飛べたよ!打てたよ!運動って楽しいね!!
「スマイルクラブ」は、千葉県柏市を中心に学校や公共施設で運動教室を開催するNPO法人です。体のつかい方が不器用だったり、学校の授業では習得しきれない障害のある子どもが多く参加している「運動が苦手な子の教室」の様子をのぞいてみました。
発足のきっかけは障害児の母の依頼
「子どもが学校の体育の時間についていけずに困っています。運動を教えてくれませんか?」
自閉症の子をもつ母親から頼まれて大浜 あつ子さん(スマイルクラブ理事長)が、知人の台 朝子さんと2人で障害のある子どもに運動指導を始めたのは、1998年のことでした。かつて盲学校や養護学校で体育の代替教員をしていた大浜さんは、「障害のある子たちは帰宅後に何をして過ごしているんだろう?」という疑問がずっと心の底にあったので、すぐに引き受けたそうです。
こうして始まった「運動が苦手な子の教室(以下、教室)」には口コミで希望者が次々に集まったため、2000年に「スマイルクラブ」を立ち上げて本格的に運動教室を始めました。
障害のある子の指導経験はあるものの障害の専門家ではないことと、障害のあるなしに関わらず運動を楽しんでほしいという思いから、教室の名前には「運動が苦手な子の」としていますが、参加者から口コミで広がっていることもあって、自閉症やダウン症などの子どもが参加者の7、8割を占めています。
指導は具体的に、声かけはさりげなく
見学したのはある木曜日の夕方、場所は松戸市内の体育館です。
まずは準備体操から。「つま先をうえにむけてね」「足じゃんけんのチョキの形だよ」。会員のなかに視覚障害の子がいることもあって、声かけはとても具体的。自分でできない子には、指導者がそばに行き正しい形に直します。
「足シャワーだよ」足首を持って高くあげる柔軟体操をしていると、脱いだ上ばきだけ高くあげている子が。「あれ?シャワー壊れてるの!?直してください」。しかったりとがめたりするのではなく、こんな言葉かけで体操するよう促します。柔軟体操をやめて立ち上がった子が動き回る前に、「よし、○ちゃんみたいに、みんなも立ち上がろう!」。困った行為と見なさず、他の子に「困った子」と思わせない、かつ本人の機嫌を損なわない、さりげない配慮が感じられます。
この日のメインはバッティングと縄とび。教室の内容は、マット運動や鉄棒や縄とびなど、学校の体育の授業で習う内容を中心に構成されています。学校の授業は時間数が決まっているので、習得できない子がいても、所定の時間数を終えると次の単元に進んでしまいます。時間をかけて身につけて、達成感を味わってほしいという思いがあります。
子どもの年齢や習熟度にあわせて3つのグループにわけ、指導者が2、3名ずつついて練習開始です。小さい子や不器用な子のグループは、縄を回さずに左右に揺らしてジャンプ。タイミングがつかめるように手をつないで一緒にジャンプしたり、その子のジャンプするタイミングにあわせてゆっくり縄を動かしたり、「縄を飛び越えた!」という感覚を味わえるようにしています。小学校中学年の子どもたちのグループは、回っている縄の中に入って出る練習や、子どもたちが間をあけずに飛ぶ八の字にも挑戦。できるようになったのは繰り返しの練習のたまものですが、「本当に運動が苦手なの!?」と思うほど、活発な動きと明るい笑顔が印象的でした。
できたら笑顔 できなくても笑顔
次の時間の参加者は小学校高学年から中学生、内容は前の教室と同じです。
「スマイルクラブ」が発足したばかりの頃から通うMさんは、中学1年生の女の子。バッティングはあまり得意ではありません。指導者が投げるボールを見てバットを振りますが、空振り。「あれ?」という表情でバットをにらみつけ、繰り返し挑戦しますが、ヒットしたい気持ちからか、すいか割りのようにバットを振りおろしてしまいます。
指導者が腕を支えて何度か素振りを練習したあと再挑戦。球とバットとの距離が近くなり、ついにヒット!「どう?今の見てた?」と言わんばかりの笑顔で、取材のカメラマンにサインを送っていました。
