放課後は、障害児の「生きる土台」を育む時間
東京都小平市のゆうやけ子どもクラブでは、知的障害のある子どもの放課後活動を行っています。仲間や指導員と一緒に、外遊びやおやつ作りなどの活動をし、子どもたちは充実した放課後を過ごしています。
到着から帰宅まで、ゆうやけで過ごす子どもの様子を追いかけました。
さぁ、ゆうやけへ出発!
学校の終わる時間が近づく午後一時、指導員たちがゆうやけ子どもクラブ(以下、ゆうやけ)に揃いました。この日ゆうやけに来るのは小学1年生から高校3年生までの24人、迎える職員とアルバイトの指導員は16人。子どもの障害の程度に応じて1対1に近い状態で対応します。その日の担当を確認すると、それぞれ子どもたちを迎えに行きます。
ゆうやけに通う子どもの7割は、隣接市にある特別支援学校に通っており、マイクロバスとワゴン車で迎えに行きます。指導員に話しかけたりしながら約15分でゆうやけに到着。それ以外の子どもは徒歩圏内にある市内の公立小学校の特別支援学級に通っています。立ち止まったり走ったりしながら、指導員と一緒にゆうやけにたどりつきます。
思い思いに過ごせる時間
指導員の「おかえり!」の声に迎えられて子どもたちが次々に到着します。ゆうやけで決まっているプログラムは、週に一度の「おやつ作り」と、一日の最後にみんなで踊る「フォークダンス」だけ。それ以外は、担当の指導員と一緒に好きなように過ごします。
Sくんは特別支援学級の3年生。ゆうやけに到着して荷物を置くなり、指導員の光広さんと近くの公園に向かいました。
お目当てのブランコは使用中。すぐに交代してもらえましたが、しばらくすると先に使っていた子が戻ってきました。
「かわって!」
Sくんはすかさず、「じゃんけんしよう」
最近、解決方法としてジャンケンをもちかけるSくん。ジャンケンをしたところ、Sくんの勝ち。
再びブランコをこぎだしました。
しばらくすると、別の子が水まきをしていたジョウロが気になりだしました。
近くを歩き回っていましたが、今度は貸してもらえません。
「Sくん、別のものを探してみようよ」
道具箱からバケツとスコップを見つけると、それで納得した様子。満足そうに公園脇の植木に水をまいていました。
何度か水まきをしたところで、「ゆうやけに帰る」と言ってバケツとスコップをその場に置いたSくん。
「だったらお片づけしてからにしよう」
公園を出ようとするのを光広さんが止めます。
片付ける人を決めようと、またジャンケンを持ちかけましたが、何を出すかお見通しの光広さんの勝ち。 Sくんは負けをすんなり受け入れて、バケツとスコップを元の所に片付け、光広さんと手をつないでゆうやけに戻っていきました。
光広さんは、Sくんが入会した2年前から主にSくんを担当しています。
「送電線を眺めたり、ボールけりや砂遊びをしたり・・・Sくんが考えた遊びややりたいことにじっくりつきあってきました。さっきのバケツとスコップのように、自分の思い通りにならないときの解決方法を見つけられるようになったことに成長を感じます。子ども同士の関わりが少し出てきたところなので、これから増やしていけたらいいなと思います」。
週に一度の「おやつ作り」プログラム
ちょうどこの日は「おやつ作り」の日。フライパンやボウルを長机に運ぶと、少しずつ子どもたちが集まってきました。
この日のメニューは「じゃがもち」。ボウルにはいったジャガイモをこねて、具のコーンやハムを入れ、丸く形を整えます。それを、油を敷いたフライパンに並べて、両面に焼き色がついたら完成です!
全ての作業をやりぬく子もいれば、途中で抜け出してしまったり、材料を混ぜたり焼いたりといった一部分だけ関わる子もいます。集団が苦手で、やりたくても入っていけない子もいるため、「放っておかず、でも無理はさせず」という姿勢で、時折指導員が声をかけたり、できそうな作業のときに誘ったりと、少しだけでもやってみることを心がけています。
ゆうやけが必要とされる理由
ゆうやけが発足したのは1978年。「放課後や休日に家に閉じこもりがちで困っている」という保護者の声にこたえようと、数人の学生や社会人が、毎週土曜の午後にボランティアで活動をはじめました。近年では、小学校区に設置されている学童クラブでも障害のある子どもの受け入れが進んでいますが、多くの場合、利用できるのは、日中保護者が不在で、かつ身辺自立ができている小学生に限られます。
代表の村岡 真治さんは、ゆうやけでの活動を通して、子どもたちの「生きる土台」を育んでいると言います。
「以前ゆうやけの卒業生が通う障害者作業所を訪ねたとき、「休み時間の過ごし方が上手ですね」と職員に言われました。仲間を誘ってボールけりをしたり、職員とおしゃべりをしたりして、うまく気分転換をはかっているようです。これは教えて身につくものではありません。自分で楽しみを見つける力、人と交われる力、気持ちの折り合いの付け方やストレスの発散方法など、そうした部分をゆうやけでの活動を通して身につけているのだと思います」。
子どもも親も笑顔で帰宅
帰宅の時間。Sくんのお母さんが歩いて迎えに来ました。
公園で使いたいものを貸してもらえなかったけれど、うまく気持ちを切り替えられたこと。公園からゆうやけに戻る時にちゃんと片付けができたこと・・・。光広さんが話す今日一日のエピソードを、お母さんはその様子を思い浮かべながら笑顔で聞いています。
「家の中で過ごすのは物足りないようですし、学校でのストレスを抱えて帰ってくる子どもと長時間向き合うのは親も大変です。ゆうやけでは自分の思いが満たされるようで、笑顔で帰ってきます。こちらも落ち着いて受け止めてあげることができるんです」とお母さんが語ってくれました。
放課後活動は、平日の帰宅までの時間だけでなく、午前授業の日や土曜日、夏休みなどの長期休暇も含み、その時間数は学校で過ごす時間と匹敵します。長期休暇中は、朝から夕方まで活動を行い、泊りがけでのプログラムも企画しています。日々家で家族と過ごすより、多くの仲間とさまざまな体験をしてほしい…。ゆうやけの入会待機者40人以上という数に、「学校外の生活も豊かに」という親の願いを感じます。
勉強や規則などがある学校とは違い、ゆうやけには「やらなければならないこと」がありません。興味のある活動には時間をかけてとことんうちこんだり、苦手なことには少しでも参加できるように工夫したりと、一人一人に合わせて対応しています。高校卒業までの最長12年間、放課後活動を通して、子どもの成長と家族の生活を支えています。(田)
(2009年7月9日 記)
ゆうやけ子どもクラブの正式名称は「特定非営利活動法人あかね会 ゆうやけ子どもクラブ」で、2009年度4月現在、第二子どもクラブとあわせて66人の会員がいます。
こうした障害のある子どもの放課後活動を行う団体は全国各地にありますが、その団体数は正確には分かっていません。学齢期の障害児を3割以上受けいれている事業所(児童デイサービスⅡ型と分類される)が、2005年時点で全国に約700箇所あると言われていますが、これ以外に、ゆうやけ子どもクラブのように、自治体の独自補助などで運営されている団体などもあります。
障害のある子どもの放課後・学校休業日の活動の発展をめざした運動を進めている全国的な連絡会「放課後保障全国連絡会(略称:全国放課後連)」があります。
