現場リポート

発達に偏りのある子の学習指導

東京都八王子市にある「みなみ野学園学習教室」では、発達に偏りのある子を対象に、進学を意識した1対1の学習指導を行っています。

写真:授業風景


一見ごく普通の教室

「他の学習塾と比べて、そんなに変わったことをしているわけではありません。子どもたちもここを単に『塾』とよんでいます。」と代表の佐々木 正彦さん。
確かに、マンションの一室を利用した教室は、普通の個別指導塾と変わりがあるようにはみえません。しかし、この教室が生まれた背景には、発達に偏りがあり、今の教育システムについていけない子どもたちを何とかしたいという、先生たちの強い思いがありました。

学校の限界

代表の佐々木 正彦さんと副代表の池田 美保さんは、以前中学校や高校で教員をしていました。二人は学校で教えているうち、発達の偏りを持ちながら、十分な支援を受けられない子どもたちがいることに気づきます。

「勉強についていけなかったり、集団生活になじめなかったりして、成績不振に陥ってしまう子たちがいました。」(佐々木さん)
「学校という組織の中で、できる支援には限界がありました。罪悪感のようなものすら感じることもありましたね・・・・。」(池田さん)

こうした子どもたちを何とかしたいという先生たちの気持ちから、2008年に「みなみ野学園学習教室」が開設されました。

支援のすきまで

写真:代表の佐々木さん

教室には現在、中学生を中心に15人ほどの生徒が在籍しており、ほとんどの子が何らかの発達の偏りをもっているそうです。

「授業についていくのが難しいのだけれど、かといって特別な学校に行くほどでもない。こうした”スローラーナー(Slow Learner)”と呼ばれる子どもたちは、実はどこからも手がさしのべられていないのです。」と佐々木さん。

2007年から特別支援教育が施行されたことで、「授業中立ち歩く」「大きな声を上げる」といったような行動上の問題がある子や、「読み」「書き」「計算」など特定の能力に遅れのある子に対しては、普通校でもある程度対応できるようになってきたのではないかと佐々木さんは考えています。他方で、わかりやすい特徴がなく、全体的に物事を覚えるのがゆっくりな子への学習支援が抜け落ちてしまっていることが心配だといいます。

生徒さんにインタビュー

この日授業を受けていたA君(中学2年生)は、学習面の困難を抱えているとのこと。インタビューをお願いしたところ、A君、ちょっと恥ずかしそうに答えてくれました。

――みなみ野学園の勉強は、学校の勉強と比べてどんなところがちがいますか?

「学校だと、みんなのやり方にあわせないといけないけど、ここだと自分のペースでできるんだ。」

――そろそろ受験のこととか、考えてるのかな?

「まだ、あまり考えていないかな・・・。」

A君のお母さんにもお話を聞いてみました。

「以前は個別指導塾にお世話になっていました。小学生の間はなんとか授業についていけたものの、中学に進むと結果が出ず、息子自身も辛くなってきました。みなみ野学園では、息子の特性を理解して指導してもらえています。家庭での学習も、教室で渡されたプリントを家で解いてファックスで送ると、先生がすぐ添削して送り返してくれるので、やる気を保ちやすいみたいです。少しずつですが、自分にもできるということを実感できているようです。」


進学を意識した1対1の指導

みなみ野学園学習教室は、進学を目指して1対1の指導を行っています。教室の雰囲気も、子どもたちが居心地よく学べるよう気を使っているとのこと。

「生徒さん一人一人異なるペースや勉強の仕方にあわせるために、1対1にこだわっています。でも、指導は結構厳しいですよ。できなくてしかることはないけれど、中途半端にやったりやる気が感じられなかったりしたらしかります。」(佐々木さん)
「小学生のころから『最初はまちがって当たり前』という経験を続けてきた子が多いんです。まちがいを注意されてそこだけ直すことはできても、最初から最後まで一人で正解にたどり着くことができない。だから授業の中で、生徒の『正しく求めたい』という気持ちを作ることを大切にしています。たとえば、計算で答えのマイナスの記号を書き忘れたとき。『いいよいいよ』と言ってしまわないで、ちゃんと正解が出るまで考えさせます。7割までできたらそれでよしではなくて、完璧を目指して最後まで全力でぶつかっていってほしいんです。」(池田さん)

こうした先生たちの熱意の結果か、去年は特別支援学級から普通科高校に進学した子もいたそうです。

「子どもがいきづまったとき『勉強をやめるか、それとも高校行きたいか』ということをいつも問いかけています。子どもたちが苦手な勉強をがんばれるのは、『高校に行きたい』という気持ちがあるからなんです。目標が無かったらなかなか勉強になりません。」と佐々木さんは言います。

学校を作る

インタビューの最後に、教室の今後について聞いてみました。

「学校の設立というのが一つの大きな目標になっています。学校法人として認められるためには色々な基準をクリアしなければならず、道のりは非常に遠いのですが・・・。いずれにせよ、今やっている1対1のスタイルは崩さずに続けていきたいですね。」(佐々木さん)
「今は週1~2回の指導が中心ですが、お母さんたちから『できることなら毎日通いたい』という言葉を聞きます。私もそれが学校の本当のスタイルだと思います。個別の指導を真ん中において、オアシスのような学校を作っていきたいですね。」(池田さん)

お話を聞きながら強く感じたのは、「十分な支援を受けられていない子どもたちのために、彼らにあった教育の場をつくりたい」という、先生たちの並々ならぬ熱意でした。 この熱意が、いつか学校という形で実って欲しい。そんな気持ちにさせられた取材でした。(松)

(2009年11月24日 記)

みなみ野学園学習教室は東京都八王子市で、発達に偏りのある子を主な対象に1対1の学習指導を行っています。対象は小学校高学年(2010年春より全学年受け入れ予定)、中学生、高校生、高校中退者。費用 は個別の学習指導・教育相談とも、1時間あたり5,000円(税込)です。詳しい情報は、こちらをごらんください。