現場リポート

声にならない声を聞き、虐待の“芽”をつむ

ご存じでしたか、毎年11月は、《児童虐待防止推進月間》です。
これにあわせて全国各地で、子どもたちを虐待から守るためのさまざまな取り組みがおこなわれています。そのひとつが、「全国一斉 子育て・虐待防止ホットライン」。11月2日(月曜日)から7日(土曜日)の6日間。各地で日ごろから電話相談をおこなっている36の民間団体が連携して、虐待に関する電話相談をおこなうというものです。今回はそのひとつ、神奈川県伊勢原市を中心に活動する「子ども虐待ネグレクト防止ネットワーク(CMPN)」を訪ねました。

写真:子ども虐待ネグレクト防止ネットワークの事務所内

※CMPNでは、電話相談の内容を常に客観的に評価するという観点から、相談員の個人名や顔は非公開としています。今回の記事もそれに準じます。

全国一斉ホットライン、当日

11月4日(水曜日)の朝10時。
小田急「伊勢原」駅近くにあるCMPNの事務所で、相談電話の受け付けが始まりました。
この日、待機していたのは、3人の相談員。
最初の電話は、15分ほどしてかかってきました。さっそく一人の相談員が対応します。
ほかの相談員も、イヤホンを通じてそのやり取りを確認します…

写真:電話に対応する相談員

きっかけは、一つの虐待事件

CMPNが発足したのは、1998年。その前の年に神奈川県内でおきた乳児の虐待死事件をきっかけに、ボランティア団体として結成、翌年にはNPO法人となりました。当初から、電話相談を活動の中心に位置づけてきたCMPN。その相談員は、すべてボランティア。主婦や元会社員など、いずれも福祉の専門家ではなく、子どもの問題に関心をもつ一般の市民です。そのため、臨床心理士や電話相談員などが講師となった養成講座を毎年開き、1年間かけて相談員としての心構えとスキルを身につけていきます。現在は6人の相談員が、週2日、電話の前で待機しています。

電話相談を始めた当初意外だったのが、親や祖父母といった家族からの相談と並んで、医療や福祉などの機関で働く人たち、たとえば医師や保健師、幼稚園や保育園の保育士といった人たちから、「こういう人がいるがどうしたらよいか」という相談が多く寄せられたことだそうです。その後、そうした人たちからの相談は次第に減っていったそうで、子どもに関わる機関において、虐待そのものや「通告義務」についての関心や認知度が上がってきた証拠ではないかととらえているそうです。
同時に、そうした専門機関などとの連携の必要性を認識したというCMPNでは、2002年、政令指定都市の横浜市と川崎市をのぞく神奈川県内5つの児童相談所と協定を結んで、いざというときの情報交換や対応を迅速におこなえる体制を整えてきました。いまでは、児童相談所をはじめとして、学校や民生委員、保健師など、地域で子どもの問題に関わるさまざまな立場の人たちとの間で、持ち込まれた相談に対応できるネットワークができています。

地域の連携が功を奏したあるできごと

そうしたネットワークの大切さを象徴するケースがあります。
市民からCMPNに一件の通報が入りました、「いつも同じスーパーマーケットにいる小学校低学年くらいのきょうだい。衣服は汚れ、食事をしている人のそばに立ってジッと見つめている姿が、とても気になっている」。 CMPNがそのスーパーに連絡を取ると、店側でも「気になっていた」とのこと。見かけたら児童相談所に連絡をしてほしいと伝え、同時に児童相談所にも一報を入れました。
次にそのきょうだいがスーパーに現れたとき、児童相談所が迅速に自宅を訪問するなどスムーズな対応をとることができたそうです。
地域での連携が功を奏したケースといえますが、一方で、児童相談所につなぐことができても、そこから先を最後までフォローしきれないというもどかしさもあるそうです。

写真:壁にはられた虐待防止関連のポスター

そのあたりを相談員のみなさんに伺いました。
「ここはあくまでも一次的な相談窓口。専門機関につなげるところで、虐待そのものを解決する場所ではありません。できることは限られていますが、その中で何ができるか。ここに電話をしてくる人たちは、虐待をしている親にせよ周囲の大人にせよ、状況を変える何かの“きっかけ”を求めている。その思いに向き合うのが、こうした活動をしている私たちの責任です」。
「その一方で、電話をかけてくる人、特に親は、自分の悩みを聞いてほしいという思いがどうしても強い。『自分はこんなに一生懸命子育てをしているのに、どうすればいいの』と、被害者になってしまっている。でも、私たちが最優先するのは、親に納得してもらう答えを示すことよりも、その後ろにいる子どもの安全です。そのために、親が自分から状況を変えていこうという気持ちを起こせるか。勇気を持ってもらえるか。それが相談窓口の役目です」。

「話せるところ」があることを知ってほしい

全国一斉ホットラインのこの日、CMPNでは夜10時までの12時間、相談の電話を受けつけました。
「話をできるところがあることを、少しでも多くの人に知ってほしい」。そのためにCMPNでは、広報活動にも力を入れています。そのひとつが、名刺大の「ホットラインカード」。

写真:ホットラインカード

相談電話の番号が書かれたこのカードを、CMPNではおよそ10万枚作成しました。伊勢原市をはじめ、厚木市や平塚市などの、保育園・幼稚園、小中学校の園児・児童・生徒をはじめ、児童相談所や地域のクリニック、子育て支援機関、郵便局やスポーツセンター、図書館、児童館などに配りました。子どもが学校から持って帰ったカードを見て、親が相談の電話をかけてきたケースもあるそうです。
「虐待について相談をしたくても、いきなり児童相談所や公的機関に電話をするのは心理的に敷居が高いと感じる人もいます。また、はっきり虐待と言い切れないまでも、『なにかおかしい』『誰かに聞いてほしい』と感じていながら、どこに聞いてもらえばいいのか、わからずにいる人もいる。話せる場所を必要としている人に、どう存在を届けているのか。それが課題です」とある相談員。
同時に、「直接子どもに関わる人や機関に限らず、たとえば公共交通機関やコンビニ、スーパーのように、地域の中で子どもが立ちよる場所、子どもの姿が見られる場所にいる大人たちが、虐待に対する意識をいまより少しずつ高めて、虐待の芽を早期に見つけて対応できるようになってほしい。そのために電話相談に何ができるかをあらためて考えていきたい」そう力強くおっしゃっていたのが、とても印象的でした。(井)

(2009年11月5日 記)

現在、NPO法人「子ども虐待ネグレクト防止ネットワーク(CMPN)」では、毎週月曜日と水曜日に電話相談をおこなっています。くわしいことは、こちらのホームページをごらんください。

CMPNも参加している虐待防止に取り組む民間団体の連合体、「日本子どもの虐待防止民間ネットワーク」については、、こちらのホームページをごらんください。

《児童虐待防止推進月間》にあわせ、全国各地で様々な取り組みがおこなわれています。

写真:虐待防止推進月間のポスター(クリックすると大きなサイズで見られます)

厚生労働省のページ … 今年度の《児童虐待防止推進月間》の取り組みについて.
オレンジリボン運動のページ … 児童虐待防止についての全国的な活動.

*NHK子どもサポートネットの「リレーインタビュー」に、オレンジリボン運動の活動のひとつ、「オレンジリボンたすきリレー」についてのインタビュー記事が掲載されています。そちらもぜひごらんください。