入会して約5年のTくんは、バッティングではヒット連発。時折かすってしまうこともありますが、しっかりと球をみて、指導者の指示を聞いてフォームを直そうとする様子が見られます。
大浜さんによると、「野球って授業ではやらないけど、休み時間や放課後によくやるでしょう?この子たちにも参加する機会がきたときに、ヒットを打てたり守ったりできたら嬉しいんじゃないかと思って」教室のメニューに加えているそうです。この日はバッティングと守備(球拾い)でしたが、今後ベースを回ったり、ルールを作ったりと、徐々にゲームとしての「野球」を覚えてもらおうとしています。
教室終了後、保護者の方に話を聞きました。
Tくんのお母さんは「今日は体操ある?と聞いてきたりと、毎回ここに来るのを楽しみにしています。当時はまさか縄跳びが、しかも回っている縄の中へ入っていって飛べるようになるなんて思いませんでした。最近は体育館の外で待っているので上達具合は分かりませんが、いつも教室が終わると嬉しそうに報告してくれます」と言います。
また、小学2年と4年の男の子の母親は「特別支援学級に通っている上の子が入会して2年になりますが、特に何かできるようになったというのはないです。でも、思いきり体を動かせる場があるのはとてもありがたいです。親にとっても情報交換できたり、ちょっとした息抜きの場になるので、親子にとってストレス発散の場になっています」と、子どもだけでなく、親にとっても貴重な時間になっていることを教えてくれました。
参加しやすさへの配慮
教室は会員約230人、柏市をはじめ松戸市や船橋市など千葉県内では8か所で開催されています。開催場所として公共施設を利用できるのは、NPOなど非営利団体の強み。スタッフは開催のたびに必要な用具を施設へ運ばなければなりませんが、1つの施設に固定せずにさまざまな地域の公共施設を利用することによって、その地域に住む親子が教室に通う時間が短くて済むというメリットがあります。
月会費は4150円、会場費やボランティアへの謝礼などに充てています。公共施設を利用することで会費を抑えることができ、参加者が負担しやすい金額を設定できているそうです。
達成感と楽しさを感じてほしい
見学に来る人には「思っていたより運動できるんですね」と言われるそうですが、時間をかけて一人一人に応じて指導した結果だと大浜さんは言います。
「継続して個別に対応してあげれば、子どもたちは結構できるようになるんです。中にはなかなかできない子もいますが、練習の過程を小さく分けて、ほめる回数を増やして、子どもの頑張りを認めて、その子が満足できるようにしています。そういう意味では、ここでは、簡単にできてしまう子どもよりもほめられる機会が多いんじゃないかしら。学校ではできたかできないかのどちらかでしか評価されなかったり、小さな変化を喜んだりほめたりする時間的な余裕がないのかもしれませんね。私たちは決してできないとか無理だと諦めませんし、絶対できると信じて指導しています。実際に、2年かかって縄とびが飛べるようになった子もいるんです。できるできないは長い目で見て、『運動が苦手でも楽しい』と思えるようになってほしいと思います」。
そして、子どものうちから障害のあるなしに関係なく一緒に運動をするうちに、障害を怖がったり差別したりせず、自然と手助けができるような関係ができたらなおいいのではないかと考えているそうです。
運動ができるように頑張る持続力、苦しくても最後までやりぬく忍耐力、そして一緒に運動をする仲間への思いやりや助け合う気持ち――教室では、運動能力だけでなく、子どもたちの成長に欠かせない大切なものが育まれているようです。(田)
(2009年11月27日記)
「運動が苦手な子の教室」は、千葉県内(8か所9会場)のほか、大阪(2か所)と茨城(3か所)でも開催されています。詳細は、「スマイルクラブ」ホームページをご覧ください。
「スマイルクラブ」についての記事が、、「NHKボランティアネット」にも掲載されています。そちらもぜひご覧ください。
障害のある子どもが参加できる運動教室は、行政や障害者スポーツセンターなどで行われているほか、民間のスポーツクラブ(水泳教室など)で受け入れているところもあります。
