合い所 また明日」(東京都小金井市)
 ・小金井市指定認知症対応型通所介護施設「また明日デイホーム」
 ・認可外保育施設「小さな保育園 虹のおうち」
 ・地域の寄り合い所
以上の三つの事業を運営しています。詳しい情報についてはこちらからどうぞ。
「また明日」で活躍しているボランティアについての記事が、「NHKボランティアネット」に掲載されています。こちらもぜひご覧ください。