産むまでも 産んでからも ---助産所は母の味方
昔から身近にある助産所。単に「お産をする場所」と思われがちですが、実はそれだけでなく、母乳や育児相談をはじめとした子育てに関するあらゆる支援を行っています。
東京都国分寺市の矢島助産院では、助産所の近くに、母親が気軽に立ち寄れるサロンを開設するなど、子育て支援に力を入れています。院長で、これまでに3600人以上の赤ちゃんをとりあげたベテラン助産師である矢島 床子さんに、助産師という立場から現在の出産や子育てについて感じること、いま助産師にできる子育て支援などについてお話をうかがいました。
分娩だけじゃない 助産所の役割
矢島 床子さんは、21年前に自宅で助産所を開業しました。取材当日もお産がまさに進行中で、時折妊婦さんの状況を聞きながら、話をしてくださいました。
助産所というと、その名称から、病院以外のお産の場所と思われがちですが、妊産婦や新生児の保健指導などを行う場所として設置された施設も含み、広く地域の人の母乳相談や育児相談に応じています。社団法人日本助産師会によると、会に登録している全国の助産所のうち、分娩を扱うところは半数程度だそうで、分娩を扱わない相談・指導の場所としての助産所が多く存在することが分かります。相談の内容ですが、思春期の相談や、更年期に関することなど、乳児期や妊産婦だけでなく広く女性の性や体全般についての相談に応じます。最近では、性教育の指導を求められて学校や地域の集まりに出向く助産師も増えているそうです。
助産師に寄せられる相談
母乳相談や育児相談は、助産所で出産したかどうかにかかわらずに寄せられます。「新生児が熱を出したとか、お母さんが乳腺炎になったとか、それこそ夜中に電話がかかってくることもありますよ。最近はうちの名前が知られるようになってきたので、それなら矢島さんに相談してごらん、と言ってもらえたということもあるようですけれど、助産所という存在を知らずに相談できずにいる人はまだまだいるのではないでしょうか」と語る矢島さん。
さらに最近の相談の傾向について、「子育ての狭さというか、柔軟性がなくなってきたように感じますね。周りの人だけでなく妊婦さん自身もそうですが、『こうしなくちゃならない』『こうするべき』とか、そういうのにとらわれてしまっている人がみられます。情報を与えられないと動けなかったり、情報に支配されて苦しんでいるように感じますね」。
周囲に相談できる人がいなかったり、身近に出産・育児のモデルケースがなく、育児書やインターネットなどの情報に頼らざるを得ない母親たちを、矢島さんはとても気にかけていました。
自身の体験から育児支援の必要性を痛感
もっと楽しく、もっと大らかに育児をしてほしい。そんな思いで母親たちに接する矢島さん自身も、年子の子どもの育児をしている頃は、孤独でつらい毎日を過ごしていたそうです。
「夫は仕事人間で、私一人で年子の育児に追われていました。それまで助産師として働いていたのに、出産によって完全に社会と断絶してしまった感じがして、子育てが楽しくない、育児ノイローゼに近い状態でした。人と話す機会がもてない、お茶を飲む時間もない。密室にいる状態は本当に苦しかったです。だから、同じ思いをしている母親にはそんな思いをさせたくない。お母さんたちを支えたいと思ったんです」。
そこで開業と同時に地域への開放日を設け、近隣の母親たちが気軽に立ち寄れるようにしました。平成16年からは、「ファミリーサロン」として助産院から独立した場所で、専任のスタッフによって運営されています。誰でも気軽に立ち寄れるサロンをはじめ、整体やアロマテラピーなどのメニュー、わらべうたなど母子で楽しむ教室、助産師によるお話しの会、などを実施しており、昨年度の利用者は延べ3000人以上。整体を利用する妊婦や、孫と一緒に遊びに来て以降は一人で訪れる人など、子連れの母親だけでなく幅広い年齢層の方の利用があるのが、幅広く女性をサポートする助産所が運営するサロンならではの特色です。「今はほとんど専任のスタッフに運営を任せていますが、みんながいきいきと活動している様子を見ることが私の喜びになっています」と矢島さんは話します。
子育て支援における助産所の役割とは…
これまでにお産を通して多くの母親たちに接してきた矢島さんは、「母親たちは出産を通して変わっていく」と言います。子育てをしながら資格を取得したり、安心してお産ができる場所を守るために子どもを背負って国会に請願に行ったりと、出産体験を原動力として、いろんな方向へ力を開花させ発揮していく母親たちの姿を見てきました。「私たちは、直接子どもにどうこうすることはないけど、母親が変わると子どもも変わるでしょ。母親が出産や育児を通して自分をチェンジできるように支えていくことが、助産師の役割じゃないかと思っています。お母さんたちとは、女性として私も同じ仲間。頼る・頼られるではなく、一緒に考えて行きましょうよ、というのが私の気持ちです」。
助産師は出産や体の専門家。と同時にその中には、自ら出産・育児を経験した“先輩”も数多くいます。専門家としての知識と自らの経験で、子育てをはじめ体も心もサポートする、長く幅広く女性を支える存在なのだと実感しました。(田)
(2009年4月30日 記)
矢島助産院のホームページはこちらです。(メールでの相談は受け付けていません)
また、社団法人日本助産師会のホームページに、全国各地の助産所の情報が掲載されています。(日本助産師会の登録会員のみ)
